重川材木店密着ルポ2009-10
第1回 新人たちが強くなる道筋
@4人の新人たちの実績と意欲から
A「秋に自己記録レベルに」

●故障を克服したいと入社
 新人4人のなかでは長部智博だけが、箱根駅伝出場経験を持つ。大東大2年時に7区で区間14位。6区の選手が区間3位で前との差を大きく詰めたが、長部が良い流れを途切れさせてしまった。
「チームもシード権を逃してしまいました(14位)。翌シーズンの予選会メンバーに入ってしっかり走る。本戦まではイメージできませんでしたが、区間14位の借りを返したいと思って取り組みました」
 しかし、その後の長部は予選会も本戦も出場していない。左脛(シンスプリント)と、腸けい靱帯を痛めたためだ。箱根駅伝を前に焦りが出たのか、大学3年時の12月に悪化させ、4年時は「ジョッグくらいしか練習はできなかった」という。
 新潟第一高校出身。地元実業団チームのニューイヤー駅伝出場に貢献したい気持ちも大きかったが、何よりも「大学では不完全燃焼でした。このままでは終われない」という気持ちが強い。
 その気持ちと体が徐々に噛み合い最近は朝練、本練と二部練習を行いジョッグの距離も伸ばしてきた。目標は? という質問に対し「ケガを一日でも早く治すこと」と答えるが、“秋までには”との意欲が感じられる。
唯一の箱根駅伝出場選手の長部
 競技実績もそれほどでもなく、故障も長引いている。通常の実業団では採用されにくいが、仕事との両立を大切にする重川材木店だからこそ、採用できた選手だろう。
 話していて競技への思いがストレートに伝わってくる。
 配属された床暖房での仕事をきっちりとこなすことで気持ちが安定すれば、故障の回復も早まるだろう。

●トレーニングの流れ
 総監督でもある重川隆廣社長は、以前とは違ったトレーニングの考え方をとっている。3年前は個々の選手に、前所属チームや学生時代の実績があった。ポイント練習や合宿は合同でやったが、トレーニングの“流れ”は選手個々や、中心選手に任せている部分が多かった。
 それを、今のチームは“全体の流れ”を指導陣が作るようにしている。「秋に全員が自己新を出すところまで持っていくのが目標です」と重川社長。
「そのためにはもう一度、基礎的な走力を徹底して鍛えようと考えました。目標記録を自己新記録に設定するのでなく、まず過去の自己記録におき、日々の距離走を着実にこなす。具体的には角田山(標高481.7m)のゆるやかな上りや山頂付近での120分走を週に2回、他にトラックでのペース走を加えています。6月、7月、8月の合宿もクロスカントリーと距離走をメインに入れながら、8月一杯までは走り込み中心の練習を続けます」
柔和な表情で選手たちに
語りかける重川隆廣社長
 この練習内容のもう一つの狙いは選手のストレスを少なくすること。ストレスは仕事にも競技にも悪影響を与える。特に新入社員は仕事に慣れるまでは気持ちにゆとりを持ちながらの練習メニューが組まれている。
 重川社長は言う。「9月からのスピード練習をへて10月にトラックでの自己記録、11月の北陸実業団駅伝、12月のトラックでの自己記録更新を今年のチーム目標としています」

●3年目の登石の成長
 新人選手を例に紹介してきたが、重川材木店の特徴である“仕事と競技の両立”の実践例は、新人選手で説明することはできない。そこで取材をさせてもらったのが、3年目の登石暁である。平成国際大で宇田の2つ先輩になり、地元選手(東京学館新潟高卒)という点では長部の先輩にもなる。
 高校時代は5000m15分15秒の選手。大学3年時に14分41秒まで伸ばしたが、チームの箱根駅伝出場はなし。2007年に14分40秒、そして昨年14分36秒と、入社後に2年続けて自己記録を更新している。
 何より、現時点での練習が最もできている選手。チームはトラック種目に重点を置かない今季前半も、登石はある程度、記録を狙っての出場があるかもしれない。
 自身の充実ぶりの背景を、登石は次のように説明した。
「1年目は仕事で疲れていっぱいいっぱいになって、リズムができませんでした。夏に貧血になって、練習の質と量を抑えたことで、秋にたまたま自己新が出ました。その冬も仕事がまだ上手くこなせなくて、本当に集中して練習している感じではありませんでした」
 登石は材木の手配を行う部署に在籍。発注作業や在庫管理、関連会社の「緑の森・木材工場」との連絡が主な業務で、「ときどき、自分で材木を運ぶこともある」と言うが、基本的にはデスクワークだ。大工ではないが、仕事を覚えられないうちは心身の疲労が大きい。それが、重川社長の指摘するストレスだ。
「昨年の8月と9月の前半は故障で、ほとんど走れませんでした。でも、その頃に仕事に集中する期間がありました。上手くできるととても言えませんが、少しは仕事を覚えられたのです。要領をつかんだというか」
 できるようになった、と言い切れないのは、3年目社員としては致し方ない。
「9月後半から練習を再開して、10月後半から調子が上がり、12月の記録会で14分36秒で走ることができました」
練習でも先頭を引っ張るなど積極姿勢が目立つ登石
 最近は1000m×5本を、昨年よりも2〜3秒速い2分55秒で余裕を持って走りきることができているという。
 その登石が、今年の新人たちを見て次のような感想を持っている。
「苦労しながら頑張っているな、という印象です。学生から社会人への転換ですから皆、戸惑いがあります。苦労しながら覚えていくんです。仕事を上手くこなせるようになると練習への集中力も違ってきます」
 登石が自身の経験を上手く後輩たちに伝えられるようになると、重川材木店というチームが確実に成長していく。


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