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【寺田的取材後記】 箱根駅伝は盛り上がったのか?  前編 
後編
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1月12日配信のメルマガ・バージョンの記事に加筆

◆視聴率は高かったが、前評判の高かった選手が軒並み…◆

 以下は1月5日の新聞記事である。

スポニチ芸能ニュース01/05 10:13
日テレ「箱根駅伝」視聴率 歴代4位
 日本テレビが2、3日に放送した「第78回箱根駅伝」の平均視聴率が27・3%を記録、歴代4位の高視聴率だったことが4日、ビデオリサーチの調べで明らかになった。2日の往路は平均視聴率27・5%(歴代7位)、3日の復路は同27・0%(同11位)。瞬間最高視聴率は法大のエース徳本一善(4年)が無念のリタイアをした2日午前9時29分の36・6%。

 平均視聴率27.3%の駅伝に対し、「盛り上がったのか?」と疑問を呈するとは何事か、とお怒りの向きもあるだろう。疑問の余地はない、箱根駅伝は盛り上がったのである。世間的には、間違いなく…。だが、陸上競技にちょっと詳しい人なら、誰でも次のように思っているだろう。今回の箱根駅伝は、どのチームにもマイナス要素が多いなかでの盛り上がりだったと。

◆上位候補全てが戦力ダウンの中での戦い◆

 第一には、あらためて言うまでもなく、故障者が多かったことが挙げられる。
 岩水嘉孝(順大)の肺気胸による欠場。徳本一善(法大)の2区途中棄権。神屋伸行(駒大)も2区の10km過ぎに座骨神経痛の症状が出て後退。藤原正和(中大)は11月の故障が響いたのか、圧倒的な力を見せると思われた5区で区間3位。6区の区間新が期待された金子宣隆(大東大)も長いスパンで見れば故障があって、自己の区間記録に43秒届かなかった。山梨学大期待の2年生、高見澤勝も欠場した。大会前に各メディアで大きく紹介された選手が軒並み…という事態に陥った。

 ということは取りも直さず、優勝候補と言われたチームが戦力ダウンした、ということに他ならない。徳本が額面通りに走っていれば、法大は往路の主役を演じたはずだ。その往路優勝を4年ぶりに果たした神奈川大が、「いいかな」と思われたが、復路は6区で首位を駒大に明け渡すと、ずるずると後退してしまい大手町のフィニッシュでは6位(復路11位)。往路重視の布陣だったのだろうが、結果的には往路偏重の布陣となってしまった。

 駒大は神屋のレース中のアクシデントだけでなく、内田直将と松村拓希の2人の1万m28分台ランナーを欠いた。それでいて危なげなく優勝してしまうのだから、逆に層の厚さを証明することにもなった。大八木コーチが目指してきた今年のチームは「主要選手が使えなかったら痛いが、7〜8番手の選手の代わりはいる」というチーム。それが、主要選手といえる28分台2人が欠場しても勝ってしまう。駒大が強かったのか、他が弱かったのか…。
 今年の駒大は、本来なら圧勝してもいい戦力だった。今回のレースは確かに危なげなかったが、総合記録は2位・順大と3分59秒差。これは、過去の1・2位差と比べても、決して大差ではない。どこか1区間、駒大が悪かったり、あるいは順大に大快走があったら、逆転もあり得た。もちろん、岩水が出場していたら、と思わせる差である。

 順大の岩水抜きの2位は健闘と評された。だが、不満も何点かある。1区の入船満が区間賞を取ったが、駒大の1区が内田から北浦に代わった時点で、区間賞ではなく駒大との差を大きくすることに目的を変更してもよかったのではないか。2区の奥田が絶好調で、1区はちょっとでも前に出ておけばいい、との作戦だったのだろうが…。
 12月の練習で10kmを28分台で走るなど絶好調だった奥田も、終わってみれば区間6位。メンバーの大半が年末に食当たりにあったという。その影響が出てしまったのだろうか。クインテットの1人、4区・坂井も駒大・松下に1分半やられてしまった。
 救いは下級生だけのメンバーで復路3位となった点だ。来年につながる結果と思われたが、仲村監督が言うように「核となる選手」が現れないと、来年は苦しいだろう。

 上位候補のほとんどが、マイナス材料を抱えるなかで戦っていた。唯一、プラス材料が重なったのが、4区間で区間賞を取り、3位に食い込んだ早大だろう。4区間で区間1位なら優勝してもおかしくないのだが、それが駅伝というもの。区間賞の数よりも、タスキをつないだタイムで優劣を競うのである。

◆記録的にも低調◆

 記録的にも、今大会は今ひとつだった。各区の区間歴代記録を見ればはっきりする。
 往路の5区間でそれぞれの区間歴代5位以内に入った記録は皆無なのだ。復路は7区で歴代5位、8区で歴代4・5位、9区でも同じく歴代4・5位の記録が生まれている(コース変更後間もない6・10区は考慮対象外とした)。

 レベルが「上がった」「上がった」と評される箱根駅伝のはずである。レベルが上がったのは各チームの5〜10番目の選手ということなのか。その結果が、シード権争いの激化、上位校と下位校のタイム差の短縮となっているのだろうか。

◆レースの流れは◆

 不満を感じた内容を原因別、学校別に述べてきたが、それらをレースの流れとして振り返ると、以下のようになる。
 1区は区間1位と15位の差が大会史上最僅少だったが、それはスローペースが理由で結果的に区間記録よりも3分以上(距離にして1km以上)悪かった。
 2区では有力選手が欠場したり、アクシデントがあって、期待されたエース同士のぶつかりが見られなかった。稀にみる混戦(区間9位までが区間1位と1分以内の差)だったが、区間1位の記録は過去5年間で最低だった。
 3区で予選校の早大がトップに立った。2・3区の連続区間賞が光った。
 4区で駒大が松下の区間賞の走りでトップに立ったが、松下のタイムでさえ区間歴代5位に食い込めなかった。
 5区で神奈川大がトップに。往路の全中継所でトップに違う大学が立ったケースは史上初めてである。それだけ混戦(タイム差の少ない)だったわけである。しかし、期待された藤原は区間3位に終わり、区間賞の力走で5人抜きを見せ、3位にチームを押し上げた野口英盛(順大)も、やっぱり区間歴代5位に入っていない。

 往路は明らかに、期待はずれの内容だった。

 6区は駒大・吉田の好走(トップに進出)はあったものの、期待された金子(大東大)は区間記録に及ばなかった。
 7区以降は駒大が危なげない強さを見せたが、7区・揖斐祐治の3年連続区間賞、9区・高橋正仁の区間新は成らなかった。
 確かに、10区と復路で新記録が出たが、コース変更があって2〜3年の部分で出た記録だった。

 個々の選手やチームを責めているわけではない。
 1区のスローペースは、レースの流れがあるから仕方がない。区間記録と差がついても、それは今回の勝敗とはまったく関係ない部分だから、当事者の1区ランナーたちにとってはどうでもいいことだ。
 2区で学生エース同士のせめぎ合いが見られなかったが、有力選手に故障があったから仕方がない。過去5回で最低タイムだったが、これも同じ理由で、仕方がない。
 4区・松下や5区・野口のタイムは区間歴代5位にも入っていないが、往路の終盤の区間は風の影響もあったのだろう。
 6区の金子が区間新を出せなかったのも、この1年間の練習が前年ほどできなかったことを考えれば仕方がない。9区・高橋正仁は区間新が成らなかったが、3年連続(10・9・9区)区間賞だった。

 復路の方がやや、期待に添う内容だったように思えた。

<後編に続く。たぶん後編の方が面白いです>