2度目のニューイヤー駅伝出場を目指す"大工のチーム"重川材木店。4人の新人を迎えたことを第1回のルポで記事にさせてもらったが、第2回目の今回は主力選手たちの熱い思いを紹介する。シーズン前半のトラックでは記録を求めなかったが、夏を越えて主力選手たちは、どう手応えを感じているのか。つねに仕事との両立を考えている選手たちは、トレーニング面でも創意工夫を当たり前のようにしていた。
@練習を引っ張る2人
●いきなりペースアップした村井
取材に行った9月11日は、1泊2日のミニ合宿の1日目。重川材木店の関連会社である緑の森・木材工場(新潟県加茂市)を起点とする20kmの周回コースを使って、15kmの快調走というメニュー。集団で走ると聞いていたが、8km過ぎに村井健太がペースを上げた。登石暁とジョン・カギア、村山知之の3人が村井につき、この4人が一気に差を広げた。
だが、集団が崩れたというわけではなく、後方の7人は岩倉駿と渡辺絢也を先頭に、集団を維持して走っていた。2つに別れて、再び集団走を始めた感じだった。
「スタート前に場所を決めていたわけではなく、僕が好きなときにペースを上げたんです」と村井。ただ、村井のペースアップも、他の選手たちは予想していた範囲内のことだったようだ。ついていきたい選手はついていくが、渡辺だけはペースを上げずに、残った選手を引っ張る予定だったという。
「8kmに上りがあって、上りを走った勢いのまま下りも走りたかった。明後日の2000m×4本に備えて、若干上げておきたかったんです。1km3分50秒くらいのペースを、3分30秒くらいに上げたと思います」
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練習を見守る重川隆廣社長兼総監督 |
9月11日の15km快調走。
村井(左から2人目)がペースアップ
後は4人の集団で走った |
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残りの7kmを先頭の4人はペースを維持して走りきり、最後は3分15〜20秒くらいまでスピードを上げた。後方の集団も岩倉と渡辺を先頭にきっちりと走りきった。
起点の緑の森・木材工場までの残り5kmは、ダウンを兼ねたジョッグで戻る。選手によっては戻ってすぐ、簡単な補強をやる者もいる。緑の森・木材工場の研修施設は15人程度の寝食が可能で、調理師免許をもつ社員の手により、しっかりとした食事が用意される。
食事の前後に村井、登石、岩倉と、練習をしっかりと積めている3人に話を聞いた。
●自己新への手応え
キャプテンを任されている村井は、カギアを除けば競技実績の面でも一番の存在だ。箱根駅伝に出場経験があるのは村井と長部智博の2人しかない。村井は大東大時代の2003年に6区10位(チームは4位)、2004年に1区4位(チーム13位)という成績を残している。そして、チームで唯一、他の実業団チーム(SUBARU)に3年間在籍した経験を持つ。
5000m14分05秒、1万m29分06秒のベスト記録も頭1つ抜けている。2種目とも学生時代に出した記録であるが、その自己記録を更新できる手応えが出てきた。
「SUBARUでも"自分のやり方"で練習させてもらいましたが、"自分のやり方"が確立できていませんでした。不安になって余分なことまでやってしまって、メリハリがありませんでしたね。ポイント練習もここまでやったんだから記録は出るだろう、という頭があった。でも、ポイント練習をやっても自分のものになっていなかったんです」
今季の村井は焦っていない。6月の新潟県記録会、7月の新潟県選手権、8月の北陸選手権と5000mはすべて14分40秒台と、自己記録からは30秒以上の差があるタイムでしか走れていないが、全て予定通りという風情なのだ。
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キャプテンも務める村井。表情にも自信が垣間見えるようになった |
これは、重川隆廣社長(=総監督)と鶴巻健監督が、シーズン前に立てたプランでもある。第1回で紹介したように、シーズン前半は基礎的な走り込みだけを考えた。トラックに出ても、それは練習の一環という位置づけだ。
「長くやる時期は長くやる、速くやる時期は速くやる、という考え方です。僕としても、8月までのトラックは調整せず、レースの流れに乗っただけ。全ては12月に13分台を出すために組んでいます」
重川材木店に入社して3年目。年齢的にも28歳となる。学生の頃は体力があり、指示されたメニューをこなすことができた。今は自分の状況を見極め、1つ1つ、どうすれば走れるようになるか道筋が見えるようになっている。
村井の仕事は大工部門で、そちらもしっかりとこなす。
「長距離選手としてだけでなく、人としてのスタミナもついている。同じメニューをこなしても、大工をやっている人間の方が強いと思いますよ。仕事も限られた時間で効率よくやる必要があります。陸上競技も同じです」
大工とランナーの二足の草鞋をこなす。重川材木店を象徴する村井が快走を見せれば、チームも盛り上がっていくことだろう。
●練習十分の登石、その課題とは?
15km快調走の途中で村井がペースを上げたとき、登石暁も迷わずそれについて行った。ついたというよりも、ぴったり横に並んで走った。
「8月の北陸選手権(15分01秒)から調子を落としてしまっていましたが、最近は疲労も抜けて動くようになっていました。調子を上げていく過程での今日の練習でしたから、イーヴンで行くのでなく、スーッと上げて次の練習(2日後の2000m×4本)につなげたいと思っていたんです。村井さんが行かれなくても、どこかで自分で出ていたと思います」
この日のメニューに限らず、村井と同じ練習内容をこなそうとしているのが登石である。ポイント練習のタイム設定も、つなぎの日のジョッグも、村井に合わせて行なっている。大東大やSUBARUのトレーニング法についても、積極的に聞き出した。
「つなぎの日のジョッグを僕らはポイント後の疲労抜きか、ポイント前にリズムをよくするか、という考えしかなかったのに、村井さんは2時間とか3時間ガッツリやることもある。ダウンのやり方も参考にしました。僕は20分くらいで乳酸を除去できればいいと考えていましたが、村井さんはダウンとしてだけでなく、次の練習に向けてのスタミナづくりの意味で、ゆっくり長く走られていた。そこで、一緒にやらせてもらおうと7月頃にお願いしました」
練習で積極的な走りを見せる登石 |
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登石は第1回でも紹介したように、それまでも練習を継続してできていた選手だが、試合ではなかなか結果が出せない。入社3年目。昨年14分36秒まで自己記録を縮めているが、練習のタイムからすると物足りない。今年の5月、6月の5000mも14分50秒台で、7月、8月は体調不良もあって15分かかってしまった。
「村井さんと同じ練習をしても余裕を持てていないからだと思うのですが、練習中の2000m+1000mや、刺激の3000mでは自己新が出ています。それでも試合につながらない。弱すぎます。そこが自分の課題です」
練習に取り組む姿勢では、全ての選手が一目置く存在。第1回で紹介したように、仕事に慣れることで競技成績も上昇した選手。登石が結果を出せばチームも自信を持てる。
Aセンスを感じさせる選手
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