特別レポート

計測工房

@春の高校伊那駅伝

競技会運営を
舞台裏で支える
タイム計測会社の
活動をレポート



前編 中継所のタイム計測

 春の高校伊那駅伝は、男子は伊賀白鳳が2時間10分14秒で2連勝を達成し、女子は大阪薫英女学院が1時間09分54秒の大会新で初優勝を飾った。
 そのレースのタイム計測を担当したのが計測工房だった。
 トラック&フィールドは電気計時システムで計測されるが、多くの選手が重なって中継所やフィニッシュ地点を通過する駅伝やマラソンでは、写真判定でもある電気計時システムは使用できない。
 少人数であれば手動計時で対応できるが、現在のように何千、何万人が出場する市民マラソンや、何十チームが雪崩をうって中継する駅伝では、選手1人1人のタイムを正確に計測するシステムが不可欠となる。
 タイム計測をビジネスとする会社がいくつも生まれているが、その中でも計測工房は高い評価を得ている。春の高校伊那駅伝の同社の活動を追うなかで、その理由がはっきりとわかった。



写真@
1人の選手にチップは2個
 この写真が、春の高校伊那駅伝で使用されたナンバーカードと計測チップ。すでにチップがナンバーカードに貼り込まれている。今大会では身体の前と後ろ、両方のナンバーにチップが貼り込まれていた。
「市民マラソンではチップは1個のことが多いのですが、この大会や箱根駅伝予選会、全日本大学女子駅伝など、テレビ中継のある大会は万が一の時に備えて1人の選手に2つ用意します」
 計測工房の創業者でCEOの藤井拓也社長は説明する。
 厳密には先に計測地点を通過するチップが正式タイムとなるが、万が一身体の前に付けたチップが反応しなかったとき、背中のチップで計測ができていれば大事には至らない。
 藤井社長を取材していると何度も「バックアップ」という言葉が出てきた。万が一に備える姿勢は、計測工房の社是でもあるのだろう。
 春の高校伊那駅伝のエントリー選手数は約1100人。約2200個のチップに、主催者から提供された選手名を登録し、それをナンバーカードに貼り付けていく作業を事前に行う。その作業でミスがあれば、他人のタイムがその選手の正式記録となってしまう。そこでも確認作業は何重にも行っている。
 また、チップのバッテリーは最低でも5年はもつが、本番でバッテリー切れが起きないように、最低でも2回はチェックする。万にひとつの失敗も起きないように完璧を期すのが計測工房のやり方なのだ。
写真A
中継30分前にマットを敷設
この写真は女子第1中継所の中継予定30分前で、計測工房のスタッフと陸協の審判員が、計測用のマットを道路に敷設しているところである。交通規制ができる時間は限られるので、作業スピードが求められる。
写真B
17セットを持ち込んだ春の高校伊那駅伝の計測
センサーであるマットと、アンテナなどチップの発する電波を受信する計測機を各中継所に設置する。春の高校伊那駅伝では17セットを現地に持ち込んだ。東京から藤井社長が2トントラックを運転して現地まで運び、現地では2台のワゴン車(レンタカー)を調達して、各中継所に機材を運んだ。
写真C

最後まで徹底する確認作業
中継所にはマットを2つ敷く。選手が先に通り越す方が正式計時となるが、万が一反応がなかったときに備え、2つめのマット通過時のタイムも計測しておくのである。設置後にオレンジ色のジャンパーを着た計測工房スタッフが、何度も両方のマット上を走り、正常に作動するかどうかを確認していた。
写真D
万が一に備えてのビデオ撮影
各中継所とフィニッシュ地点には、計測機とは別にビデオ撮影機も設置する。全走者を動画で撮影し、時刻を書き込んでおくようにすれば、不測の事態が起きたときに最悪の事態を避けられる。このシステムが数年前、ある駅伝で繰り上げスタートがあったときに役立った。陸協役員から繰り上げによるタイム差は何秒と通達があり、そのタイムをマイナスして正式タイムとしたことがあった。だが、選手からのクレームがあり、ビデオを確認したところ、陸協からの報告が10秒間違っていたことが判明した。単純な記入ミスだったようだが、間違いを証明するビデオ映像がなければ訂正することはできなかった。
写真E
いざ本番
選手たちは中継所のマットの、前区間側の方に立ってチームメイトを待つ。走り込んでくる走者の身体の前に付けたチップがセンサーに反応したときが、中継タイムになるが、万が一反応したかったときも、写真@〜Dで紹介してきたように、タイムが計測できないということは起こらないシステムになっている。

後編 藤井社長のタイム計測に懸ける思い に続く


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