2008/6/26
日本選手権2009日付別展望
第4日・6月28日(日) 男子編
予選で標準記録突破続出の100 mに波乱も?
金丸の44秒台は風次第か?
小林は1500m初の5連勝に挑戦

■男子100m準決勝・決勝
 塚原直貴の4連勝が濃厚だ。10秒13の自己新を大阪GPで記録。その前後の織田記念、東日本実業団でも10秒1台で優勝。6月7日のスプリントチャレンジin TOTTORIが10秒36にとどまったのは、3試合連続で10秒1台で走ったダメージで「身体のあちこちに(軽い)痛みが出た」ことが影響した。日本選手権に向けて不安要素になるほどではない。「勝つか負けるかだけでなく、記録的な部分もクローズアップしてもらえれば」と、タイムへの意欲を口にしている。
 織田記念で塚原に0.03秒に迫った高平が2位候補。中盤での差が0.5mほどなら逆転も可能だ。織田記念の予選で10秒20(+2.2)で走った江里口匡史、北京五輪リレー補欠の齋藤仁志、ベテランの小島茂之らにも注目したい。

=陸上競技マガジン7月号記事。以下同

 予選は5組が行われ、好記録が続出した。1組の塚原直貴が10秒09を筆頭に、A標準を江里口匡史と木村慎太郎の早大コンビが、B標準を荒尾将吾が破った。10秒3台は仁井有介、小谷優介、佐久間康太、長沢隼、後藤乃毅、小島茂之と6選手が出している。朝原宣治さんが言ったように、条件が良すぎたのだろう(朝原氏コメントはこちらの記事に)。
 予選を抑えた選手もいると思われるので、予選の記録で決勝の順位が決まるとは思えない。実績なども踏まえて塚原の優勝は堅いと思われるが(塚原の記事参照)、江里口は織田記念では第1レースはよかったものの、第2レースで失敗。本人も1日2本、全力で走ることの課題を口にしていた。
 女子棒高跳の近藤高代や、男子三段跳の杉林孝法のように、実績のあるベテランが突如、復活することもある。男子100 mにあてはまると、小島茂之あたりになる。順当なら塚原、江里口、木村の順になるが、“意外な結果”になる可能性も1割や2割ではないだろう。

■男子400m決勝
 44秒台が目前に迫っている金丸祐三は、「日本選手権は勝つレース。記録はユニバーシアードで」と言う。44秒台へは200 mを「21秒4〜5」(金丸)で通過するのが理想だが、日本選手権は少し抑えるということだろう。といっても、後半を抑えるわけではない。後半200 mを23秒台後半から、23秒を切るくらいに縮められれば、“後半型”の走りで44秒台を出すことも可能となる。
 金丸はA標準を破っているが、B標準の選手がいない種目。堀籠佳宏がB標準候補一番手だが、石塚祐輔も「金丸の背中を追う」と言う。静岡国際で45秒98で走った廣瀬英行も注目選手。金丸が前半を抑えれば他の選手にとっては好ペース。45秒台が続出する可能性もある。


 予選は4組が行われ、100 mとは対照的に記録レベルは全体的に低かった。各選手とも前半の向かい風に苦しんだと話している。
 1組は4連勝中の金丸祐三が46秒75の予選最高タイムでトップ。
「5連覇がかかっていますから、しっかりと予選を通過して次のステージに行くことを考えていました。左の腿の外側がラスト100 mでつりかけました。あれだけ楽に行って46秒75ですから、普通に走れば1秒は上がります。しっかりと走れば1秒5は上がる。明日、出てしまうかもしれませんが、44秒台は最高の舞台で、という気持ちが強くあります」
 金丸の200 m通過は手元の計時で22秒1。向かい風の強さがよくわからないが、無風なら21秒7〜8くらいだろうか。実際にはそれほど抑えたわけではないが、本人の感覚はそこまで行っていない。状態が良いことを物語っているように思う。
 2組の廣瀬英行が46秒90。静岡国際の45秒98以降、大阪GPの4×400 mR、関東インカレ3位とトップレベルに定着している。ただ、予選で力をかなり使ってしまったようだ。
「46秒90の疲れではありません。決勝を走り終えた後みたいです。予選ですが、みんな速いと思って、自分なりにスピードを上げていきました。(標準記録に)行けたらいいですけど、今日でいっぱいいっぱいかな」
 経験の少なさから、“ペース配分”を誤った可能性はあるが、本人が言うより回復が早い可能性もある。
 3組では金丸と同学年の石塚祐輔が47秒11で1位。
「風が強かったので、記録よりも決勝に進むことを優先しました。それにしても、遅すぎます。決勝は金丸に土をつけるつもりで行きます。まずは200 mまできちんとつきたい。いつもそこで離されていますから」
 4組は堀籠佳宏が47秒01で1位通過。
「風が強かったので、1着どりの1着を狙いました。1本走って刺激が入ったので、明日はしっかりと45秒台を出したい。今年の400 m陣はよくないと言われているので、みんなで45秒台のハイレベルの争いをしたいですね。金丸君には2006年に何度か勝っています。苦手意識はないので、積極的に行きます」
 4×400 mRの派遣は、ユニバーシアードで標準記録を破ったときに限られる。メンバーも、ユニバーシアードを走った選手になるのか、日本選手権の上位になるのかわからない。また、仮に日本選手権の上位になっても、200 m3位の藤光謙司や、400 mH代表の成迫健児が4×400 mRを走る可能性もある。
 標準記録を破って2位に入るのが、確実に代表入りする方法だ。

■男子1500m決勝
 渡辺和也、小林史和、村上康則と、過去最多の標準記録(B)突破者が激突する。今季、最も調子が良いのが村上で、兵庫、織田記念、大阪GPと日本選手間で3連勝。シーズン直前の合宿から、一番積極的な走りをしていたという。
 ゴールデンゲームズでは日本記録保持者の小林が3分38秒80と2度目のB標準突破。村上も簡単には勝てない状況になった。渡辺は4月にヒザを打撲。連休明けに練習を再開したが、1500m初戦のゴールデンゲームズは3分49秒85にとどまっている。永里初監督は「ラスト100 mの勝負になれば可能性はあるが」と日本選手権を展望するが、ライバル陣営も認識は同じ。積極的なレースが持ち味の田子康宏も含め、誰が機先を制してスパートするかが注目される。


 渡辺和也が予選で落ち、B標準記録保持者は2人に。そのうちの1人、3分51秒50で2組2位通過の小林史和(日本記録保持者)は、レースの大半を引っ張った。
「決勝は誰が引っ張るかわかりませんが、スローペースでは印象が良くありません。複数選手が決勝に出るチームが、同僚のためにペースメイクするかもしれません」
 該当するのはNTNと富士通の2チームだ。
 この種目では過去に2度、4連勝があるが5連勝はない。小林が勝てば単独で連勝最多記録となる。ピークの年齢が短い中距離種目で、息の長さは間違いなく過去最長。
「練習自体は例年と変わっていませんが、量は落ちていると思います。でも、落ちている分、100%消化するようにしています。世代交替の時期なのかもしれませんが、若い選手に負けたくありません」
 もう1人のB標準選手の村上康則は、左ヒザのガソク炎でゴールデンゲームズinのべおかを欠場したが、練習の中断は4日間ですみ、大事に至るまえに対処できた。2組5位での通過。故障上がりということで、無理をしなかった。
「標準記録を破っているので去年とは全然違います。勝てば代表になれるわけですから。チームの雰囲気がいいので、しっかり練習できました。明日は優勝しかありません」
 1組では5000m優勝の上野裕一郎がラストで2位以下を圧倒(3分49秒20)。ラスト300 mは42秒2で、日本のトップ中距離選手と同レベル。5000mで代表を決めている気楽さがあることは、本人も認めている。
「ラストがここまで出るとは思いませんでした。フルで行ったら3分45秒まで出ていました。しかし、60秒、60秒、60秒で行ったら動きが止まるかもしれません。そのときの対応を勉強したい。2冠は狙っていませんが、プレッシャーなく行けるのは確かです」
 かなりのハイテンションで話した上野(上野にとってはそれが普通である)。最後は上野の方から「2冠は狙っていません」と、念押しするように言って立ち去った。

■男子10000m決勝
 佐藤悠基が4月末にアメリカで27分38秒25の日本歴代3位で走った。4連勝がかかる松宮隆行はなかなか状態が上がらず「昨年ほどよくはない」(酒井勝充監督)。大野龍二もゴールデンゲームズ5000mが復帰戦で14分04秒51。三津谷祐は今年の世界選手権は狙わない。現時点では佐藤が優位に立っている。
 佐藤の特徴は中盤をハイペースで押せる点。1000m毎を2分45秒前後で押していく能力は高い。しかし、今年はB標準でも優勝すれば世界選手権代表に決まるため、駆け引き優先の展開になる可能性も。そうなると、終盤の揺さぶりが武器の松宮や、ラストに強い大野に有利となる。外国人選手を利用して、佐藤がハイペースに持ち込むか。佐藤の戦術が注目される。


 5000m1・2位の上野裕一郎と竹澤健介のエスビー食品コンビ、4位の松岡佑起はエントリーしていない。3位の北村聡が出場する。このところ安定感も出ているので、佐藤悠基や松宮隆行に食い下がり、優勝争いをしそうである。
 暑さを考えると、ハイペースにはしにくくなる。佐藤悠基のように中盤で押す強さの選手には、若干不利になるか。
 6月10日のホクレン深川大会で27分台を出した中尾勇生と岩井勇輝は、勢いを日本選手権にも持ち込みたいが、直前の1万mで頑張った選手は難しい傾向がある。それを打破できるか。
 マラソン代表の佐藤敦之、井川重史あたりが穴的な存在。

■男子走高跳決勝
 日本記録保持者の醍醐直幸が日本選抜和歌山で2m28に成功。唯一のB標準突破者に。しかし、静岡国際は試合中に痙攣を起こして2m16で5位。高張広海が自己新の2m22をクリアし、同記録の土屋光をジャンプオフの末に破った。
 土屋は昨年、標準記録を超えられず五輪代表を逃したが、醍醐を破って日本選手権に優勝した。大阪GPでは2m25の自己新で日本人1位に。同僚の久保田聡も大阪で2m22の自己新(5年ぶり)。シーズン前半で2m22以上が4人という、近年にない盛況を見せている。
 東日本実業団では2m20の醍醐が、土屋と久保田に10cm差で圧勝。醍醐と2位候補選手たちとの差がはっきりするのが、日本選手権ということになった。


 陸マガ記事の後の動向では、高張が日本学生個人選手権に2m20で優勝。自身2度目の大台に成功している。


■男子やり投決勝
 村上幸史が和歌山で80m10、大阪GPで80m54と大台を2度マーク。村上の80mスローは01年の80m59、04年の81m71(日本歴代3位)の2回だけだった。2試合連続も、1シーズンに2度も自身初。北京五輪で外国勢の動きを見て、トップ選手の多くが背中を使っていることを理解できた。「背中でしっかりとやりを引く投げができるようになり、初速が上がっている」と言う。
 荒井謙も和歌山で78m55とB標準を突破。2人ともB標準では世界選手権出場枠は1。激戦も面白いが、当事者2人は揃っての出場を望んでいる。和歌山では荒井の78mが村上の80mの引き金となった。日本選手権で荒井が80mラインに迫れば、村上がA標準を越えて2人の出場が可能になるかもしれない。


 村上幸史は6月6日の七十七銀行記録会で72m56。A標準は突破できなかった。
 今大会で最初のA標準突破者が出ることで2人の出場が可能になった種目は、女子100 mだけ。それに続く種目となってほしいところ。


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