県、近畿と連続1区の中谷 |
牧浦聖士(2年)も今季の成長株だが、以前は試合で力がまったく発揮できない選手だった。1年時に練習のペース走を8分台でこなしているのに、試合で9分50秒かかったことがあった。試合で過度に緊張するのが原因だとわかり、平常心に近い状態で臨むことを課題とした。
足立先生は「日常からプレッシャーをかける」方法をとった。自身の生活のなかで何か1つルールを決めさせる。帰宅後に必ず補強をすることでもいいし、弁当箱を洗うことでもいい。なんでもいいので自分で決めたルールを、例外を作らずにやり遂げさせた。西脇工高時代に13分45秒86の高校歴代2位(当時)を出した北村聡(日清食品グループ)も、自身に課した補強を欠かさなかったという。
「日常生活からプレッシャーに慣れるようにすれば、試合はマイペースで臨むことができるのです」
●"プラスマイナス2"の積み重ね
すべては選手の自主的、積極的な取り組みをうながしている。"やる気"の違いで、練習の効果はまったく違ってくるからだ。足立先生は次のような話を、よく選手たちにするという。
「練習前に"今日はしんどそうだな"と思ったらマイナス1で始めてしまいます。逆に今日は"こんな練習をしよう"と前向きになれたら、プラス1から始められる。プラスマイナス2の違いです。それが365日積み重なったら大きな違いになりますよ。練習に入る前に全てが決まってしまうのです」
選手の"やる気"を喚起するために、練習をやめてミーティングに変更したり、グラウンド整備をすることもあるという。
取材で訪れたのは11月末。近畿高校駅伝の優勝から1週間ほど経っていたが、選手たちに気のゆるみが生じていた。練習を開始する時間が7分遅れていたのだ。グラウンドは誰かが整備するだろう。着替えをちょっとだけゆっくりしてもいいだろう。そんな気持ちのゆるみが開始時間の違いに表れる。足立先生は次のように生徒たちに語りかけた。
「練習時間の開始が1分違えば、マッサージの時間を1分増やすことができる。マッサージは疲れをとるだけでなく、肌と肌が触れ合うことでチームワークも深めることができる重要な部分。練習の質や量よりも大事なことがある」
2年前のチームは近畿大会で2位となり、地区代表として全国大会出場を決めたが、目標記録に41秒届かなかった。その41秒を7人で縮めようとしたら1人6秒を縮めないといけないが、全部員の31人で縮めようとしたら1人1.3秒だと考えて努力した。その結果が全国大会2位(2時間04分37秒)につながった。しかし、今年のチームが今すぐ京都のコースを走ったら、前述のように2時間6〜7分かかるという。「それが駅伝なんです」
●目標を決めるのは選手
選手の"やる気"を起こさせるために西脇工高では、どんなことでも選手に考えさせるようにしている。
有名なのは駅伝のメンバーを選手たちが話し合いで決めることだろう。これは渡辺前監督の時代から行われていた方法で、自分でここを走ると言った以上、選手たちはそれに責任を持つ。同時に前向きにもなる。
「目標記録も生徒が決めます。兵庫県記録の2時間03分13秒に挑戦したい気持ちはありますが、それは僕の個人的な目標です。チームじゃありません」
取材した時点では、近畿大会を1・2年生で戦ったチームの練習に、3年生4人が合流していなかった。どういった練習のカレンダーで合流するか。それを選手たちに提出させていた。
年に6回行う合同合宿(夏に3回、冬、春、ゴールデンウィークに各1回)でも、段取りはすべて選手が整える。そのときに各校の選手たちの前で説明するのも選手自身だ。部の運営の多くを選手たちにやらせているため、3年生を中心に"回す"という表現を足立先生は使ったわけである。
遠征の交通手段や行動手順を決めるのも選手。選手が立案してコーチに提案する。足立先生やコーチが決めたら早いのだが、それでは考えて行動(考動)するクセがつかない。@で紹介した日体大長距離競技会への遠征も、宿泊を伴う遠征のシミュレーションとして活用できるのである。
前述の「7分の遅れ」がどうして生じたか、足立先生が答えを教えるのは手っ取り早い。しかし、それも選手たちに考えさせ、話し合わせる。
「生徒の"やる気"を起こさせる工夫に終わりはありませんね」 |