重川材木店 密着ルポ 2012-13
第1回
創部10年目の変化


 今季で創部10年目となる重川材木店が新たな姿を見せ始めた。4月にクロスカントリー・コースを完成させ、トレーニング形態が大きく変わった。4月、5月、6月とタイムを徐々に上げ、秋には自己記録や入社後ベスト記録をマークする選手が続出している。クロスカントリーの効果は明らかだが、"仕事のできる選手が強くなる"という重川材木店の理念は、変わることなく継承されている。10年目の重川材木店を追跡する。

@クロスカントリー・コース

●三浦が入社4年目で自己新
 2003年に創部した重川材木店。今季で10年目となるチームを象徴しているのが三浦拓也の自己新だろう。滋賀学園高から入社して4年目。10月6日の北陸実業団記録会5000mを14分41秒で走り、高校3年時にマークした14分47秒を4年ぶりに更新した。
「今まで陸上競技をやってきて、一番嬉しかったかもしれません。重川材木店に入ってから、高校の記録にほど遠い走りしかできない時期が続きました。昨年からあと1、2秒というレースもあったんですが、そんななかでやっと破ることができました」
 年次ベストは入社1年目が15分19秒、2年目は15分20秒にとどまった。昨年14分49秒を出し、今年は6月の新潟県実業団選手権で14分48秒と自己ベストに迫っていた。
「1、2年目は単純に練習不足でした。朝練習は今ほどしっかりできませんでしたし、仕事にも慣れていなかったので、練習にも集中できません。上の人たちと同じ設定ではあまりできませんでしたね」
 昨年から持ち直すことができたのは、それらの問題点が徐々に改善されてきたからだと三浦は考えている。その間には色々な試練もあっただろう。入社当時はあどけない少年の顔つきだったが、今は青年のそれに変わってきた。
 重川材木店での基本は、大工の仕事との両立。仕事でストレスを大きく感じている選手は競技も伸びない。三浦も「コツがだいぶわかってきて、スムーズにやれるようになってきました。"外下地"の作業はだいたい理解できて
4年ぶりに自己新をマークした三浦
きました」と言う。"外下地"とは外壁を張っていくための内側部分、つまり下地をしっかりと造っていく作業である。
 今季は「越佐の丘」にクロスカントリー・コースが完成。クロカン練習でも最初は先輩たちに離されることが多かったが、夏が過ぎるとついていけるようになった。「お盆休みも帰省せず、新潟に残って毎日クロカンをやっていました。地道に練習したことが今、成果として出ているのだと思います」
 3月にびわ湖マラソンに出場(2時間26分02秒)したのは、滋賀にいる両親へ走っている姿を見せてあげたいという社長の親心からだが、それにより練習量が増えたこともプラスに作用した。10月の新潟県縦断駅伝は2日連続で出場。両日とも昨年と同じ区間に出場したが、起伏のある2日目の5区(17.9km)を54分35秒で走り、3分半もタイムが良くなった。
 同駅伝は新潟県郡市区対抗形式で、重川材木店の選手はいくつかのチームに別れて出場する。2日目の5区を走ったエース格の村井健太は、2日間で1回出場し、自身も昨年より1分半記録を縮めたが差は11秒しか勝てず、三浦の成長を実感した。
 佐川急便から移籍して3年目の中西輝旭も同区間を走り三浦に1分以上負けた。「強くなっていますね。しょうがないから認めます」と、冗談とも本気ともとれない口調で話した。

●クロカン・コースの利用法
 三浦の話のなかにも出てきたクロスカントリー・コースが、の重川勢今季好調の理由の1つになっている。1月に新潟県立青少年研修センターに隣接する6万平方メートルの土地(越佐の丘)を購入。以前から丘管理のためにあったAコース(1km)を4月までに整備し、5月には新たにBコース(1km)を造成した。Aコースは高低差22.96mで2カ所に急な坂がある。Bコースはで高低差15.5m、Aコースよりも緩やかだが上り下りが長く続く。両コースはクラブハウス近くの支点でつながっているため、最大2kmのコースとなる(コース図参照)。
直線のなだらかな上り(下り)、眼下に大パノラマが広がる緩やかな直線コース、急勾配の直線的な上り(下り)、ゆるやかでカーブも加わった下り(上り)など、変化に富んだ重川材木店のクロカンコース
 クロカンコースを持つ実業団チーム、大学チームは近年増えている。全てのコースを見たわけではないが、越佐の丘の傾斜はきつい方だろう。足下にウッドチップを敷いているコースもあるが、このコースは自然のまま。ハードになるが、効果も大きい。新潟陸協からの要望で、高校生や中学生にも解放している。
 8月に完成したクラブハウスは、重川材木店の本業が生かされている。1階にはトイレとシャワー&バス、広いダイニングとキッチン。2階には13畳と7畳の2部屋があり、20人くらいが寝泊まりすることも可能だ。
 本社からも寮からも車で7分の距離にあり、朝練習は全員で6〜8周走る。季節によって変わってくるが、距離走やロングジョッグなど、本練習の多くもクロカンコースで行うようになった。脚筋力とバランス感覚の養成、関節可動域を大きくすることなどがクロカンの効果として見込める。
 富士通、東邦リファインを経て入社3年目の河野孝志は、「スピードで追い込まなくても負荷をかけることができます。トラックや道路のような平らな足元ではないので気をつけないといけませんが、アフリカの選手などもそういう環境で鍛えています」とクロカンの利点を説明する。
 距離走的に10周(20km)を行い、その翌日に8周(16km)を走ることもある。高橋秀昭は「30km走を1本やって2日休むなら、クロカンで2日に分けてやって1日休む方が効果がある」と感じている。
 高橋は日大時代に箱根駅伝の山登り(5区)を経験していることもあり、チーム内では"クロカン練習が得意な選手"という評価。集団で走るときは先頭を引っ張ることが多い。
「得意とは思っていませんが、先頭を走った方が自分のリズム、感覚で走りやすいのは確か。上りはしっかりと走って、下りは飛ばしすぎないように意識しています。上りで脚が動かなくなるときは、腕をしっかりと振るようにしています」

「クロカンコースについて」
重川隆廣社長兼監督
「クロカンコースは創部(2003年)当時から欲しいと思っていました。本社と寮の周辺は平地が多いのですが、合宿だけでなく通常の練習でもアップダウンを走らせたかったのです。本社から海までの一帯は新潟県内でも雪が少なく、そこにクロカンコースを持てたら冬でもかなり走り込めます。車の心配のないところで練習させたいという気持ちも強くなってきて、昨年から本腰を入れてコースを探し始めました。
 クロカン練習を多くした当初は、選手に『疲れが残る』という声も多かったのですが、1カ月半くらいした頃から『トラックが楽になった』という選手が増えてきました。6月後半の新潟県選手権の5000mと1万mで上位を独占して、効果を実感できました。今までは遅れ始めると一本調子で落ちていくケースが多かったのですが、今年は粘れるようになりましたね。上りなど『あそこまで頑張ろう』と目標を設定して練習ができるのがいいのかもしれません」



●自己新や入社後ベストが続出
 今季の重川勢は三浦拓也以外でも、自己セカンド記録や入社後のベスト記録を出した選手が多い。
 河野は9月の日体大長距離競技会5000mで14分23秒86と、社会人になってからの最高記録、自己2番目の記録で走った。高橋も同じレースで14分27秒68、村井は14分29秒75をマーク。練習の流れ的にはまだスピード練習を増やしていない段階で、3人とも重川材木店入社後の自己最高記録で走ったのである。
 村井は大東大時代の14分05秒85がベスト。SUBARUでも14分ヒト桁で何度か走っているが、更新することはできなかった。
「大学ではかなりクロカンをやっていましたが、卒業後はフラットなコースが日常の練習では多くなりました。今年は、もう一度クロカンを重視してやったのが良かった。トラックでスピードを出す練習をしないと自己記録までは届きませんが、卒業後はそこのタイムだけを上げようとして上手くいかなかった。筋力がないのにそこだけやろうとしてもダメなんだと思います。31歳になりましたけど、今は自己記録が出せそうな感覚があります」
 入社2年目の樋口幸平は「今季は一度も故障をしていない」といい、5000mも1万mも学生時代の自己記録に迫っている。同じく2年目の前田信哉は東洋大出身で、重川社長から「練習で妥協しない。周囲へ良い影響を及ぼしている」と評価されている。
 河村拓朗は駿河台大卒業後に東邦リファインで1年間、実家の仕事をしながら2年間走り続けていたが、今春重川材木店に入社した。6月の新潟県選手権5000mに14分29秒41で優勝。「スピードが戻ってきて、3〜4年ぶりに14分30秒を切れた」と手応えを感じている。
 今季の重川材木店には"確かな勢い"がある。
A“新監督”の流儀につづく

クロカンコースlからの景観。
上から朝日、晴れた午前中、夕日


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