重川材木店密着ルポ2009-10
第2回 主力選手たちの熱き思い
@練習を引っ張る2人から
Aセンスを感じさせる選手

●重川ならではのミニ合宿
 9月11〜12日のミニ合宿で、今年に入ってからの合宿は11回目。3月までは埼玉県の森林公園で4〜5泊程度のものを5回、7月以降は山形県の蔵王・坊平高原で3回、そして新潟県加茂市の緑の森・木材工場でのミニ合宿が3回目である。
 加茂市は良質の木材の産地で、桐箪笥の全国生産量の70%を占める。コシヒカリの産地でもあり、平野部の水田はこの時期、黄金色に染まる。小高い里山にあり、そこそこ起伏のある20kmのロードコースがとれるし、緑の森・木材工場に隣接するスキー場を走ることもできる。現在、市がクロスカントリー・コースを造営中で、重川材木店からもウッドチップを提供する。
 緑の森・木材工場は新潟県でもっとも大きな木材コンビナートで製材工場のほか乾燥施設・加工場をもち周辺に食育・木育を行う棚田や研修林を持つ。その一角の研修施設を使ってのミニ合宿は重川材木店の特徴の1つだろう。選手たちが勤務している重川材木店本社(新潟市升潟)から車で約1時間の距離。その日の仕事を終えてからの移動&練習が可能で、2日目の午前中までしっかりと練習ができる。夜は2つの大部屋に布団を敷き、重川社長も一緒に泊まることもある。選手同士、選手とスタッフがコミュニケーションをとりやすい環境だ。
緑の森・木材工場の研修施設
の前に集合し朝練習に向かう
緑の森・木材工場の研修施設。
多目的に使用できる
緑の森・木材工場から100mほどの
距離にあるスキー場も練習で使用できる
 数週間にわたる合宿のような負荷や効果を求めることはできなくても、重川材木店のように仕事との両立をしている環境の選手には、ちょっとしたアクセントになる。普段から練習に積極的な登石も、「景色も新鮮で、起伏のあるコースで距離走やジョッグを行い、刺激を入れていける」と効果を話している。

●力を出し切れる選手
 合宿なので全員が同じ練習メニューを行うのが原則だが、その"こなし方"には違いも出る。@の最初に紹介したように、今回の15km快調走では、村井が自身の判断で8km過ぎにペースアップをし、登石ら3人の選手が村井のペースに合わせた。
 しかし、好調の岩倉駿がつかなかった。
「特に、今日はそこまで行く必要はないと感じました。明後日の練習(2000m×4本)で追い込めばいいかな、と思って」
 村井や登石とは、この日の練習の位置づけや、走っている最中の感覚に違いがあったのだろう。
 岩倉は平成国際大から入社2年目。5月の北陸実業団5000mは14分34秒60、6月の新潟県記録会では14分33秒67。2大会ともカギアに次いでチーム内2番目だった。7月の県選手権は疲労が出て「ペース走」(岩倉)にしたが、8月の北陸選手権はカギア、村井に次いでチーム内3番目と安定している。今後、調整をして試合に出れば、大学3年時に出した14分31秒の自己記録更新は間違いないだろう。
安定した強さを見せる岩倉                      朝練習中の岩倉
 昨秋の全日本実業団では1500mに出場し、3分52秒57の自己新で予選を突破した。重川材木店のなかでは屈指のスピード派だが、逆に、距離を踏むことができないタイプ。重川社長によれば「1カ月に500〜600kmがちょうど良い、それ以上やると故障してしまう」という。
 しかし、センスを感じさせる選手であるのも確か。大学の先輩でもある登石は「つねに自分の力を出し切れるタイプ。話を聞くと、"感覚"という言葉が多く出てきます。第三者には正確にわかりませんが、レースに向けてやっていくべきことが彼の中でつかめているのでしょう」と言う。
 岩倉自身はどう考えているのか。話を聞いていくと、そこが全てではないだろうが、調整段階に特徴があること感じられた。
「練習でストレスを貯めないこと、でしょうか。レースの前日か2日前に刺激の1000mを入れるのが定番ですが、それが絶対に正しいわけではありません。僕もやることはありますが、それよりも体の欲求に素直になることを優先しています。やらないで不安になることよりも、試合で出しきれないことの方が嫌ですから」
 昨年も8月まではチーム内でも「後ろの方を走っていた」(重川社長)が、9月の全日本実業団1500mで自己新を出した。今季もここまで、順調に来られたわけではない。昨年11月に指を負傷、今年1月には虫垂炎になった。ジョッグとウォーキングしかできず、本格的な練習が再開できたのは4月中旬。それでも、5月、6月と自己記録に近いタイムを連発した。
 ただ、練習の積み重ねがない点は、ここに来て影響が出ていると自身で感じている。
「(体重や走りが)軽くなってしまって追い込みがききません。ジョッグ中に何度かインターバルをしたりしています」
 ミニ合宿の15km走では、ペースに変化をつけなかったが、走り終えた直後に200mくらいダッシュをした。
「今日は、一発でいいと判断しました」
 走り込むのではなく、ジョッグなど練習中にスピードで追い込む。それが岩倉のやり方のようだ。
 村井と同じグループで大工をしているが、大工になることも自ら志願した。仕事に慣れるにしたがって競技も上手く行き始めたのは、重川材木店で結果を出している選手たちと共通している。ただ、本人にはその自覚はなく、「僕は元から精神的なストレスを感じないタイプ。考え込んでもしょうがないですから」と微笑む。
 重川社長も「岩倉は『レースが楽しい』とよく言っています。ストレスと感じないのが力を発揮できる一因」と同じ見方だ。

●自力で駅伝メンバー入りを
 自己新記録こそ出していないが、主力の3人はここまで順調に練習を積めている。体調が落ちる時期はあっても、故障がないことが大きく影響している。それは他のメンバーにも言えることで、取材をした日の15km快調走で不安があったのは五頭智彦くらいだ。
 重川社長と鶴巻監督が、今年のトレーニング計画を立てる際に狙ったのが、まさにその点だった。
「3月の時点では思いきってトレーニングができる選手の方が少なかった。基礎的な体力をつけたいと思い、角田山(標高481.7m)のゆるやかな上りや山頂付近での120分走を週に2回入れたりしました。その後も、トラックで記録を求めるのでなく、距離走を中心にして、しっかり走れる体力をつけることに主眼を置きました」
 その過程で状態を上げてきた一番の選手が村井である。村井も入社して2年間は、故障がちで練習が思うように継続できなかった。重川社長の目からは、登石の方が練習はできていたが、そこに村井が追いついて来た。そうなると、ベスト記録の違いから、村井の方が良い練習ができるようになる。しかし、その村井に登石が食い下がり始めた。
「2人とも7月は900km、8月は800kmくらい走っている。2人にとって良い循環になっていると思います」と重川社長。
 2人とも今後、自己記録を出していく課題はあるが、練習内容的には間違いなく良い方向で進んでいる。そして、岩倉のようにタイプの違う選手も、内容は違っても順調に練習を積めている。チーム内に色々な成功パターンが生じてきているのだ。
 渡辺絢也はスピードこそないが、月間1000kmを走り込んだ。第1回で紹介した新人たちは、簡単にはペースをつかめないようだが、早稲田遼が上向きかけている。
「早稲田から『今日はA組で上の3人と一緒に走りたい』という申し出も出始めています。今の主力の3人は意識も高く自分たちでしっかりとやっていますが、去年は、今の中堅たちと似た状態でした。今後は中堅選手たちがどこまで、上を向いてくれるか」
 こう言ったあと重川社長は、駅伝のメンバー構成についても話した。現時点ではカギアと、今回紹介した3人のメンバー入りは濃厚。他の選手たちは、残り3枠に食い込んでいかないといけない。それには、主力が頑張ってチームの雰囲気が良くなり、それに乗って自分も上げていけばいい、という考え方ではダメだという。
「全体の力が上がればいい、というあやふやな姿勢ではダメだと思います。誰が、どの時点でメンバー入りを決めていくか」
 今後はトラックでも記録を求められるようになっていく。特に、中堅といわれるボーダーラインの選手たちにとっては、生き残りを懸けた戦い。主力3人を引きずり降ろすくらいの気持ちが必要かもしれない。
森と田園に囲まれたのどかな風景の中を走り込む選手たち


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