2015/3/7
3月8日 朝9時10分スタート
豪華メンバーが集結した名古屋ウィメンズマラソン
楽しく見るための4つの視点で有力選手を紹介

【視点4】初マラソンに挑むスピードランナーたち

竹中理沙(資生堂)
竹地志帆(ヤマダ電機)
小原 怜(天満屋)


●成長過程の違う3人のスピードランナー
 初マラソン選手にはスピードランナーがそろった。
 竹中理沙は昨年の全日本実業団ハーフで田中智美(第一生命)に次いで2位に入り、世界ハーフでも17位と健闘した。入社2年目後半からロードに進出し始めたばかりだが、学生時代は日本インカレ5000mで3年連続2位となった“5000mランナー”だった。「2時間26分半」を竹中自身が目標に掲げた。
 昨年のトラックの実績では、日本選手権1万m2位の竹地志帆が一番だ。学生時代は5000mと1万mで日本インカレ3位が1回ずつあるが、どちらかというと長めの距離に強い印象があった。ヤマダ電機の森川賢一監督は「2時間24分台も」と期待する。
 小原怜は4分19秒16と1500mのスピードでは一番。世界ジュニア代表経験もあり、08年に3000mで10位になっている。ハーフマラソンでも1時間09分45秒のタイムを持つ。具体的な記録や順位は挙げていないが、「積極的に勝負を仕掛けられたら」と抱負を話した。
 竹中はしっかりとマラソンの準備をしてきたが、竹地は森川監督の方針もあり、40km走は一度も行っていない。小原の40km走は「全国都道府県対抗女子駅伝が終わって1回」だが、ニュージーランドでしっかりと走り込んだ。
 3人のスピードランナの中で誰がマラソンで頭角を現すのか。あるいは、一気に代表に届く選手が現れるのか。今回の注目ポイントの1つになっている。

●竹中理沙:元バレリーナのマラソン選手へのプロセス
 トレーニングに一番自信を見せているのが竹中理沙だろう。会見では次のように手応えを話した。
「11月から40km以上の距離は3回やりました。1月からフォールズクリーク(豪州の高地トレーニング場所。標高1600〜1700m)で1カ月ちょっと、目的としたトレーニングがすべてできました」
 学生時代までの竹中からすると、ここまでマラソン練習ができたことは意外な印象もある。

 立命大では5000m専門という感じでレースに出ていたが(日本インカレは1年時3位・2位・2位・2位)、資生堂入社2年目の2013年から1万mにも取り組み、14年2月の全日本実業団ハーフでは2位。前述のように世界ハーフでも17位となった。
「それまではマラソンのイメージはなかったのですが、世界ハーフに出場してからマラソンをやりたいと、強く思うようになりました」

 小さい頃はクラシックバレエに打ち込んだため、走りにもその影響が強く残っていた。「つま先の外からダイナミックに地面をとらえていた接地」(資生堂の安養寺俊隆監督)で、スピードを出しやすい動きだった。それが短期間だが、マラソン練習をすることで「コンパクトでピッチが増え、接地もフラットに変わった」という。
 ただ、マラソン練習が最初からスムーズにできたわけではない。スタッフの証言では「練習の1回1回を追い込まないと気が済まない性格」のため、ポイント練習の2日後に脚に痛みが出たりして、練習が中断することもあった。
「マラソンでは特に、練習を点ではなく線にしないといけないと言い聞かせるのが大変でした」
 竹中も、それを理解する能力(感覚)があり、後半は本人が言うように“すべて”のトレーニングを消化することができた。40km以上は3本だが、30km走は10本行なったという。持ち味であるスピードをマラソンに生かす準備は整った。

「走り込みをするようになったのはハーフを始めてからですが、長く走ることに対して気持ち的に抵抗がない。1人でも120分ジョッグとか普通にできます。気持ちがまず、しっかりしている。リラックスしてトレーニングを積むことができましたし、ケガもありませんでした」(安養寺監督)
 今回の一番の目的は2時間27分以内で走ってナショナル・チームに入ること。本当に勝負をするのは来年のリオ五輪選考会だ。高すぎず、低すぎずの目標設定で、ほど良い緊張感で初マラソンに臨むことができる。

●竹地志帆:トラック&駅伝チームのマラソン志向ランナーが見せる進化形
 竹地志帆は元々長めの距離が得意だったが、チームはトラックと駅伝を目指している。その2つの特徴を生かしての初マラソンがどうなるか。ヤマダ電機の森川賢一監督は「2時間25分を切っていきたい。それを狙って練習してきました」と、レース2日前に自信のコメントをしている。

 竹地は須磨友が丘高時代にハーフマラソン(1時間16分台の当時の兵庫県高校記録)を走ったほど、長い距離を得意としていた。「ペースにはまるとスーッと行ける」(森川監督)という特徴が、当時からあったのだろう。
 佛教大時代にも指導した森川監督は取材中、「本人の中では長距離向きと思っている」という話し方をした。指導者から見ればスピードも出せる選手、ということだ。
 実際、佛教大1年時の全日本大学女子駅伝は4区(4.9km)で区間賞。西原加純、森唯我という現ヤマダ電機の先輩や、石橋麻衣(デンソー)、吉本ひかり(テグ世界陸上代表)ら豪華メンバーで、佛教大初Vメンバーの一員になった。日本インカレでも2年時に1万m3位、4年時に5000m3位となっている。西原や1学年上の竹中、1学年下の鈴木亜由子(日本郵政グループ)らには勝てなかったが、トラックでもそこそこ走れていた。
 ヤマダ電機入社2年目の昨年は、日本選手権1万mで西原に次いで2位と健闘。アジア大会代表に選ばれる可能性もあった。森川監督の「トラックで世界と戦いたい」という強化方針もあり、竹地の潜在的なスピード能力が開花しつつある。
 結果が出始めたところで竹地が、名古屋への出場を希望した。だが、よくいうところのマラソン練習が、いきなりできるわけではない。これまでの流れを生かしながらのマラソン挑戦になった。

 森川監督は愛弟子の課題を「スマートさを求めすぎること」だという。追い上げられたときや、練習が完璧でないときはもろさが出る。今回も実業団駅伝後の練習が上手くできず、出場をためらっていた。
「(決断したのは)1月の終わり頃から練習ができ始めたからですが、40km走はやっていません。30kmと25kmを1回ずつくらい。6〜8割の練習で出ないといけないこともある。竹地も今回は、痛みがあってもジョッグはやってきました。それだけ走ったらマラソンも走れる」(森川監督)

 エディオンの川越学監督が資生堂やセカンドウィンドAC監督時代に嶋原清子や加納由理を日本代表に育て、40km走なしで国際大会でも結果を残している。森川監督も40km走までやらなくてもマラソンは走れるし、「そうなればトラックと両方できるようになる」という目標(理想)を持つ。
 元々長距離型だった竹地が、スピード中心のトレーニングでどこまで走ることができるか。日本のマラソン界にとっても重要な挑戦になる。

●小原怜:天満屋としては異質のマラソンランナーが誕生するか
 2000年シドニーの山口衛里、04年アテネの坂本直子、08年北京の中村友梨香、そして12年ロンドンの重友梨佐と、五輪4大会連続マラソン代表を輩出している天満屋。マラソンの名門チームから、これまでとは少し違ったマラソンランナーが誕生しようとしている。
 過去4人の代表もスピードは持っていた。中村は09年テグ世界陸上1万mで7位入賞したし、坂本は04年大阪国際女子マラソンの35kmまでの5kmを15分47秒で走破した。山口も1万mを32分07秒台で2回走ったし、重友も実業団駅伝で区間賞を取っている。

 小原の違いは1500mで前述のように4分10秒台のスピードを持っていること。武冨豊総監督もそれを認めている。
「本番間際の練習のタイムは、(天満屋の選手の中でも)一番良いタイムで上がっています。そういう意味では楽しみです。練習の流れからすると2時間24分も可能だと思います」
 ただ、距離を踏んで“蓄積する練習”が十分にできたとはお世辞にも言えないようで、「後半がどうなるか未知数」と、総監督は不安も口にする。

 3学年先輩の重友と同じ興譲館高から入社して丸6年。2〜3年前から「長い距離を走ると、リラックスした良い動きになる」と、武冨総監督は小原のマラソンへの適性を話すようになった。
「重友とアメリカで合宿すると同じ練習ができるし、1人でもしっかりとペースを作ることができました。ひょっとしたら面白いのでは、と感じたのがきっかけです」
 だが、「練習嫌い」(武冨総監督)ということもあって、なかなかマラソンのスタートラインに立てなかった。リオ五輪から逆算すると、この冬に初マラソンを経験しておかないと間に合わない。「そんなことを言っている場合じゃない」と、強い気持ちで今回は練習に取り組んだ。
 1月終わりの陸連ニュージーランド合宿で、芝生で30km(か35km)の変化走を野口みずき(シスメックス)と行なった。小原自身もそれを一番追い込めた練習として挙げたし、武冨総監督も「マラソンに懸ける思いを感じた」と言う。

 名古屋に向けて組んだポイント練習はしっかりとこなしてきたが、「マラソンは蓄積なんで」(武冨総監督)というところが懸念材料だ。天満屋で成功してきたマラソン選手は、1月の大阪国際女子で復活できた重友がそうだったように、自発的に距離や時間をプラスしたり、さまざまな工夫を自身で行ってきた選手たちだ。
 小原自身も練習を少なくしてきた理由が、自身の体力や体調、スピード型であることを生かそうとした判断だった可能性もある。それで成功すれば天満屋としても、スピード型選手の新しいパターンのマラソン練習を確立することにつながるかもしれない。

 名古屋に出場できなかったら、リオ五輪をあきらめなくてはいけないと武冨総監督は考えていた。言ってみれば、ぎりぎりのところで踏みとどまってのマラソン出場である。
「1回でもレースの主導権を取ったら、そこで潰れてもいい。そういう姿勢がリオ五輪の選考会チャレンジにつながる」
 当の小原自身には、そこまで切羽詰まった様子はない。
「気持ち的には今、練習ができていることもあって乗っていますね。プレッシャーもあまり感じないタイプです」
 それが好結果につながる可能性も否定できない。案ずるより産むが易し、という言葉もある。伝統チームからニュータイプのマラソンランナーが誕生するか。


【視点1】アジア大会のリターンマッチ
ユニス・ジェプキルイ・キルワ(バーレーン)
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早川英里(TOTO)
【視点2】重要と言われる“2度目のマラソン”
前田彩里(ダイハツ)
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水口侑子(デンソー)
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伊藤 舞(大塚製薬)
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渋井陽子(三井住友海上)



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