2008/4/7 M&K陸上競技部創設記者発表
選手が“プロ意識”を持ちやすい形態
小規模企業が選手を採用できる
システムとは?

「実業団が1、2チーム増えても足りないのが現状」
 陸上競技部設立記者会見に臨んだM&Kの幹渉社長は、こう感じていたという。昨年6月に、自身が陸上部を立ち上げたナチュリルを退職し、もう一度、外から日本の陸上界を見ていた頃の話だ。インターハイやインカレなど多くの大会で関係者に話を聞いたが、トラック&フィールドの選手が大学を卒業後、競技に腰を据えて取り組める環境は、まだまだ整備されていなかった。大学で日の丸をつけた選手にしか、実業団に進む道は用意されていないのが現状だ。
 陸上競技を社業の一環として認め、選手を雇用する実業団制度は素晴らしいが、一部の選手や業界を除けば、利益を直接的に生み出すシステムではない。したがって、会社のキャパシティが大きくなければ選手を抱えられない。会社の業績、世間の景気に左右される部分も大きい。
 その点、M&Kは今回入社する梶川洋平と熊谷史子の2人を加え、全部で4人の会社である。それを可能にしたのが、幹社長の言うところの「芸能プロダクション方式」だ。選手を直接的に利益を生み出すビジネスの枠にしっかりと収めたことが、従来の実業団のやり方と大きく異なる点である。

 具体的にいえば、選手2人はM&Kの正社員である。したがって、実業団登録は「M&K」で、実業団の試合には会社名で出る。しかし、その他の試合には、選手のスポンサーのチーム名での出場となる。為末大がAPF登録で出ているのと同じ形だ。為末は個人的にスポンサーを探し出したが、梶川・熊谷2選手のスポンサーはM&Kが探す。スポンサー料が大きくなれば、選手の収入も、M&Kのマネージメント収入も増えるという仕組みになっている。
 企業側にとっても部を創設するよりも、少ない予算で陸上界に参入できるのはメリットだろう。選手を1人雇用すれば人件費と福利厚生関係でそれなりの金額になる。その点、スポンサーになるのであれば、かなり少ない金額で済む。広告費の一部と考えれば、出資もしやすくなる。
「本人の頑張り次第でフィードバックは大きくなりますし、マネジメント会社としても大きくなれる。これまでは陸上競技に没頭できなかった選手が、セミプロのような形になり、陸上競技の底辺を拡大していけます」
 スポンサーさえ見つかれば、何人でも選手を抱えることができることになるのだ。芸能プロダクションが、才能あるタレントを発掘する能力と、自らのマネジメント能力があれば、どんどん大きくなれるのと同じである。
「メインは若いトップアスリートですが、市民ランナーなどでも有名な方はいらっしゃいます。そういった方も、マネジメントの対象と考えています」

 会見に同席した川本和久氏(熊谷のコーチ、福島大監督)も、システムの先進性を次のように話した。
「選手の力量、頑張りによって人生が拡がっていく。そうすることで、M&Kに恩返しができる。自分の脚で稼ぐのが本来の陸上選手。選手がプロ意識を伸ばしていけるし、そのことがパフォーマンスの向上にもつながると思う。熊谷も13秒5〜7でプラプラしていますが、こういう形でやっていくことで伸びていけると思う」
 プロ意識について聞かれた2選手は、次のように答えている。
熊谷「自分の人生を豊かにできる素晴らしいサポート。結果を出すことが一番の恩返しだと思っています」
梶川「結果を出すことはもちろん、陸上界のすそ野を広げる活動もしていきたい。登録者だけが試合に出るのが陸上競技ではなく、みんなが陸上競技を楽しめる環境づくりにも一役買いたい」
 梶川は3月まで勤務していたクレーマージャパンの陸上競技教室などにも、積極的に参加していくという。

 底辺拡大ができる画期的なシステムではあるが、そこは“ビジネスになる範囲”という条件が付く。今回の選手公募に対しても、それなりの数の応募、問い合わせがあったが、採用できたのは2人だけだった。こちらに記事にしたように、将来的に日本のトップ、さらには世界で戦える見込みのある選手に限られる。実際のところ、現時点でスポンサーがついているわけではなく、1年間は陸連登録もM&Kとなる。大所帯でスタートが切れる資金力はないのである(幸いなことに選手が出身大学の施設を使ったり、コーチの指導も受けられるので、その方面の費用は多額にはならない)。
 このシステムの成否は、ひとえにスポンサー獲得にかかっている。当面はサプリメント業界を中心に探すことになるが、これまで幹社長が長年の研究や経営で携わってきたつながりがあるからである。同社長はカロテノイド研究の世界的な権威であり、サントリーでは研究分野の責任者を務めてきた。サプリメント業界のスポーツ関与に、積極的な役割を果たせる立場にある。もちろん、業界を限定する理由はないし、既存の実業団チームが選手獲得を望めば、それに応じる場合もある。
 こうしてみると、新システムが幹社長個人の能力に負う部分が大きい。だが、それは間違いないところではあるが、選手が成績を出さないことには、マネジメント(スポンサー獲得)が成功することはない。M&Kは、選手と経営者の新しい形での共同作業でもある。


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