重川材木店密着ルポ2005 第2回 初めての夏合宿を経て
「大工のチームでニューイヤー駅伝に出場」を目標に掲げて船出をした重川材木店。チーム発足の経緯を昨年、「崇高なる職人ランナーたちの挑戦」と題して詳しく掲載した。その重川材木店にこの春、多くの新人選手が加わった。かつては大学や実業団の有力チームに在籍していた選手が多いのが特徴だ(重川材木店追跡ルポ2005 第1回 “一風変わった”新人選手たち)。つまり、なんらかの理由で力を発揮できなくなった選手たち。そういった選手たちが、夏合宿を経て、どう変わってきたのかをレポートする。
@ 重川材木店初の合宿 契機となった野尻湖の30km走
9月の菅平合宿。3日目の12000mコントロール走
の練習風景
重川材木店最初の合宿は6月。妙高高原で2泊3日で行われた。その最終日には野尻湖の周回コースで30km走。吉田繁は駒大2年時に、同じコースで練習したときのことを思い出していた。
「走っている最中に記憶が飛んでしまったんです。気が付いたら、ヒザから崩れ落ちて倒れていました。初めてサングラスを付けて練習をして、給水をとらなかったのがいけなかったのでしょう」
野尻湖の周回は約15km。最初の500mがダラダラ続く上り坂で、1周する毎にきつく感じられるようになるコースだ。「ジャブのように効いてくる」と吉田は言う。10km過ぎには「アッパーカット」の坂もある。吉田が倒れたのは35km走の最中。そのコースを2周して、3周目に入ったときのことだったという。
「当時はそこまで追い込めていたということ。6月の合宿で走ったとき、自分の原点に戻った気がしました」
萩野智久、進藤英樹、松本真臣、吉田の4人が、最後まで設定タイムで走りきった。吉田が重川材木店に入社して3カ月め。初めての合宿であり、そこまで追い込んだ距離走も初めてだった。
「新潟にとどまってやっていると、市民ランナーのように“頑張って走ればいい”くらいの感覚に陥ることもあります。合宿をすることで、そういった意識がなくなりました。実業団選手として、1回1回の練習を自分の実にしないといけない、と自然に考えるようになりましたね」
大学の時も同じような感じだったという。大学2年の夏合宿から、「練習が実になる」と感じ始めた。その半年後に箱根駅伝6区の山下りに、衝撃的なデビューを果たした。トラックの実績は皆無だった吉田が区間2位と快走したのだ。3・4年時にも区間5位・3位で、いずれもチームの優勝に貢献。記憶が飛んだ夏合宿をきっかけに、箱根の常勝チームの“下りのスペシャリスト”に育っていった。
9月の菅平合宿。4日目(最終日)の25km走。
右から2人目が吉田
重川材木店にとっても、6月の合宿は大きなきっかけとなりそうだ。いや、“なった”と言ってもいい。陸上競技総監督でもある重川隆廣社長は、最初の合宿と野尻湖の30km走を次のように振り返っている。
「去年は合宿は1回もやっていません。それは、私が合宿の効果を理解していなかったから。対費用効果を考えたら、そこまでの価値があるのかな、と。その認識を改めたのが6月の妙高合宿、特に野尻湖での30km走でした。新潟だったら20kmか25kmが精一杯ですが、違う環境でやれば30kmが、同じ疲労度でこなせるのだと感じました」
野尻湖のコースは確かにタフだが、緑も多く、目を転じれば湖面も眺められる。気持ちのいい景観は、選手の走る意欲を増す効果がある。また、合宿ということで、仕事を離れて練習に専念できる。そういった場所の変化や時間の余裕が生じることに加え、選手の気持ちも“走るために違う場所に来ているのだから”と、いやがおうにも集中力が増す。そういった環境の変化の全てが、ハードな練習を可能とする。
「選手たちの走り終えた後の充実感が、それまでとは違っていました。走り込みの効果もあれば、心の部分の効果もある。食事など、寝食を共にすることで、スタッフや選手同士の関係も、より密になれます。いいことずくめだな、と最初の合宿で思いました」
選手たちも同じように、その合宿でチームの雰囲気が変わったことを感じている。松本真臣も、そう感じている1人だ。現在、チーム内で練習が最もできている、と言われている選手。
「チームがすごくまとまりました。全員のモチベーションが高まったと思います。合宿の前と後では、練習への取り組みが変わりました」
第1回の記事で紹介したように、松本は駒大に吉田と同期入学した。しかし、すぐに故障をして福島に帰ったため、野尻湖合宿を経験していなかった。当時、今のような前向きな考え方ができれば、大学を中退することもなかった。「野尻湖は初めて。いいコースで、いい練習になった」という感想を話すこともなかったわけだが、過去を悔やむ素振りは今の松本にはない。
取材に訪れたのは4回目の合宿となった、9月の菅平合宿。松本の好調さは、インターバルで今季13分台に入った萩野に勝ったり、距離走のあとのプラス練習への取り組み方にも表れていた。駒大入学時には、プラス練習を張り切りすぎて故障をする悪循環を断ち切れなかったが、今の松本は違う。そのあたりはBで紹介したい。
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