長良川陸上紀行(三)


長良川陸上紀行(一)
長良川陸上紀行(二)

 筆者のイメージはこの際、どうでもいい。問題は、これだけのメンバーが揃いながら観客がほとんどいなかったことだ。そこで感じたのは「箱根駅伝ファンは冷たいなあ」ということ。この日行われた男子5000mには、今年の2区を賑わせた尾田賢典(関東学院大→トヨタ自動車)と、15人抜きのごぼう抜き新記録を作った中川拓郎(順大→スズキ)が出ていたのだ。
 2人だけではない。1年前に優勝テープを切った河村修一(駒大→スズキ)に、ちょっと前だが2区のブレーキで有名となった櫛部静二(早大→エスビー食品→愛三工業)。前日の1万mには浜野健(順大→トヨタ自動車)、岩水嘉孝(同)、渡辺聰(神奈川大→アラコ)、宮崎展仁(順大→NTN)ら、箱根駅伝ファン垂涎の選手たちが出場していた。にもかかわらず、スタンドには関係者しかいなかった(2日目は雨だったからか)。

 なんで箱根駅伝ファンは、箱根駅伝とその前哨戦の駅伝だけを騒ぎ立て、同じ選手が頑張っているトラックレースを見ないのだろうか。箱根駅伝ファンは、東京←→箱根間にだけ、特別な幻想を持っているとしか考えられない。「箱根駅伝は一大幻想駅伝だ」とは、あるライターの言葉だが、あながち否定できない意見である。
 もっとも、社会とはそういうもので、幻想でも実体でも、多数の人間が価値があると思ったものが、盛んになったりお金になったりするものだ。陸上競技なら箱根駅伝以外にも例はある。その1つがオリンピックと世界選手権。出ている選手やレベルにおいて、両者にまったく差は認められない。にもかかわらず、世間ではオリンピックを圧倒的に格上と位置付け、選手・指導者も、その価値観に従わざるを得ない。
 以前にも書いたことだが「僕にとってはオリンピックに出ることよりも、○○マラソンで自己記録を更新することの方が重要」と言って、選手が五輪代表を辞退なんかしたら、その選手は自分を応援してくれる支持者を失ってしまうだろう。わかりやすい言葉で言えば、収入を失ってしまうのだ。世間の価値観はそのくらい、選手に対して影響力を持っている。
 論点がずれたが、オリンピックの隆盛さえ一種の幻想によって成り立っている。その部分で見たら、箱根駅伝もオリンピックも五十歩百歩なのである。高橋尚子が国民的な支持を得られているのは、世間のオリンピックへの幻想が一因と言えなくもない。

 箱根駅伝ファンの冷たさをやり玉に挙げてしまったが、同じことは関東インカレのファンにも言える。杉本龍勇(浜松大教)、馬塚貴弘(スズキ)、渡辺辰彦(同)、田中貴仁(小島プレス)と、関東インカレの短距離を沸かせたスプリンターが今年の中部実業団には多く出ていた。森や村上幸史(スズキ)の投てきの大物選手もしかり。
 関東よりも、東海インカレのファンの方が罪は重い。女子投てきの室伏、綾、三宅は全員が中京大出身。走高跳の今井美希も中京女大と東海インカレ出身。そのファンは名古屋を中心とした地域に住んでいるはずだから、例年、岐阜で行われているこの大会は、応援しやすいはずである。東海インカレと日程は重なっていないし…。

長良川陸上紀行(四)につづく

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