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【寺田的取材後記】 箱根駅伝は盛り上がったのか?  後編 
前編
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1月12日配信のメルマガ・バージョンの記事に加筆

◆箱根駅伝の“故障者”について◆

 細かい部分にまで言及してきたが、盛り上がりに些細な疑問を感じた理由は、有力選手の欠場・故障・不調という要素が大きい(だったら、こんなに長々と書くなよ、と言われそう)。

 元旦の全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)でも、故障者は目に付いた。エドモントン世界選手権代表の高橋健一(富士通)、永田宏一郎(旭化成)らは明らかに故障の影響があった。中馬大輔(NEC)は走行途中に脚を引きずり始め、徳本と同じようになる寸前だった。
 しかし、箱根駅伝とは大きな違いがある。実業団選手の場合ニューイヤー駅伝は、他の大きな大会(世界選手権や日本選手権、全日本実業団、国体など)を最大の目標とするなかで、いかにそれなりの力を発揮するか、という大会。つまり、他の大会を目指す中で故障をするかもしれないが、故障者が多いなかでいかに勝つか、という側面が構造的にある。1カ月前の福岡国際マラソンを走ったばかりの選手や、1カ月後の東京国際マラソンを目指している選手もいる。
 元から、マイナス要素をいかにカバーして戦うか、という大会なのだ(だからレベルが箱根駅伝より高くても、盛り上がらないのかもしれない)。
 その点、箱根駅伝は(関東の)学生選手にとっては、年間最大の目標。本来、プラス要素の多い大会であるべきなのだ。

 では、どうして故障者が出てしまうのか。
「スポーツ・ヤァ!」(角川書店)の記事に書いたことだが、当事者である神屋伸行(駒大)が以下のように話しているのだ。

「今回、走れていないのは前評判の高かった選手たち。みんな、責任感を背負ってきた、背負いすぎてきたんです。自分の現在の状態以上に、区間記録とか、区間賞とかを期待されます。練習でどうしても、理想のタイムを追ってしまう。気づいたら、オーバーワーク…ということになる。でも逆に、背負っているものがあるからこそ、結果を残してこられたんです。だから、徳本だって(ケガをしたあと)2`を走り続けたと思うし、自分も後半粘れたんです」

 世間の注目を集める箱根駅伝の功罪、両刃の剣的とも言える部分だろう。
 だが、故障者がこれだけ出ていいわけはない。故障で練習が中断することは、その選手の将来には明らかにマイナスなのだから。主催者である関東学連も今回の故障者続出を重く見て、「どうしたらなくすことができるか、各大学で研究してほしいし、関東学連としても課題として考えていきたい」と、異例とも思えるコメントを発している。

◆箱根だけなのか◆

 今回、故障者が多く出たことを各方面から指摘され、厳しいファンからは非難もされてしまった箱根駅伝。だが、これは箱根駅伝だけの事象だろうか。他の大会でも、故障者は出ている。

 高橋尚子(積水化学)が99年セビリア世界選手権や、五輪選考会の2000年大阪国際女子マラソンを故障で出られなかったのは有名な話。セビリアで6位入賞した藤田敦史(富士通)も、五輪選考レースのスタートラインに立てなかった。藤田と高橋健一(富士通)がエドモントン世界選手権に故障を押して出たのは、わずか5カ月前のこと。
 エドモントンではまだある。女子マラソンの岡本幸子(沖電気宮崎)は補欠の選手と交代してしまったし、1万mの永田宏一郎は故障で出られなかった。アトランタ五輪1万mの渡辺康幸(エスビー食品)も同様だ。
 日本を代表する長距離ランナーでも、これだけ“本番”で涙を飲んでいる。

 長距離以外の種目の選手に故障はないのかといえば、もちろん故障する選手はいる。
 トラック&フィールドの国内最大の大会である日本選手権を欠場する選手は、箱根駅伝以上なのではないだろうか(正確に数えたわけではないが)。さすがに、インカレやインターハイではその数は減るが、レースを見ていて「えっ、あの選手が」というシーンはよく目にする。400 m46秒前半のベスト記録を持つ選手が、48秒近くかかって準決落ちするようなケースだ。
 間違いなくそういった選手は、レース中に故障を起こしたり、故障で練習が不十分だったりしたわけである。それでも、それほど問題として取り上げられないのは、単に“箱根駅伝に比べて(世間的に)目立たないから”だけではないのか。一部記者や関係者の間で、「あの選手はどうしたんだろう」と、ささやかれる程度だろう。
 それが箱根ではテレビに大きく映し出される。400 mなら46秒前半に相当するレベルの選手でも、箱根駅伝だと多くのマスコミやファンが注目する。その結果、インカレの準決勝落ちの選手よりも何百倍も目立ってしまうのである。

 箱根駅伝だから(世間的な注目が大きいから、関係者の期待が大きいから)練習を頑張りすぎてしまう。そういう側面があるのは事実だろう。けれども、まず陸上界が取り組まなければいけないのは、箱根駅伝の過熱云々を取り沙汰する前に、現場レベルで故障をしない練習スタイルを確立すること(当然、各チーム単位で)なのではないか。陸上界を直接支えているのは、現場レベルの努力に他ならない。
 現場が取り組みやすい枠組み(システム)を作ることが、同時に重要なのは言うまでもない。そのためには人気がない方がいい、という意見もあろうが、以前にもどこかで書いたように、“人気”自体は陸上界の発展には必要不可欠の要素である。この点の論証はここではしないが、これは間違いない。
「人気があるから競技がダメになる」という理論は「火事の原因は“火”だから、“火”そのものをなくせ」という考え方に近いような気がする。
 箱根駅伝の人気がせっかくあるのなら、「実業団駅伝は箱根以上にハイレベル」とか「日本選手権で箱根出身選手が世界に挑戦」とか、そういった方向で陸上界全体の人気アップ、活性化に結びつけるのがいいのではないか。

 故障をしないトレーニング――日本を代表する指導者でさえ失敗する部分だから、言葉にするのは簡単でも、実際に行うのはとてつもなく難しい。もしかしたら、陸上界にとって永遠のテーマ(課題)なのかもしれない。だが、それに取り組み、改善しない限りは、日本の陸上界に明日はない。
 渋井陽子の携帯電話着メロは「明日があるさ」なのだから(2001年1月時点)。