2015/3/5
3月8日 朝9時10分スタート
豪華メンバーが集結した名古屋ウィメンズマラソン
楽しく見るための4つの視点で有力選手を紹介

【視点2】重要と言われる“2度目のマラソン”

前田彩里(ダイハツ)
岩出玲亜(ノーリツ)
水口侑子(デンソー)


●3人に共通した意思の強さ
「2度目が重要」とは、マラソン界でよく聞かれる言葉だ。
 初マラソンで多少失敗をしても、それを生かして2度目で成功すれば、その先のマラソンでも力を発揮し続ける確率が高くなる(そう簡単に行くとは限らないが)。
 逆に初マラソンで成功しても、“勢い”や“怖い物知らず”でたまたま走れたケースもある。2度目で大きく失敗したら、初マラソンの成功も意味がなくなってしまう。
 今大会では下記の3選手が2度目のマラソンとして注目されている(九電工の黒木沙也花らも)。3人とも初マラソン前の練習では40km走を1回も行なえていなかったのが共通点だ。
3人の初マラソン成績
氏名 回数 月日 大会 順位 日本人 記 録
前田 彩里 1 2014 1.26 大阪国際女子 4 2 2.26.46.
岩出 玲亜 1 2014 11.16 横浜国際女子 3 2 2.27.21.
水口 侑子 1 2014 3.09 名古屋ウィメンズ 14 7 2.31.39.
 前田彩里(ダイハツ)は昨年1月の大阪国際女子で、学生最高記録を18年ぶりに更新した。岩出玲亜(ノーリツ)は昨年11月の横浜国際女子で、20歳未満選手の日本最高をマーク。20歳未満でマラソンに挑戦する選手は少ないし、駅伝が中心の学生女子長距離は、それ以上にマラソン挑戦が少なかった。
 水口は高卒後に新潟大理学部に進んだが、実験などの授業優先の環境では走ることが難しいと判断し、以前から誘われていた杉田正明監督の指導を受けられる三重大教育学部に再入学した。前田や岩出とは高卒時のスタート地点が違ったが、一歩一歩積み上げて今では実業団駅伝2連勝のデンソーの長距離区間を任されている。
 3人には、他の選手とは違うことをやろうとする意思の強さがあった。

●「実質初マラソン」でも高いマラソンへの適性
 2度目のマラソンだが、前田は「初めてマラソン練習をしました」と言い、林清司監督も「今回が実質初マラソン」と話す。
 初マラソンの要素が強いのは確かだが、佛教大時代の前田がマラソンの準備をまったくしなかったわけではない。
 佛教大の吉川潔監督によれば、11月以降は30km走を短い期間に集中して行っていた。マラソン出場を決めてからはシーズンを通して、朝練習のジョグも他の選手たちが60分のところを、前田は70分、80分と長く行っていた。佛教大の朝練習は伝統的にスピードが速く、走る場所もアップダウンが多い。
 それでも学生記録を5分00秒も短縮できたのはやはり、対乳酸のデータなどが示す前田のマラソンへの適性が高かったからだろう。

 その前田がダイハツに入社して、“本当のマラソン”に触れた。
 エースの木崎良子は合宿中など、普通の感覚で三部練習に取り組んでいた。(佛教大でも体幹トレーニングを行っていたが)林監督からは腕振りや、レース後半で軸がぶれない補強(腹筋など)を行うことの重要性を指摘された。
 40km走にも初めて取り組んだ。30km以降は自由に行かせる設定で行ったが、最後の5kmは林監督も「予想以上」と驚くタイムだったという。
「本人は翌日に、こんなにしんどいの? と言っていましたが、僕から言わせたら、そんなに走れちゃうの? と思える内容でした」
 学生時代は月間平均500km前後の練習量だった。ダイハツはポイント練習の数は少ないが、選手個々が自発的に走る練習スタイル。前田も木崎を見習ってジョッグの量を増やし、「マラソン練習に入ってからは、普通に1000kmを超えているのでは?」と林監督は推測する。
 新聞記事には「きれいにかかとから接地してロスのない走りができる。普通の選手なら1年かかることも彼女なら数カ月。それは素質で、絶対につぶしてはいけない選手」(中日スポーツ)と、前田の動きも絶賛。

 実質初マラソンと言いながら、林監督の話は、代表も狙って走ることが前提となっている。
「どちらかというと記録よりも順位を狙って走ります」
 横浜国際女子と大阪国際女子の結果を見て、2時間25分台なら可能性はある。だが、新聞記事では「気象条件次第では2時間22分台も狙える」とコメントしている。

●2回目も強い意思で出場を決めた岩出
 横浜国際女子マラソンで2時間27分21秒の10代日本最高で走った。
 次のマラソンが注目されたが、レース直後に質問された岩出は、「ヒミツです」と悪戯っぽく笑ったことが印象に残っている。
「私は"走りたい"と思ったときにしか頑張れないので」
 若すぎるという声も挙がった岩出のマラソン挑戦だが、岩出が変な義務感からマラソンを走っているのでなく、極めて前向きな気持ちで挑んでいることが伝わってきた。

 名古屋ウィメンズに挑戦を決めたのは、大阪国際女子マラソンの前だったという。「大阪に来られた榊原さん(中日新聞事業部)に書類を渡しましたから」と森岡芳彦監督。実は今回も、「次はしっかり練習して埼玉か大阪、あるいは海外がいいかな」と考えていた森岡監督を、岩出が強い気持ちで押し切って出場を決めた。岩出の「走りたい気持ち」を抑えることはできなかった。

 もちろん、身体的な負担を森岡監督は慎重に見極めた。
「血液データも見ましたし、チームトレーナーの見解も、ダメージが少ないというものでした。ベテラン選手たちと比べたらやはり、回復は早いですね」
 練習も、横浜の前よりもレベルが上がっている。
「横浜はマラソン練習といえるものはしていませんでしたから。夏には駅伝とマラソンの基礎練習ということでやりましたが、秋から冬は1万mや駅伝用の練習でした。徳之島で30km走を3本やったくらい。それを今回は40km走と30km走のセット練習もやりました」
 橋本康子(森岡監督が指導した2007大阪世界陸上マラソン代表)や堀江美里のように、2日連続の40km走と30km走までは行わず、間を1日空けて行ったという。そこはまだ、ゆとりを残して行なっている。

 横浜の後に、自身がトップ集団から後れた後の映像を、何度も繰り返して見て課題を探った。主催紙の記事では2時間24分台を狙っているという。「東京でメダルを取るために、リオ五輪に出たい」というコメントも掲載された。世界陸上選考規定では、選考対象レースは横浜になるが、岩出は自身の成長過程を見せる。

●1年前とは明らかに違う練習の水口
 水口侑子は自身についても冷静な分析を話すタイプである。
 それはスポーツ取材においては、控えめと映る。デンソーは実業団駅伝で2連勝を達成したが、事前取材でも自身の走りについては強気のことは言わないし、不安さえ口にする。今大会に向けた主催紙の展望記事にも、水口の目標順位やタイムは載っていない。

 それとは対照的に、デンソーの若松誠監督は自信を見せる。
「去年よりも明らかに進歩しています。1年前は陸連のニュージーランド合宿に行きましたが、他の監督さんたちは『なんで連れてきたんだ?』と思われたでしょうね。そのくらい練習ができなかった。それでも連れて行ったのは、あなたはこの領域に足を踏み入れたんだよ、とわかってもらいたかったから。それと比べたら、今年は僕が立てたメニューをしっかりとできているし、この先も見据えてやれているので、今回は思い切ったレースができる。去年よりも進化した水口を見せられると思います。自信があります!」
 昨年はできなかった40km走も、今年は行うことができた。

 初マラソンは15kmでもう、後れ始めていた。駅伝でも上りや向かい風が苦手と自己分析しているが、33kmの上りでは「やめたい」と思ったという。2時間31分39秒は、28歳の初マラソンとしては客観的な高評価は与えられない。それでも、若松監督は「何もできなかった練習を考えたら、まあまあよく走った」と評価する。
「今年はまた違う水口になっています。先頭集団に後半までついて、2時間27分を切らないとダメでしょう。そこを切れば次につながる」
 水口本人はリオ五輪のみならず、2020年東京オリンピックまで「何とか頑張りたい」と、主催紙の取材に答えている。遅咲きの大輪、という見出しが5年後に新聞に載るだろうか。


【視点1】アジア大会のリターンマッチ
ユニス・ジェプキルイ・キルワ(バーレーン)
木崎良子(ダイハツ)
早川英里(TOTO)
【視点3】今年は私がセンターに!
伊藤 舞(大塚製薬)
堀江美里(ノーリツ)
渋井陽子(三井住友海上)

【視点4】初マラソンに挑むスピードランナーたち
竹中理沙(資生堂)
竹地志帆(ヤマダ電機)
小原 怜(天満屋)



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