寺田的陸上競技WEBスペシャル
計測工房2017
創業10周年を迎えた計測工房。これまでも、これからも、“人のつながり”を重視
  

 計測工房が2017年5月18日に創業10周年を迎えた。市民マラソンなど競争の激しい分野よりも、駅伝やトレイルランニングなど、自社の特徴が生かせる分野に力を入れている計測業界のオンリーワンカンパニーである。創業時の常勤スタッフは3人、1年目の計測大会数は33大会だったが、現在は常勤スタッフ7人、年間計測数は154大会にまで増えている。昨年には社屋も移転させた(昨年の記事参照)。10年の歩みを踏まえて社の理念も一部変更し、計測工房はこれからも独自の道を歩き続ける。

●難易度の高い仕事への挑戦
 計測工房の特徴の1つに、現場の仕事がハードなことが挙げられる。特にトレイルランニングの計測では、それが顕著になる。
 トレイルランニングは最長で100マイル(約160.9km)の大会もあり、道路だけでなく、舗装されていない山道や、岩肌がむき出しの斜面もコースとなる。フィニッシュまで24時間以上かかる大会も存在する。数カ所あるエイドステーション、またはチェックポイントが計測地点になるが、先頭走者通過から最終走者通過まで数時間かかることも当たり前。大会によっては泊まりがけの計測になることもある。
 機材の運搬も困難を極める。エイドステーション・チェックポイントは車で行くことができるが、トレイルランニングのなかのスカイランニングという種目は、山頂がコースに加えられることが多い。機材を絞ってはいるが30kg程度の荷物を、ロープウェイなどの山頂発着点からさらに、数百メートルを歩いて運ぶこともあった。機材を絞るということは、計測作業の難易度も上がることを意味している。
 その過酷さを、藤井拓也社長は次のように話す。
「スキー場のロッジなどを使えることが多いのですが、大会によっては電気や水道もないなかで、何時間も仕事をしないといけないこともあります。車で一晩を過ごすこともありますよ。計測技術はもちろんですが、体力・精神力が必要になります。そういった仕事に対応しているのは、業界でも計測工房くらいです。主催者の皆さんもそれがわかっていて、そういった仕事はだいたいウチに依頼が来ます」
 デジタル機器を使ったスマートな職種という印象を持たれることもあるが、計測の仕事は(特に計測工房は)、タフさを持つ人間でなければつとまらない。





計測現場に持っていく機材の一部。電気のない夜間現場に必須の照明器具(右上、左下)、計測センサーマットを固定するためのペグとハンマー(右下)。そして、それらの機材を収容して運ぶ背負子(左上)

●駅伝とトレイルランニング
 計測工房の受注大会は市民マラソンよりも、駅伝とトレイルランニングの数が増えている。第5期と第10期の計測大会を、カテゴリー別に集計した数字は以下の通り。
◇第5期(2011年5月−2012年4月)
42%(42大会)  マラソン
35%(35大会)  駅伝
9%(9大会)  トライアスロン
3%(3大会)  トレイルランニング
11%(11大会)  その他
◇第10期(2016年5月−2017年4月)
32.5%(50大会) マラソン
32.5%(50大会) 駅伝
21.4%(33大会) トレイルランニング
6.5 %(10大会) トライアスロン
7.1 %(11大会) その他
 大会数で言えばどのカテゴリーも増えているが、15大会増の駅伝、30大会増のトレイルランニングの数が多い。
 その理由はまず、どちらも複数の計測地点があり、計測機材と人員のセット数が多く必要となる(一昨年の記事参照)。さらに駅伝は、選手変更や途中棄権チームの扱いなど、ローカルルールに対応する必要がある。トレイルランニングは前述のように、自然環境や長時間作業に対応するタフさが求められる。計測工房以外の会社は、積極的になれない分野なのだ。
 大会の性格自体は対照的とも言える。
「駅伝は計測したデータを主催者やテレビ局に、速く、スムーズに渡すことが求められます。計測作業もその瞬間に凝縮されているイメージです。サッと計測して、さっと集計する。それに対してトレイルランニングは、タフさは求められますが、流れている時間がゆったり感じられる作業です。その分、人数の把握など主催者の安全管理に協力している側面もあります。トレイルランニングだけ多くなってしまったら、駅伝に対応することは難しくなりますし、両方を計測することでお互いに生かせる部分も出てきます」
 競技特性も対照的な駅伝とトレイルランニングだが、駅伝で育った選手が、トレイルランニングに活躍の場を求める例は多くなっている。6月のトレイルランニング世界選手権に出場した荒木宏太は、山梨学院大で2007年の箱根駅伝4区(区間12位)を走った選手。
 スカイレース世界選手権コンバインド準優勝の上田瑠偉は、高校長距離界の強豪である佐久長聖高出身。藤井社長が計測ディレクターを務めた天龍梅花駅伝にも出場していた。早大同好会時代は1万mを29分台で走り、トレイルランニングに進出。今はバーティカル(麓から山頂まで急勾配の斜面を登るレース)の日本代表として活躍している。
 駅伝で育った選手がトレイルランニングにも挑戦しているように、計測工房も駅伝とトレイルランニングでの挑戦を展開している。
応接スペースの壁に貼られている計測したトレイルランニング大会のポスター

●自社オリジナルソフトの導入
 計測工房は今年中にも、自社オリジナルソフトを使用し始める。計測業界自体が新しいが、以前から他分野のビジネスも行っている大手なら、ソフト開発に投資する予算規模があって当然だ。計測だけの会社がゼロからスタートし、自社開発のソフトを運用するところまで到達したことに意味がある。
 すでにWEB上での記録速報と、リアルタイムで人数が把握できるトレイルサーチというシステムを、昨年中に実用を開始している。トレイルランニングはその特性上、選手にアクシデントが起きたときの対応が平地の大会よりも難しい。走行している人数の把握は、安全管理の面で大いに役立っている。
 昨年は従来のソフトに「無理矢理」(藤井社長)連携させて使っていた。それが新ソフトは、トレイルサーチとの一体化を前提に開発されている。使い勝手という部分でも、計測工房のやりたいことにアジャストされ、作業の効率化が期待できる。
 自社開発ソフトの導入は、会社設立11年目を象徴するトピックとなるだろう。

●人との“ご縁”で成長してきた10年間
 10年間を振り返ると、「人とのご縁でここまで来られた」という思いが藤井社長にはある。計測工房は特別な営業活動をしない方針で、新規の受注は「ほとんどが口コミか紹介」が接点である。
「創業前は、トレイルランニングの存在こそ知っていましたが、仕事としての接点はありませんでした。それが10年間やってくるなかで、次々に“ご縁”ができ、それがまた“ご縁”でつながってここまで来ました。ちょっとしたつながりを大事にしてきた結果です」
 藤井社長のモットーでもある“一期一会”を大切にする姿勢が、この10年間の成長のベースとなってきた。
 10周年を機に、藤井拓也社長は会社の理念に、「ここは社員の成長の場である」という項目を付け加えた。社員として計測工房に入ってくる人材との出会いも、“ご縁”に他ならない。藤井社長はまだ41歳になったばかりだが、自身のリタイア後にも計測工房がずっと存続していくことを、ここ数年考えるようになっている。
「社員がいてくれるから計測というビジネスができ、計測工房という会社が成り立っています。単に仕事をすればいい、という会社ではなく、彼らが人間的に成長する場にしたい。それが結果的に、会社の成長につながっていくと思います」
 会社の幹の“人”の部分をよりしっかりとさせることで、計測工房はセカンド・ディケイド(10年間)のスタートを切った。
2期目のディケイド(10年間)に入った計測工房を率いる藤井社長


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