2002/8/17 オピニオン
アジア大会代表に杉林が選ばれなかったことで
再度考えさせられた“派遣枠”の存在
8月16日に追加されたアジア大会代表の顔ぶれを見て残念だったのは、杉林孝法(ミキハウス)の名前がなかったことだ。がっかりした、と言ってもいい。代表選考に疑問があるとか、選考がおかしいとか、その手のことを思ったわけではない。杉林の南部記念の跳躍を見て、その記録を見て、アジア大会で戦う杉林の姿を見たいと、単純に思ったのである。だから、彼が釜山で戦えないことに、単純にがっかりした。一記者として、一陸上ファンとしての率直な感想である。
7月21日の南部記念は、ヨーロッパのグランプリ4試合の取材から帰国して、最初の取材だった。ヨーロッパではそれほど丁寧に三段跳を見ていたわけではないが、幸いなことにエドワーズ(英)が記録を出した跳躍は、なぜかタイミングよく見ることができた。オスロで、若手期待のオルソン(スウェーデン)を逆転した17m51(−0.1)、その時点で今季世界最高だったパリの17m75(+1.1)。エドワーズの水面を切る石のような、スピード感にあふれ、接地時間の短い跳躍がイメージとして残っていた。
南部記念も短時間に多種目が行われ、三段跳はほとんど見ることができなかったが、杉林と石川和義(筑波大)の後半には注目していた。そして、この時も運よく、杉林の6回目をしっかり見ることができた。隣で見ていた記者は、それなりの記録が出たとわかって「おおっ」と声をあげたが、筆者にはやや潰れた跳躍に感じられた。ところが、発表された記録は16m80(+1.5)で、後輩の石川を大きく逆転。杉林にとって自己3番目の記録。来年のパリ世界選手権B標準突破でもあった。
杉林の跳躍がやや潰れたものと勘違いしたのは、エドワーズの印象が残っていたせいだろう。考えてみたら、エドワーズと杉林ではいまだ1mの記録差がある。動きに違いが出て、当然といえば当然。そうではあるが、競技後に接地時間のことなどを質問してみた。詳しくはすでに記事にしたが、杉林のなかでも今回の南部記念は、「接地時間が長くパワーで持っていく跳躍。さらに言うなら、膝の屈曲が優勢な“屈伸系の跳躍”に近づいていた」という。杉林自身としても不十分と感じている跳躍だったにもかかわらず、16m80と国際レベルの記録が出た。次の大きな試合で跳躍がよくなれば、どんな記録を出せるのだろうかと考えると、ワクワクした。
昨年の世界選手権から標準記録の引き上げられ、フィールド種目はB標準突破者でも、その種目で1人は代表を派遣するのが基本方針となった。アジア大会と世界選手権では選考のされ方が違ってくる部分もあるだろうが、アジア選手権で石川が優勝したり16m80前後の記録を跳ばない限り、三段跳2人目のアジア大会代表は杉林だな(日本選手権優勝の小松隆志がすでに代表決定済み)、と円山競技場で直感的に思ったことを覚えている。アジア大会も取材に行くことが決まっていたので、釜山での跳躍を楽しみに感じたのである。
ところが、杉林は代表に選ばれなかった。繰り返すが、本当にがっかりした。選ぶ側は最善の方法をとったはずである。誰も、負けようと思って選手団編成をする人間はいない。では、どうして選考会で世界選手権B標準を突破した選手が選ばれなかったのか――とどのつまりは、選手“枠”の問題である。陸上競技には66という、事前に決められた派遣選手人数枠があったのだ。
とどのつまりは、JOCとの関係である。陸上競技の代表選手を選考する組織は、JOCと相談してアジア大会代表選手は何人と決めなければいけない。このこと自体がおかしい。すでに何回か本サイトでも書いてきたこと(1年前のユニバーシアード選考の際に書いた記事)だが、何人でチームを編成すると決まっている団体競技と違い、陸上競技や水泳などは個々の選手が記録を出すことで世界(アジア)と戦えるようになる。先に“枠ありき”ではなく、選考会などが終了し、世界(アジア)で戦える選手の人数が明確になってから、派遣人数を決めるのが本来の姿だと思う。これは小学生でもわかる理屈だと筆者は思っている。
受け入れ先の都合や予算の関係などもあって、ある程度事前に“大枠”を決める必要があるのは理解できないでもない。だがそれは、今回のように陸上競技の代表総数“66”を、きっちり守らなければならない、という理由にはならないように思う。1人くらい、いや、5人前後の変動は、組織の頑張りで対応すべきだと思う。
その頑張りがないと、今回の筆者のようにがっかりする陸上ファンが増え、ひいては陸上人気の落ち込みにつながってしまう。陸上競技の派遣人数をJOCと相談して決めている人たちは、このことをよくよく考えてほしい。三段跳ファンのほとんどと、跳躍ファンの大半と、そして陸上競技ファンの多くは、間違いなく今回の杉林落選に「なんでー?」と、ガッカリしているはずである。
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