重川材木店密着ルポ2010-11
第2回 ニューイヤー駅伝迫る!
@目標は30位以内から
A選手たちを成長させた取り組み

●控え選手の長期プラン
 登石暁は控え選手の心づもりをしっかりと持っている。区間エントリーが行われる12月31日までに体調不良者が出た場合、登石は6区に入る可能性が高い。もしも、区間エントリー後に体調不良者が出たら、その体調不良者の区間を走らなければいけない。つまり、どの区間を走るのかはわからない。
「当日の朝、どの区間に行けと言われても、行ける体調に仕上げていきます」
 登石の言う“行ける体調”とは、その時点で自身が持っている力を出し切れる体調という意味である。例えば4区や5区のエース区間で、区間30位争いができるという意味ではない。
「正直、自分と他チームのエース級とはレベルが違います。良い意味で割り切っています。でも、今回通用しなくても、1年後のニューイヤー駅伝、2年後のニューイヤー駅伝で通用する力をつけていくための、きっかけになればいいと思っています」
 登石はこの1年間の取り組みを、その方向で続けてきた。
「昨年までは1カ月、2カ月で結果を出そうとして失敗しました。今は長い期間で結果を出すために取り組んでいます」
 重川材木店は2010年6月に豊岡知博監督が着任した。それ以前の方が「1回の追い込み方は上だった」と登石は言う。豊岡監督の練習は「追い込み方が規則的で、穴が少なくなった」と。
 登石独自に練習の工夫もしている。つなぎの練習の日に、ジョッグの後に1人で400 m×5本を行ったり、ポイント練習翌日の朝練習で、走る時間を長くしたりしている。
「限界まで追い込むことに慣れていませんでしたが、動かなくなるくらいまで負荷をかけ、体なりメンタルなりを慣らしていこうとしています」
 そこまで追い込むと、即効的な記録はまず出ない。「ケアさえしていれば大丈夫」と登石は言っているが、ケガさえしなければ長期的に見て記録が出るはずの取り組み方だ。
「1年後、2年後のニューイヤー駅伝で」と登石が話すのは、こういった背景があるからだった。
控え選手の登石。直前の各選手の状態次第では6区出場があるかもしれない

●限界に挑む
 高橋秀昭は1年目だが、シーズンの途中から大きく練習への取り組みを変更した。前回も紹介したように、8月の十和田八幡平駅伝でブレーキをしたときに、“もっと頑張らなければ”と意を強くした。それを具体的な行動に起こしたのが、朝練習を充実させることだった。
 朝練習は5:30からだが高橋は4:30に起床。集合前に40分間走るようにした。
「監督も言っていましたが、同じ60分間の朝練でも、早く起きて自発的に走るのと、今日も朝練かと思ってなあなあでやるのでは、効果が違うと思います」
 高橋は60分ではなく、そこに40分のプラスをし始めたのである。それは想像以上のきつさを伴った。前の晩は20:30か遅くとも22:00には就寝するが、それでも月曜日から金曜日まで続けると「ボロボロになります」という。「土日でなんとかリセット」しているという。秋以降の高橋の快進撃の裏には、ぎりぎりまで追い込んだ朝練習があった。
朝練習への取り組みを大きく変更した高橋は秋になって好調
 岩倉駿はインターバル練習のジョッグのスピードを、速くできないかと工夫し始めている。
「今まではリカバリーを休みと考えていましたが、リカバリーもレース中の上下動ととらえて、1つ1つつなげていけば、レースにつながると思うんです」
 そして村井健太は、豊岡監督になってから「全力で追い込むメニューが多くなった」という。
 昨年までは指導者がグラウンドにいなかったこともあり、選手が自身の体調を見て、タイム設定を遅くしたり本数を減らしたりすることも多かった。監督が練習を見るようになった今季は、体調を相談して練習をしている。豊岡監督は、軽い疲労で体が動かない程度なら、頑張って設定タイムでやらせることもある。その一方で、痛みがひどければ、即座に治療に行くように指示を出すこともあった。
 村井によれば、豊岡監督になっての一番の違いは「フリーにさせる姿勢」であり「競技に対する熱い思い」であり、「もっとすごい選手になってもらいたいという思い」であるという。タイム設定を速くするのでなく、「強くなりたいなら、挑戦しなさい」という言葉で選手を鼓舞しているという。

●“つねに全力で”
 今年6月に着任した豊岡知博監督は、福岡の名門校である大牟田高からカネボウ(当時鐘紡)に入社。13年間の選手生活を送った後、九州柳河精機で7年間の選手兼コーチを務め、柳河精機(三重県)で5年間監督を務めた。
 指導の核としていることの1つに、“つねに全力で”というテーマがある。これは、毎日速いペースで走るという意味ではない。ペースが速い日に全力で走るのは当然だが、ペースが遅い日でも全力で走る。
 これは、豊岡監督自身の体験に基づいている。
「ペースが遅いから大丈夫だと心に油断があると、遅いペ 豊岡監督
ースでもきつく感じてしまうんです。例えば5km17分ペースだと油断をしたら、そのペースでいっぱいに感じてしまう。ペースアップされるとついていけません。全力で行くと思っていれば、ペースアップにも反応できる。ペースを決めてしまうと、それがその日の全力だと思ってしまうんです」
 この考え方は、ポイント練習にも応用されている。2km×5本をやった場合、タイム設定はあるものの、それは誰でも達成できる低いレベルに設定する。そして、余裕のある選手はどんどん設定を上回るペースで走るようにする。
 登石が実践している「限界まで追い込む」ことも、高橋が実行している「朝練習前の40分ジョッグ」も、岩倉が試みている「リカバリーのペースを上げること」も、そして村井が感じている「全力で追い込むメニューが多くなった」ことも、豊岡監督の“つねに全力で”という考えに基づいてのことだろう。
 その豊岡監督はニューイヤー駅伝本番のレース展開を次のように考えている。
「今のレベルでは前を追いかけるのは大変ですから、前半から後れたらレースになりません。2区のカギアにつなぐときに、30位より前の選手が何人か見える位置でタスキを渡すことが、まず重要になります。3区以降は、後ろから追い上げてきた選手に食らいつき、同じくらいで次の選手にタスキを渡す。次の選手も、周りにいる選手に食らいついてレースを進めていく。そういう走りを7人がすれば、30位以内も見えるのではないかと思っています」
                            ◇
 重川材木店の新たな挑戦の中、選手は「本気で陸上競技と仕事の両立をするために重川にきたことを伝える走りをしたい」と言う。
 重川材木店にとって2度目の大一番が近づいている。


寺田的陸上競技WEBトップ