寺田的陸上競技WEBスペシャル
計測工房2016春
創業10年目に新社屋へ移転 計測業界のオンリーワンカンパニーが第2ステージへ
  

倉庫整理は発想の源
 2007年の創業から10年目に入った計測工房。そのタイミング(2016年3月)で新社屋に移転したことは、「シンボリック」(藤井拓也社長)な出来事だった。
 新社屋の床面積は、以前の約2倍。移転の直接的な理由は4月に新入社員が加わり、デスクを増やす必要性があったことと、機材を保管するスペースが手狭になったためだが、藤井社長にとってはどちらも形以上に意味のあることだった。
「創業したときの夢の1つにタイム計測という職業を確立させることがありましたが、それに付随して“いつか私たちの会社を見て、自分もああなりたいと思う若者を出現させる”という目標もありました。新卒の社員は2人目ですから、その目標は達成されてきています」
 スペースについては、手狭になるとどうしても機材の保管が“機能的”でなくなってしまう。計測作業は、準備に多くの時間を割く。センサーやアンテナなどのチェックはもちろん、パソコンとケーブル、計測チップなど、数多くの機材の準備作業を現場に出る前に社内で行う。
「整理整頓ができていた方が、新しいアイデアだったり、良い発想が浮かびやすいのです」
 倉庫整理の時間が好きだと話していたこともある藤井社長(写真下右)だが、これまでの社屋は2階が事務所、1階が倉庫とフロアが分かれていた。新社屋は同じフロアでデスクから倉庫スペースまで20歩程度(写真下左)。思いついたアイデアをすぐに、機材を手にして確認できる。これは、計測工房にとって大きな変化だった。

2つのトピックス&妙高駅伝
 計測工房のこの1年間を象徴する出来事が2つある。1つは選手の走っている位置を確認できる“トレイルサーチ”システムの開発と導入で、もう1つは極めて険しい斜面で行われる富士登山駅伝の計測を請け負ったことだ。
 “トレイルサーチ”は選手が関門を通過したかどうかがリアルタイムでわかるシステムで、“WEB上での記録速報”と“WEB上でのレース人数管理”の2つの機能を持つ。特に後者は大会主催者向けの機能で、計測工房独自の発想で開発した。
 このシステムはおもに、トレイルランの大会で役に立つ。トレイルランはその特性上、選手にアクシデントが起きたときの対応が平地の大会よりも難しくなる。主催者にとってはレース人数管理(スタート人数、途中通過人数、リタイア人数、完走人数)の迅速な把握が必要になる。関門通過をしていない選手をリアルタイムでチェックできれば、万一の事態に即座に対応できるのだ。
 富士登山駅伝は文字通り、富士山を上り下りする標高差3260m、11区間47.93kmの駅伝である。山梨学院大が一般の部で優勝したこともあるが、一般の部よりも自衛隊の部の方がタイムも良く、地元御殿場市の滝ヶ原自衛隊が優勝を続けている。
 写真上大(計測工房提供)は6合目と7合目の間にある中継所だが、タスキを渡した後の走者が勢い余って、斜面を転がり落ちていくこともあるという。
「選手が下る勢いで(センサーの)マットを踏みつけたりして、固定できないのです。その問題を解決するために、フェンス型のアンテナセンサー(写真上小)を新しく作って、中継ラインの両側でスタッフが固定して計測しました。他の会社ではできないことだと思いますよ」
 この大会のために動員したスタッフは18人。1年前の記事で紹介したように、通常のマラソン、ロードレースと比べて駅伝の計測は、機材も人手も何倍も必要になる。それに加えて富士登山駅伝は、急斜面で実施されるため、平地と同じ機材や方法では計測ができない。そこにやり甲斐とビジネスチャンスを感じて請け負ったのは、計測工房ならではチャレンジだった。
 その姿勢が、この夏に新しい駅伝の計測を請け負うことにつながった。黒姫・妙高大学駅伝である。夏合宿を長野県の野尻湖周辺で行う大学有力チーム間で、合宿中にレースに出たい要望が出ていて、それに地元が応えて新設する駅伝である。
 計測工房は春の高校伊那駅伝など、これまでも長野県の大会の計測を数多く請け負ってきた。その実績と、一期一会を大切にする藤井社長の気持ちが、関係者の信用を勝ち得たのである。箱根駅伝の上位常連チームの出場する夏の駅伝を、計測工房がしっかりと支えていく。
応接スペースのマガジンラックにはトレイルラン、トライアスロン、市民マラソン、陸上競技の専門誌が

さらに追求していく独自性
 社内的な作業環境は「仕事のクオリティをより高める」(藤井社長)ことになった計測工房。ビジネスの方向性は、オリジナリティーを出しながら経営的にも成功してきた近年のやり方を、さらに充実させていく。
 計測工房の特徴として、市民マラソンの計測が少ないことが挙げられる。市民マラソンは市場規模は大きいが、計測のノウハウは比較的容易な分野である。激しい受注競争から無理な値下げをする会社も散見され、“レッドオーシャン”と呼ばれる分野になっている。
 それよりも専門的な知識やノウハウが求められるトレイル大会や駅伝などに、計測工房は力を入れてきた。
「引っ越しという象徴的な出来事がありましたが、“トレイルサーチ”や富士登山駅伝に象徴されるように、独自性を追求できる分野に力を入れていきたい。そのためにも、クオリティーを上げていきたいと考えています」 2007年に創業してからここまでを第1ステージとするなら、社屋移転以降の計測工房は第2ステージに突入する。まだ公にはできないが、今後さらに可能性を広げていくためのプランも進行中だ。
 まだ40歳になったばかりで青年経営者という雰囲気だが、藤井社長は後継者の育成も気に懸けるようになった。これまではプレイングマネジャー的な頑張り方で、計測ディレクターとして難易度の高い仕事はほとんど、社長自身が担当してきた。それを徐々に、若い社員に任せる割合を大きくしていく。
「いつかは自分もリタイアします。そのときに計測工房がなくなっては、創業した意味がなくなってしまう。会社は自分1人のものではないと思っていますし、社員全員が成長してほしい」
 計測工房成長ストーリーの第2章が、社屋移転とともにスタートした。
計測工房を率いる藤井社長の“次の一手”に注目したい


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