ウィグライプロ スペシャル 第4回
“足立・西脇工高”の強さに迫る
伝統校の変化と指導の核


写真はクロスカントリー・コースでジョッグをする(左から)広田、村上、中谷、浅川の2年生4選手

 全国高校駅伝最多優勝8回の西脇工高。渡辺公二前監督のもと、全国ナンバーワンの長距離強豪校に成長した。OBはニューイヤー駅伝や箱根駅伝で活躍し、日本代表になった選手も多い。その渡辺前監督が2009年3月で勇退。教え子であり、同高で13年間コーチを務めてきた足立幸永先生が跡を継いだが、09年、10年と高校駅伝兵庫県予選に勝てなかった(09年は近畿代表で全国高校駅伝に出場して2位)。しかし今年(2011年)は2時間05分13秒の好タイムでライバルの須磨学園高に大差をつけて兵庫大会を制覇。5000mの平均タイムも西脇工高史上最速となった。就任して3年目で、"足立・西脇工高"の色が結果として出始めたと見てよさそうだ。伝統校の変化と、指導の核は何かをテーマに取材を試みた。

@足立流の新たな取り組み

●記録狙いの意味
 今季の西脇工高の特徴の1つに"記録を出す"取り組みがある。その結果、上位選手の5000mシーズンベストは以下のようになった。
勝亦祐太(3年)14分02秒69
中谷圭佑(2年)14分04秒36
廣田雄希(2年)14分11秒24
三浦雅裕(3年)14分11秒94
永信明人(3年)14分12秒70
浅川倖生(2年)14分13秒76
村上優輝(2年)14分21秒07
牧浦聖士(2年)14分22秒02
藤原滋記(1年)14分28秒24
小南祐介(2年)14分49秒30
山本翔馬(1年)14分50秒17

 5000m上位7人の平均タイムは14分11秒11で、西脇工高史上最高となった。
 なかでも3年生の勝亦祐太がチーム1位。3年前の中学チャンピオンだが、昨年までは不安定さも目立った。しかし今季はインターハイ5000m8位(日本人5位)、国体少年A5000m3位とエースにふさわしい走りを見せている。勝亦の成長の背景を足立幸永先生は次のように分析した。
「3年生の意地ですね。やっぱり中学で強かった子は持っているモノがあります。精神状態さえよければ、きっちり来ます。今年の3年生は全部で4人しかいない学年。その人数で"全部を回す"のは大変ですから」
 "全部を回す"とは西脇工高の特徴でもある。その意味するところは後述する。

校舎には近畿高校駅伝優勝と全国高校駅伝出場の垂れ幕

校門を入ると全国高校駅伝優勝の記念碑8個が出迎える
 しかし今季ほど記録を狙いに行ったことは、過去の西脇工高になかった。小南祐介と山本翔馬を除く9人のタイムは日体大長距離競技会でのもの。関東に遠征してまで出したことに、西脇工高OBからも驚きの声が挙がっていた。
 強豪の仲間入りをし始めた1980年前後に、選手に自信を持たせる意味で5000mの平均タイムを上げたようとした時期があった。だが全国のトップレベルに定着してからは、そこまでトラックの記録にこだわらずに来た。記録よりも駅伝に必要な"強さ"を求めてきたと言える。
 足立先生も今季のチームを"最強"とは言わない。「今すぐ京都のコースで走ったら2時間6〜7分でしょう」。全国で勝つチームは、これも後述するが、別の尺度で見ることができた。
 だが今季の西脇工高は、単に記録を求めたチームでもなかった。
「4月の全体ミーティングで、『9月25日の日体大で記録を狙いに行く』と選手たちに明示しました。駅伝は"その日"に合わせることが求められますから、トラックの記録狙いも"その日"だけです。今年のチームは日体大を含めて"これ"という試合を外していませんから、調整力はあると思います」
 記録会にいくつも出場し、そのどこかで記録が出ればいい、というスタンスとは明らかに違ったのである。

●クロスカントリー&動きづくりの導入
 "記録を出す"取り組みの他にも、足立先生が監督になって取り入れたことがいくつかある。トレーニング方法ではクロスカントリーと動きづくり。この2つが目立ったものだ。
 クロカンコースは西脇市営の陸上競技場(都麻の郷交流グランド)に隣接する池の周囲にある1周850mほどの小道を利用している。学校から5kmほどの距離にあり、ペース走やジョッグを行なう。
「故障防止と筋力強化が目的です」と足立先生。「同じところを同じフォームで走っていると、どうしても体の同じ箇所にストレスがかかり、故障につながります。金属疲労の一種です。クロカンならストレスの位置が変わり、疲労骨折などを防ぐことができます。ただ、下りや不整地では捻挫をしたり、ヒザを痛めたりするケースもあるので、デメリットもある。それでも、骨を故障すると3カ月かかりますが、筋肉なら3〜4日で治ることもありますから・・・」
クロスカントリー・コースで
練習する西脇工高の選手
たち。地元市民も選手たち
の練習を温かい眼差しで
見守る。そんなシーンも
見かけられた

 動きづくりは、やはり西脇工高OBの吉良勇太先生が、大東大時代にクレーマージャパンなどで学んだ知識を活用している。
「選手の将来のために、脚が後ろに流れるのでなく、返しが速く、ヒザがぽんぽんと前に出てくる動きをさせたいと考えています。踵から接地してフラットで地面を推してつま先に抜けるのでなく、フラットで接地するのと同時につま先に抜ける。以前が1、2、3だとすれば、1、2のリズム。微妙に1、2、3なんですけど。軸を整えて、その下で脚をくるくる回転させる動きと言ったらいいでしょうか」
 その動きをするために毎日の練習に「20分以内で行うことのできる動きづくり」を導入した(その他に講習会なども実施する)。どうして20分以内なのか。「ウォーミングアップを4000mから2000mに減らすなどして捻出できる時間が20分なんです」。
 練習時間が長くなるのはよくない、との判断だ。効率的なトレーニングは、故障の防止とともに西脇工高の練習全体を通したテーマである。
 故障が少なくなって一気に伸びてきたのが、2年生の浅川倖生である。「長身でセンスはあった」という足立先生の評価だったが、故障で1年時は伸び悩んだ。
「背が高い分、前と後ろのバランスがとれなかったのですが、補強や動きづくりでバランスがとれるようになって走りが安定しました。今季のチームで一番のキーマンになるかもしれません」
 駅伝の兵庫県大会では2区で区間賞、近畿大会では4区で区間2位。重要な戦力に育ちつつある。

メイン練習前に腕振りを行う

長身の浅川は前後のバランス
がよくなって記録が伸びた

練習を見守る足立先生(右)と吉良先生
 練習メニューは、渡辺前監督時代から受け継いだものが大半を占める。そこにクロスカントリーや動きづくりを取り入れた。それらが足立・西脇工高の強さの要因であることは間違いないだろう。にもかかわらず、「練習メニューへのこだわりは正直、それほどないんです」と足立先生は言う。「他校の先生方にも、『なんぼでも写してもらっていいですよ』と言っていますし、他の学校が西脇に来て練習して、それだけで強くなるかといったら、強くならないでしょう」
 指導の核は「メニューや場所ではない」と言い切る裏側に、西脇工高の強さの秘密があるはずだ。

A選手の"やる気"を喚起する工夫 につづく


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