2001国際千葉駅伝
10連覇に導いたもの――    ◆後編◆ 前編
苦戦が予想された2区など前半の流れが逆転の布石に

総合成績男女    区間賞一覧男女

 前編では4区・渋井陽子(三井住友海上)の逆転の場面から書き始めた関係で、4区・5区・6区と述べていく形となった。では、前半3区間の選手が頑張らなかったのかというと、決してそうではない。むしろ、4区逆転の下地を作ったという点で、前半3選手の走りが高い評価を受けるべきだと感じたレースだった。

 1区の福士加代子(ワコール)は、このところ絶好調だ。秋になって1万mと3000mでジュニア日本新をマーク(7月に5000mでもマークしている)。秋の5000mレースでは、前半から1000m3分を切る果敢な走りを見せていた。だが、さすがに、マラソン世界最高記録保持者のヌデレバ(ケニア)や、世界選手権1万m5位のボテザン(ルーマニア)たちが相手では、飛び出せない。レースの流れを左右する1区ということで、“失敗が許されない立場”でもあった。
 ところが、スタートしてみるとペースはそれほど速くない。5kmの通過は16分07秒。千葉真子(旭化成、現佐倉AC)の持つ区間記録が30分55秒。区間記録を出した96年の千葉は絶好調だったとはいえ、下りの多い1区を考えたら、5km16分07秒はスローペースといってよかった。
 福士は思い切って勝負に出た。集団の前に出て引っ張り始めたのである。ヌデレバがスパートしたのはラスト1kmを切ってから。そして福士は、ヌデレバに2秒しか差をつけられなかった。
「5kmで1回仕掛けてみて、イケルかなと調子こいて行ったら、(残り)1kmでやられました。今日は自分で仕掛けたり、挑戦したり、ロードの10kmは初めてでしたが、いい経験になりました。自信になりました」
 31分37秒はトラックの1万mのベスト、31分42秒05を上回るが、歴代の日本選手の記録を見ても、トラックの記録を上回るのは当然といっていい区間である。記録よりもむしろ、5kmと早い段階で、ヌデレバを相手にレースをリードしたことを評価したい。
 福士はケニアと2秒差の2位、3位のエチオピアとは同タイムで2区・川島亜希子(東海銀行)に中継した。レース前、日本が苦戦するとしたらこの2区だと考えられていた。川島も今季15分22秒70と自己新をマークしているが、外国勢は世界選手権5000m優勝のエゴロワ(ロシア。ベスト記録14分29秒32)と、シドニー五輪5000m7位のギダネ(エチオピア。同14分47秒40)なのである。この区間だけで、1分負けてしまう可能性すらあったのだ。
 川島陣営もそのことは十分に自覚していた。東海銀行の竹内伸也監督は次のように事情を明かしてくれた。
「1区でドンと行ってくれれば一番いいのですが、いかに福士さんとはいえそこまでは期待できません。2区でなんとかしないと、3区の岩本さんにも影響が出てしまう。大事なつなぎだよ、と川島には言ってありました。区間賞を狙っていくくらいでないと、10連覇の責任は果たせないよ、と」
 竹内監督の示唆が、いい方向に出た。「10連覇のことで頭がいっぱいだった」と言う川島は、並走するエチオピアの選手がどんな選手なのか、頭が回らなかったという。そのせいとは断定できないが、格上の相手に一歩も引かなかった。
 ギダネとまったく同タイムの15分24秒で区間1位。中継では僅かに先着した。劣勢と思われた川島の頑張りで、3区・岩本靖代(日本生命)が楽になった。エチオピアのエルケッソとは1万mのタイム(31分50秒97と32分01秒04)でも、世界ハーフマラソン選手権の順位(9位と20位)でも、岩本が上回る。だが、この日のエルケッソは、そういった肩書き以上の力を発揮したのだ。
 前編でも紹介したが、駅伝でトラックの記録は当てにならない(かなりの目安にはなるが)。2区のエゴロワは、17分03秒で区間9位という惨憺たる結果。エゴロワが力を発揮できなかった悪い方の例だとすれば、エルケッソは力以上のものを出した例だろう。
「後半は自分の方が強いはず」と考えた岩本は、前半から積極的な走り。エルケッソの前で引き離そうとし続けた。だが、エルケッソは離れない。それどころか、4km前後からエルケッソがちょっとずつリードを奪い始める。
 普通なら、そのままずるずる引き離されるケースだが、岩本は射程圏以上に離されなかった。仮に引き離されても、次の走者のため1秒でも早くタスキを渡す。それが駅伝の精神である。
 実は岩本も、絶好調ではなかった。秋に大ブレイクした彼女だが、史上空前の激戦といわれ“関西4位以内”に入ることが至上命題だった11月3日の淡路島女子駅伝が終わり、次の大きな目標は12月9日の全日本実業団女子駅伝。その合間での出場となった。練習では好調とは言い難い状態。まして、渋井の走る予定だった区間を、急きょ走ることになった。万全の準備ができていたわけではない。それでも、本番になると岩本は走れてしまう。
 もちろん、駅伝だから、のひと言では片づけられない。岩本の場合、世界ハーフマラソンや淡路島女子駅伝で実証済みの、大舞台での勝負強さがある。さらに、森岡芳彦監督が指摘する「後半の強さ、粘り強さ」も、岩本の特徴である。中盤で差を広げられることなく粘り、終盤は差を詰め始めた。4区への中継では、エチオピアを1秒差まで詰めていた。
 1区・福士のヌデレバを相手にした果敢な走り、劣勢が予想された2区での川島の獅子奮迅の走り、中盤で引き離されながら終盤で盛り返した3区・岩本の粘り。すべてが4区・渋井の逆転劇につながっている。
 駅伝は総合力であり、“流れ”が重要であることを、世界にアピールした日本の10連覇。その駅伝の流れを作り出すのは、1秒を大切にする、タスキに託す駅伝の精神なのだと、世界は理解してくれただろうか。

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