@4人の新人たちの実績と意欲
感動のニューイヤー駅伝初出場から3年(重川材木店密着ルポ2005参照)。重川材木店が2度目のニューイヤー駅伝出場を目指している。3年ぶりに取材をした“大工のチーム”は、メンバーが完全に入れ替わっていた。以前のチームと比べると、メンバーの大学での実績や持ち記録は劣る。しかし、“仕事との両立”という重川材木店の理念は、3年前と変わることなく継承されていた。
●前向きな姿勢の選手たち
この春、重川材木店は4人の新人選手を迎えた。
選手 |
出身校 |
種目 |
自己記録 |
主要大会成績 |
早稲田 遼 |
国士大 |
1万m |
30分28秒 |
4年時に箱根駅伝メンバー(補欠) |
三浦拓也 |
滋賀学園高 |
5000m |
14分47秒 |
3年時に全国高校駅伝出場(3区区間37位) |
宇田智裕 |
平成国際大 |
1万m |
30分25秒 |
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長部智博 |
大東大 |
1万m |
29分50秒 |
2年時に箱根駅伝出場(7区区間14位) |
早稲田は滋賀学園高出身で、高校時代は15分20秒という記録しか持っていなかった。国士大に進んだが、周りは14分台を高校時代から持つ選手ばかり。そのなかで頭角を現すのは容易なことではなかった。2年時からなんとか、1万mで30分台まで持ってきたが、箱根駅伝の16人のメンバーには入れない。
「僕はBチームでしたが、Aチームとの合同練習でも、ついて行くことができました。しかし、レースになると結果を出すことができなかったんです」
練習でいっぱいになってしまって、タメることができなかったのだろう。
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落ち着いた雰囲気で競技と仕事への抱負を語った早稲田 |
しかし、大学4年時の11月に30分28秒と自己記録を15秒更新。同レベルのチームメイトにも先着して、16人のメンバー入りを果たした。しかし、箱根駅伝の本番は走れなかった。
「11月の自己新は、4年間の思いをぶつけて出した結果です。レースに合わせるこつを体得したわけではありませんでした」
自分の力では実業団では通用しない。そう考えて一般企業への就職活動をしていたが、高校時代の恩師から重川材木店を紹介されると、気持ちが大きく動いた。
「大好きな陸上競技ですし、普通に就職しても走り続けたと思うんです。実業団女子チームのランニングコーチになることも考えていたくらいで、陸上を続けられるなら、続けたい気持ちが強かったんです」
大学時代の練習への姿勢からもわかるように、与えられた環境の中で前向きになるのが早稲田という選手。大工仕事にも前向きに取り組んでいる。
「予想以上に大変ですが、やりがいも感じています、仕事や人間関係に慣れていけば、走っていけると感じています。実際、先輩たちも大工をやりながら自己新を出している。職場の環境に慣れて、大学のときの自己記録を更新したいと思っています」
●将来は起業の応援も
滋賀学園高で早稲田の4年後輩となるのが三浦拓也である。今年の新人では唯一の高卒選手だが、高校時代の実績はなかなかのもの。5000mは14分47秒がベスト。チームの準エースとして、全国高校駅伝は3区を走った(区間37位)。今季中の自己記録の更新が目下の目標。全日本実業団ジュニアの部出場が決定し、モチベーションも高まっている。
「大学進学は考えていませんでしたが、ずっと頑張ってきた陸上競技なので、やめたくはなかったんです。高校の監督に相談して重川材木店を紹介してもらいました。社会人として走る以上、責任もこれまでとは違います」
唯一の高卒新人の三浦だが、しっかりとした考えを話した |
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大工になって2カ月足らず。仕事のなんたるかを、肌で理解できているわけではない。それでも、棟梁をはじめとする大工たち(4〜5人が1つのチームを形成して家造りをしている)を間近で見て、感じ取っているものはある。大工とは? という問いかけに対し「陸上競技と一緒で、日々の積み重ねだと思います」と答えていた。
「仕事で一人前になって、陸上でも一番になるのが夢です。両方、頑張っていきたい。ケガや病気がなければ、10年後も走っていたいですね」
重川隆廣社長は「将来、早稲田、三浦と私が協力をして滋賀県に住宅会社を起業したいと思っています。そのときは、お金も人も出してあげます」と言う。選手が建築関係者として一人前になれば、起業への応援をしますと言っているのである。“建築関係者で長距離チームを作る”という重川社長の考えは、決して建前ではない。本気でそう考えているからこそ、こうして人が集まってきているのである。
●大工兼陸上選手の生活
宇田智裕も、大工と長距離ランナーを両立させる道を選んだ。
「大学(平成国際大)の先輩が二人、重川材木店に入社していましたし、走ることを続けたかったんです。仕事との両立に不安もありましたが、飛び込んでみなければ何もわかりません」
実際に飛び込んでみた宇田に、大工兼陸上競技部員が、どのような一日を過ごしているかを話してもらった。
「5時に起床、5時30分から朝練習で寮の近くを走ります。1km5分くらいのペースで30分〜60分。シャワーと食事のあと会社に向かいます。集合の後チーム毎に建設現場へ向かい、8時から作業を始めます。火曜日、木曜日、金曜日が3時上がりで月曜日と水曜日が、フルタイムでしっかりと働きます」
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仕事への意欲も十分の宇田 |
大工としてはまだまだ駆け出し。壁に断熱材を入れていく作業や、土台と柱をつなぐ“金物”を打ち付けていく基礎的な作業などを担当している。見習い大工の役割ではあるが、頑丈で暮しやすい住宅を造る大切な役目でもある。
「与えられた仕事をしっかりとこなしていくことで、競技と両立させるリズムを作っていきたいです」
重川材木店にエリート選手はいないが、走ることへの意欲にあふれた若者ばかり。そういう選手しか入ってこない。だからこそ、走り続けられる環境に感謝をし、仕事と両立させることに積極的なのだ。
平成国際大は過去に1度、箱根駅伝に出場しているが、宇田が在学中は出場を逃し続けた。それだけに、ニューイヤー駅伝出場への思いは強い。
「北陸の枠が“2”になる今年はチャンスなので、是非ともニューイヤー駅伝に出たい」
宇田の目標タイムは1万mなら30分00秒。達成すれば「チーム内では6〜7番目のタイム」(重川社長)となる。それを実現させるためにも、一日も早く仕事に慣れることが重要になる。
A「秋に自己記録レベルに」
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