2001/7/13
日本学生種目別選手権展望<男子編>

■短距離■

五輪&世界選手権代表が多数出場
しかし、一番の注目は200 mジュニア新の大前

 100 mは小島茂之(早大4)と川畑伸吾(法大出)のシドニー五輪代表コンビが出場する。ともにエドモントン世界選手権代表を逃した。だが、川畑にしてみれば100 m4位で、あと一歩だった。4×100 mRチーム編成上の都合で外れたわけである。ユニバーシアードでやってやろう、の意気込みは強いだろう。それは小島も同様で、南部記念はスタート直後の痙攣で予選落ちだったが、ここに合わせてくるはずだ。
 昨年シドニー五輪A標準を破りながら代表入りを逃した福長正彦(東学大4)は、関東インカレ200 m決勝で故障。歩いてフィニッシュしたが、その回復具合次第。この大会は昨年は6月に行われ、絶好調の福長は100 m&200 mの2冠。100 mでは川畑を破っている。
 関西の覇者、面高潤也(関学大4)は関西インカレで、朝原宣治(大阪ガス)の大会記録を破った。関東インカレを制した末續慎吾(東海大3)は出場しないが、同2位の奈良賢司(日体大4)、同3位の菅野優太(日大3)らが優勝争いを展開する。
 川畑がその後問題なければ、前半からリードして逃げ切るレースが予想されるが…。

 200 mは今大会屈指の注目選手、日本ジュニア選手権で20秒29のジュニア日本新を出した大前祐介(早大1)が登場する。従来のジュニア記録を一気に0.28秒も更新したもので、昨年、末續が出した20秒26の学生記録に0.03秒と迫り、伊東浩司の20秒16、末續の20秒26に次いで日本歴代3位でもある。関東インカレは200 mでなく100 mに出場。日本選手権では200 mで2位。どんな走りを見せてくれるか、楽しみである。
 世界選手権代表の末續と、関東インカレ優勝者で世界選手権代表の藤本俊之(東海大4)は出場しないので、大前に挑むのは関東2位の宮崎久(東海大3)、同4位の奥迫政之(東海大4)の東海大勢。それに400 m世界選手権代表の山村貴彦(日大4)ら。
 昨年の世界ジュニア5位入賞の実績もあり、大前が“一発屋”でないのは明らか。先輩選手たちをぶっちぎるのではないか、と思うが、日本選手権の結果からわかるように末續とはまだ力の差がある。先輩選手たちにも、チャンスがないわけではない。

 400 mは、山村が200 mに回ったため、もう1人の世界選手権代表学生選手、邑木隆二(法大4)が優勝候補筆頭だが、日本選手権で邑木に次ぐ5位になっている佐藤光浩(仙台大4)も、ユニバーシアードだけは逃したくないところ。4×400 mRの派遣があるかどうかはわからないので、トップを狙ってくるだろう。
 関東2位の田中貴仁(順大)や同4位の奥迫政之も優勝争いに絡んできそう。だが、関東インカレで46秒前半〜後半の好タイムを出した選手たちは、ここであまりにも記録が悪いと「あれは横浜だから」と言われてしまう。せめて、マイナス1秒以内にとどめたいところ。
 昨年の日本インカレ優勝者の小林稔(日大出)や松本卓(中京大出)のOBたちも、学生たちには油断できない存在。フレッシュマンでは、46秒57を出している中原丈晴(龍谷大1)が注目される。
 山村がいないので前半を誰がリードするのか、ちょっと予測がつかないが、強いて挙げればスピードのある奥迫あたりか。邑木は速からず、遅からずといった前半で、田中は完全に後半型だ。
■中・長距離■
徳本が1500m&5000mで圧倒的な力を見せるか!?
岩水も1500mに出場?

1万mが行われないため、1500mと5000mを兼ねる選手が多く、かえって面白いレースが展開されそうだ。特に面白くなりそうなのは1500m。両種目で優勝候補筆頭の徳本一善(法大4)、両種目の関西インカレ優勝者の山本巧児(京産大4)が、記録的にもトップ2を占める。そこに、日本選手権で山本を抑えた濱砂康輔(順大3)が加わり、3強を形成するが、関東2位の清水貴之(日大4)を加えると4強だ。だが、最後に圧倒的な力を見せるのは徳本だろう。
 さらに、注目は3000mSC世界選手権代表の岩水嘉孝(順大4)で、3000mSCと1500mの両方にエントリーしているが、1500mに出場すると見られている。
 2年前の世界選手権代表だった佐藤清治(順大2)は今季不調。世界選手権はあきらめざるを得ない状態だったのだろうが、ユニバーシアードならいい目標になるのではないかと思われていた。ところが、エントリーしてこなかった。シーズン後半、あるいは来シーズンに賭けているのだろう。
 5000mは徳本、山本の“トラック派”(勝手にそう判断しているだけで、本人が宣言しているわけではない)が有利。1万mで28分25秒78の秋山羊一郎(大東大4)、28分40秒台の金子宣隆(大東大4)、虎沢峰敏(専大3)らの“箱根を目指す過程で1万mの記録を出す派”が、どこまでやるか。また、8月後半から9月のユニバーシアードに出られるのか。
 800 mは日本選手権優勝の中野将春(広島経大4)と同2位の笹野浩志(立命大4)の再戦。3000mSCは岩水が出なければ、新妻拓也(東大M1)と榊枝広光(順大出)&春田真臣(順大3)の順大コンビの対決の構図。
■ハードル■
110 mHは世界選手権代表の内藤中心
400 mHは世界選手権代表漏れの千葉が有力

 110 mHは日本選手権優勝&世界選手権代表&学生記録(13秒65)保持者の内藤真人(法大3)対筑波大トリオの対決。
 関東インカレでは山田真利(筑波大4)が前半でリードを奪ったが逆転され、日本選手権は田野中輔(筑波大出)が0.17秒差で3位。13秒88がベストの神崎将吾(筑波大M1)を加えても、今の内藤に勝てるかどうか。
 400 mHには有力選手が多数出場。列記すると、世界選手権代表の為末大(法大5)と吉沢賢(順大出)、関東インカレで48秒65の国際的な記録を出した千葉佳裕(順大4)と、この3人が実績でも記録でも、他をリードしている。
 それに続くのが49秒台後半の記録を持つ河北尚広(筑波大3)、大本裕樹(中京大出)、岩崎淳(中大5)の3人。49秒台はまだ出していないが、関東インカレで中盤まで千葉をリードした星野晃志(中大4)も魅力的だ。
 為末はヨーロッパで4戦して帰国したばかりで、出場が微妙。吉沢も世界選手権代表になっているので、どこまで頑張るかわからない(本人が体調と練習の進み具合を見て決めるだろう)。そうすると、世界選手権に漏れた千葉が、モチベーション的にも、南部記念を欠場してここに賭けていることを見ても、一番やりそうな気配がする。ユニバーシアード金メダルも狙えるレベルなのだから。
■跳躍■
木越、寺野、渡辺らユニバー候補が登場

 走高跳は日本選手権で4位を分け合った内田剛弘(福岡大3)と外堀宏幸(筑波大M2)に、2m20以上の自己記録を持つ醍醐直幸(東海大3)、石井孝治(日大出)らの争いになりそうだが、誰か1人を挙げるのは難しい。ユニバーシアードにつなげるためには、2m20台後半の記録が欲しいところ。
 棒高跳は沢野大地(日大3)がエントリーしていない。木越清信(筑波大M3)の優勝の可能性が高い。菅野卓弥(順大M1)、中嶋博之(日大4)らにもチャンスはあるが、ユニバーシアードに行くためには、最低でも5m45くらいがほしい。
 走幅跳は寺野伸一(日大4)が今季、7m99と8mラインに肉薄している。世界選手権代表は逃したが、ユニバーシアードは確実に決めたいところだ。一昨年の日本選手権優勝者の稲富一成(順大出)、昨年の世界ジュニア代表の荒川大輔(同大2)、7m80の自己記録を持つ鈴木健太郎(中京大4)らも、一発跳べば北京に届く。
 三段跳は関東インカレで16m67の学生歴代2位タイを跳び、ユニバーシアード有力候補である渡辺容史(筑波大3)が、どのくらいの記録を出すか。中丸信吾(順大M1)、石川和義(筑波大1)の16mジャンパーが渡辺を脅かすことができるかどうか。
■投てき■
やり投がユニバー候補種目。それ以外の種目の盛り上がりは?
 砲丸投は16m64のジュニア日本記録を持ち、先のジュニア選手権でも16m58をマーク、関東インカレ1年生優勝、日本選手権2位の畑瀬聡(日大1)が、エントリーしていない。日本選手権3位の村川洋平(筑波大2)が優勝候補筆頭で、保田豪(国士大出)、新堀玄(国士大2)の国士大コンビが追う。
 円盤投は日本選手権で僅差の2位だった中林将浩(法大4)が優勝候補。同3位の地元・佐々木大志(岩手大M1)、関東インカレ優勝の畑山紘輔(東海大4)、保田らが追う。
 ハンマー投は土井宏昭(中京大4)と疋田晃久(中京大4)の中京大コンビが66〜67m台の記録で、双璧をなしている。が、今季の成績を見ると土井の方が圧倒的に優位といっていい。
 やり投は投てき最大の有望種目。村上幸史(日大4)が今季、77m台がいつでも出せる状態で、ユニバーシアードに最も近い。しかし、宇土田実也(筑波大3)もしばしば村上を苦しめる力をつけている。室永豊文(中大4)、光家敬(同大3)も75mくらいいつ出してもおかしくない。他の種目の出来次第では、2つの枠が来るかもしれない種目だ(出来次第で種目の代表人数が左右されるのはあまり好きではないが)。

●ワクワクしない“枠”の存在●
 北京ユニバーシアードの陸上競技の派遣枠は24名(男子18、女子6)と決まっている。男女の数は若干の変更が許されているが、全体枠はJUSB(日本ユニバーシアード委員会)が決めることで、陸上界の意思では変更できないという。オリンピックの派遣枠をJOCが決めるのと、同じことのようだ。
 すでにハーフマラソンの男女各2選手が代表に決まっているので、今回の種目別選手権では男子16、女子4の枠をめぐって、代表争いが展開されるわけである。
 本サイトで何度か指摘してきたように、記録が存在する種目で初めに“枠ありき”では、選手がかわいそうである。国内の盛り上がっても、世界に出ていけないかもしれないからだ。
 ここでは一応、世界選手権の標準記録を突破したり、それに迫った選手が“ユニバーシアードで戦えるレベル”とする。そうすると、女子では走幅跳の池田久美子(福島大3)とハンマー投の綾真澄(中京大4)が世界選手権代表で、女子長距離でも藤永佳子(筑波大2)と阪田直子(立命大1)が世界選手権B標準突破済み。長距離は過去の実績や有望種目であることから、間違いなく2人は選ばれるだろう。
 そうすると、ここまでですでに4人。日本新を出し、B標準に迫った800 mの西村美樹(東学大1)や400 mHの吉田真希子(福島大出)、走高跳で今季1m86と国際レベルへの端緒についた岩切麻衣湖(中京女大出)ら、国際舞台で戦ってほしい選手は目白押しである。彼女らの“やる気”は、無駄になってしまうのだろうか。
 種目別選手権でさらに記録を伸ばせばいいし、そういった奮起を促す意味で枠がある、という論法もある。あるが、好きにはなれない。種目間の優劣の比較は、難しすぎるからだ。
 今回は、女子の枠がおかしく感じられ、そういった意見が多く出れば、女子の枠が増え男子の枠が減らされるのだろう。でも、男子もざっと数えても
100 m2人
200 m2人
400 m2人
400 mH2人
110 mH1人
競歩1人
長距離2人
棒高跳1人
走幅跳1人
三段跳1人
やり投1人
 で、16となってしまう。もちろん、今回の選考会ですごい記録を出す選手がいれば、加えざるをえない。
 陸上界以外の事情で枠が決まってしまうので、どうしようもないことなのだが、これだけは言える。枠が最初から決められていたら、選考会があっても“ワクワク”はしない。頑張っても落とされるのは自分ではないかと、ビクビクするだけである。