川材木店
密着ルポ 2012-13
第1回
創部10年目の変化









クラブハウスに隣設されたツリーハウスで
                                        @クロスカントリー・コースから

A“新監督”の流儀

●11月にピークを
 村井のコメントからわかるように、9月の各選手の好記録は、スピード練習を少し入れた段階で出た。あくまでもピークは11月の北陸実業団駅伝と、元旦のニューイヤー駅伝に合わせるという流れでトレーニングを進めている。
 重川材木店は今春、重川隆廣社長が陸上競技部の監督に就任した。
「どうやったら11月にピークを持っていけるかを考えました。4月や6月の記録会のタイムがシーズンベストになっては意味がありません。4月、5月、6月と段階的に記録を上げていき、7〜8月にもう一度走り込む。疲れを取って9月末から徐々に記録を上げていくトレーニングの流れを組みました」
 4月の新潟市選手権で14分55秒、5月の北陸実業団選手権で14分45秒、6月の新潟県選手権で14分35秒と目標を設定、県選手権では14分29〜14分37秒に6選手が入りました。
 8月の十和田八幡平駅伝は、夏場の走り込み練習の一環として出場した。
「2年ぶりに参加しましたが、一昨年よりも11分25秒記録が良くなりました。例年35℃くらいに上がる気温が今年は20〜25℃で、気象コンディションが良かったのは確かです。他のチームもおしなべて5分くらい良くなっています。ウチのチームはコンディションで5分半、選手の走力アップで6分近くよくなったと分析しています」
 調整していないなかでこの結果が出たことは、選手たちの地力がアップした証だろう。特に1区は登りがきついコースだが、村井は「すごくしんどいイメージがあったコースですが、今年はすんなり登れました」と感想を話した。クロカン練習の効果でもあった。
 当たり前であるが、練習の効果が出るのに個人差はある。岩倉駿は重川材木店ナンバーワンのスピードランナーだが、起伏を走るのは苦手。クロカン練習も夏までは集団から離れることが多かった。
 だが、秋になってクロカン練習についていけるようになると、9月の日体大5000mでは14分25秒08と、自己2番目のタイムで走った。9月になってスピード練習の頻度を多くしたこともあり、各選手の足並みが揃ってきたのである。
 10月の新潟県縦断駅伝は平坦の区間もあれば、アップダウンのある区間もある。三浦のように前年よりもタイムが大幅にアップした選手もいれば、「距離への不安がなくなりました。今年が一番余裕を持って走れました」と言う岩倉のような選手もいる。
 そしていよいよ、勝負の11月を迎える。

●重川流人心掌握術
 重川社長の監督就任は、豊岡知博前監督が実家の家業を継ぐために退職した事情による。クロカンコースの整備など、トレーニング環境はずっと考え続けてきたが、今春からは練習スケジュールも立案し、毎日の朝練習とポイント練習は「よほどの仕事が入らない限り」(重川社長)現場で監督するようになった。
「跳躍や投てき種目ほど、長距離・駅伝の指導は技術にこだわらなくていいと考えています。フォームや、ウエイトトレーニング方法などは選手個々が考え、アドバイスし合っています。私の担当は選手の心の部分です。いかにその気にさせるか。どんなに素晴らしい練習メニューを考えても、実行できなかったら絵に描いた餅ですから、一人ひとりの性格と目標への取り組み方にウエイトを置いています」
 クロカン練習の効果はフィジカル的にも間違いないところだが、選手の気持ちに変化とやる気を起こさせる狙いもあった。同じ意味で、朝練習を以前のフリーから集団走に変更した。
 三浦は「これまで朝練習はしっかりできていませんでした。集合もなかったので、体がきついと起きられないこともあったんです」と言う。朝練習をしっかりやる意識になったことで、生活全体も引き締まったのだろう。それができるようになった背景には、仕事の上達があったのは明らかだ。
 大東大、SUBARUとレベルの高いチームの練習を経験してきた村井も次のように話す。
「フリーにするとレベルの低い選手は、本当にゆっくり走ってしまいます。意識の高いエリート集団とか、天才的な選手以外は集団で走った方が効果はあるように思います」
 夏場は4時50分に集合して、5時には走り始める。

クロカンコースの草刈りを毎朝行っている重川社長

寮に帰って朝食をとり、早いときには7時に出勤する。朝練習の負荷は大きくなるが、その一方で勤務時間を若干少な目にした。ポイント練習の日に仕事を12時に上がるのは同じだが、ジョッグの日を以前のフルタイム勤務から15時上がりに変更した。
 重川社長は個々の選手へのアドバイスを積極的に行ってきた。なかなか勝てないライバル選手も一緒に走る1万mのレースでは「6000mまで頑張ろう苦しくなったら6000mでやめていいぞ」と言ったことがあった。走り終わってみるとその選手に20秒差をつけていた。そのひと言で目標が明確になり苦手意識がなくなったようだ。
 新潟県縦断駅伝では17.6kmの区間を走る村井に対し、「3分10秒で入ればいいぞ」と話した。村井は3分08秒で入り、結果的に前年より1分半タイムを短縮した。
 重川社長はいつものように静かに、しかし自信を持った口調で話す。
「選手の気持ちをマネジメントすることが重要だと考えます、経営者はそれを、会社を運営するために毎日やっています。その経験が駅伝の指導でも役立っています」
 重川勢好調の理由は、クロカン練習だけではないようだ。

●北陸実業団駅伝へ
 重川社長のトレーニングの流れは、11月の北陸実業団駅伝にピークを合わせている。前述のように9月からスピード練習の割合も多くした。と、同時にロードの練習も入ってきている。
「夏の間もロードをまったくやらなかったわけではなく、加茂(重川材木店の木材工場と研修センターがある場所)で30km走も何度か行っています。これからの時期は本社の近くの農道コースで、1kmや2kmのインターバルの感覚で練習をやります。向かい風や横風の対策もしていかないといけませんからね」

 一昨年、昨年と2位を確保しニューイヤー駅伝出場を果たしているが、昨年は3位の高田自衛隊に16秒差と迫られた。メンバー的には昨年から大きな入れ替わりはないだけに、この1年の成長が問われる大会でもある。
 開催場所は昨年までの岐阜県下呂市から、愛知県田原市に移る。下呂

北陸実業団駅伝が近づき、ロードでの練習も多くなっている

はアップダウンの激しい難コースだったが、田原も同じようにタフだという。
 村井が「海岸に近いところは風が強くて、アップダウンの厳しい区間もあるコースみたいです」と説明してくれた。「そこでクロカンで強化した部分が生きればいいですね」
 重川社長は「昨年までのコースで4時間10分が目標」と言う。これは北陸実業団駅伝の例年の優勝タイムに近い。また、同じコースで併催されている中部実業団対抗駅伝の、予選通過ラインでもある。重川材木店のベストタイムは4時間15分03秒(2006年)。5分程度のアップは可能だと重川社長は手応えを感じている。
 選手たちのモチベーションも上がっている。
「春から社長の設定した目標に沿ってやれて来られていますから、北陸実業団駅伝も目標通りに走りたい」(河野)
「区間賞を取るつもりで準備します」(岩倉)
「北陸が勝負ですね」(村井)
 新コースで、新たな重川材木店を見せるときが近づいている。

山田亮太
 地元の十日町総合高を卒業して1年目。6月に14分59秒と自身初の14分台をマークしたが、その後2カ月故障で練習が中断した。
「故障もしましたが、高校の時よりも練習量は格段に増えています。十日町はアップダウンの多い地形なので、クロカン練習にはすぐに馴染めました。まだまだ弱い選手なので、まずは駅伝メンバーに入れるように必死で頑張ります」
樋口幸平
 大阪経済大から入社して2年目。6月に14分42秒と、学生時代の自己ベストに6秒と迫った。
「去年と比べたら地力が上がっているのがわかります。昨年は環境が変わって慣れるのに必死でしたが、今年はその経験が生きています。(メンバー入りするために)毎日、補強をしっかりとやっています。やるべきことをしっかりやっていくだけです」
前田信哉
 東洋大から入社して2年目。昨年の北陸実業団駅伝は最長区間の3区(15.4km)を任されたが区間4位。今季は故障もあって調子を落としていたが11月に入り距離走もインターバルも設定通りにこなしてきている。
「東洋大の都市環境デザイン学科で学んだので、それを活かすために、重川材木店で走り続けようと思いました。1万mの自己記録(29分18秒04)が大学1年のときのものなので、早くそのレベルに戻したい。高校の先生、東洋大の川嶋伸次前監督、酒井俊幸監督のおかげで競技が続けられているので、恩返しの意味でも頑張ります」
中西輝旭
 大阪高では400m日本選手権8連勝中の金丸祐三の同級生。佐川急便を経て重川材木店に入社して3年目。昨年の北陸実業団駅伝は7区で区間3位。
「今年から床暖房の部署に移りました。去年まで陸上部だった渡辺絢也さんに助けてもらいながらやっています。メンバー入りでボーダーラインの自分が頑張って、上の選手たちに危機感を持たせたい。それがチームにプラスになると思う」
河村拓朗
 駿河台大では400 mのエドモントン世界陸上代表だった邑木隆二監督の指導を受けた。岩手県の東邦リファインで競技を続けたが1年で退職。以後の2年間、自営業の実家の仕事をしながら走り続けた。今春、重川材木店に加入し、6月の新潟県選手権5000mで優勝。
「自分が入ったことでチームに刺激を与えたいし、自分も刺激を受けたい。東邦リファインのときに1分差で、東日本予選を突破できませんでした。箱根駅伝にも出られませんでしたし、ぜひともニューイヤー駅伝を走ってみたい」

◆選手募集◆
重川材木店では日本代表を目指す志の高い選手を募集します。
高校生・・・14分50秒以内
大學・一般・14分30秒以内


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