長良川陸上紀行(二)


長良川陸上紀行(一)

 話が大きくそれてしまった。大きくと書いてもイメージできる人は少ないと思うので、為末くらいと書いた方がわかりやすいだろうか……とにかく、岐阜に話を戻そう。
 中部実業団には昨年、綾だけでなく室伏由佳(ミズノ)、三宅貴子(ミキハウス)と投てき3種目の日本記録保持者が揃っていた。走高跳の今井美希(ミズノ)もいたので、フィールドはなんとも豪華な顔触れだったわけである。
「ここに森千夏(当時国士大)が加わったら、女子投てき4種目の日本記録保持者が勢揃いするのか」
 と、美濃路の空を見ながらぼんやりと考えていた。前日の国際グランプリと違い、取材エリアの規制があるわけでもないし、事前に取材申請が必要なわけでもない。カメラマンゼッケンを付け、長良川競技場フィールドの芝生の上から、晴れ渡った空を見上げていた記憶がある。

 別に筆者が希望したからではなく、スズキが森千夏を採用したためだが、女子投てき4種目の日本記録保持者は今年から全員が、中部実業団連盟に所属するチームの選手となった。ただ、今年は三宅がエントリーを見送り、ビッグフォーの揃い踏みは見られなかった。
 しかし、それを補ってあまりある光景が、長良川競技場に展開された。ハンマー投に室伏が参加するのは当然としても、森までが参加して、1つの種目に3人の日本記録保持者が揃ったのだ。これは、対抗戦で企業と企業の意地がぶつかる、地区実業団の試合がなせること。他の大会では、まずあり得ないことだろう。昔はあったかもしれないが、近年ではそんなシーンはなかったと思う。
 大会前々日にプログラムを見た段階で、スタンドから見るのではなく、フィールドに立って間近から競技を見ようと思った。そして、「女子ハンマー投の競技が終わったら、3人に集まってもらって写真を撮って、このサイトに載せよう」と、フィールドから見た去年の青空を思い出しながら、堅く心に誓った……のだが、今年の中部実業団2日目は雨。さすがに、フィールドに出ていくのは厳しかった。「だったら表彰があるさ。3人が1〜3位を占めるのは間違いないし」と、気を取り直した……のだが、森が4×100 mRに出るために表彰には来られなかった。人生、こちらの思った通りには進んでくれない。

 女子4×100 mRはスズキとトヨタ自動車の2チームの参加。トヨタ自動車も全員が短距離選手というわけではなかったが、スズキの1走・池田久美子、2走・鈴木亜弓、3走・児玉真由子、4走・森千夏のオーダーは異彩を放っていた。走幅跳の世界選手権ファイナリストに、短距離のアジア大会代表、バトンの受け取り方をレース直前に確認していた中距離選手に、砲丸投の日本記録保持者。
 1・2走で圧倒的な差を付けると、3走でなり差を詰められたスズキ。だが、森がバトンを受け取ると、ギャラリーの予想以上の機敏な動きに、場内はどよめいた。当然である。森の特徴はスピードのある動作。それが、後半も持つかどうかは未知数だったが…。とにもかくにも、スズキの総合5連勝に花を添える優勝と、森の役者ぶりだった。千夏だけに、千両役者の資質は十分。1年前に美濃路の青空の下で想像したシーンと、雨空の下を爆走する森は、ちょっとだけイメージが違っていたが、ただそれだけのことである。

長良川陸上紀行(三)につづく
長良川陸上紀行(四)

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