重川材木店
密着ルポ
2009-10

最終回
再スタート
@力を出し切るための練習をから
A重川材木店らしい新人の加入

フルタイム勤務で国体連続入賞
 11月に1人の選手が重川材木店に加わった。29歳の宮入一海。高校駅伝の強豪・佐久長聖高2年時(97年)にインターハイ3000mSCで8位入賞したが、山梨学大進学後は腸けい靱帯の故障で試合にはほとんど出られず、3年目(01年)の秋に中退した。
 フルタイム勤務の市民ランナーとして走り続け、2年目(03年)の静岡国体で8分49秒59で4位に入賞。04年は富士通で実業団選手を経験したが、05年からは再度、地元で市民ランナーとして走ってきた。国体3000mSCは06年から3年連続入賞。08年の大分国体では8分48秒56と自己記録を更新した。
「ケガが続いた頃は、陸上競技を話すのも見るのも嫌でした。でも、そこからいろいろとあって、自分は陸上競技が好きなんだと思いました。タイムも出したいし、競技自体も楽しみたい」
 具体的に1つの出来事がそういう心境にさせたわけではないようだが、佐久長聖高から山梨学大に一緒に進んだ選手が箱根駅伝を走ったことは、感じるところが大きかった。
 一度挫折した人間が立ち直ったときは強い。そこには必ず、強烈な意思がある。宮入はその典型的な選手だった。
 05年からは建設業関連職種で8時から17時までの勤務、体を使う仕事だった。勤務後に練習をしていたが、練習のできるトラックまで行くには車で1時間かかった。
「練習はロードとクロスカントリーが中心で、トラックでの練習は国体のレース前日くらい。障害はぶっつけ本番です。ポイント練習は週に2回か3回。週に1日は完全休養にしていました。日曜日も仕事がありましたから、試合に出るときは有給を使うしかありませんでした」
 その環境でも長野県内ではトップクラスで、8分40秒台を2度出したのである。陸上競技への強烈な思いがなければできないことだろう。
 その一方で、明確な目標は立てないのだという。独特の競技観かもしれないが、それだから続けて来られたのかもしれない。
「重川材木店ではチームの目標として駅伝があります。そのためにはまず、トラックの記録を伸ばしたい。5000mと1万mは高校時代の記録が残っていますから。トラック練習を早くしたいですね(笑)。そうして駅伝につなげていきたい」
 練習の走行距離は「月間300kmくらい」(宮入)。でも、試合で結果を出している。重川材木店の選手たちにとって、参考とすべき選手が加わった。
練習前に最年少の三浦(左)にアドバイスをする宮入

雑草集団の原点
 すでに来季へ向けて走り始めた重川材木店。全体的な課題として、「練習したことをレースで出す」ことが浮上し、そのために「練習とレースの間に歯車を1つ、噛み合わせる」(重川社長)ことを考えている。
 特別な何かを介在させるわけではないが練習メニューの強度や頻度、こなし方が重要になってくる。宮入や岩倉のやり方からは、メンタル面を含め、何かを学ぶことができるだろう。「練習や強化システムを大きく変えるのではなく、微調整で力を発揮できるようになるはずです」(重川社長)
 いずれにしても、イメージしたことを実行に移すには、自身の行動や考え方のパターンを変えなければならない。具体的には小さな変化であっても、継続的に行うためには強いモチベーションが必要になる。
 1区でブレーキをした早稲田は、1週間の休養期間中「落ち込んだし、悩みました」。その結果、もう一度走る気持ちを固めた。
「ここで逃げたら人生ずっと逃げてしまう。来年、できればもう一度1区を走りたいと思っています。チームに流れをつくる快走をしたいんです」
 今回は補欠に回った三浦拓也は、高卒1年目と若い選手。今季は自己記録こそ更新できなかったが、重川材木店の基本である“仕事との両立”が進んでいる。
「最初の頃は、(建築現場で)次に何をしたらいいのかわからないことが多く、“動けない”状態でした。最近は自分から動けるようになってきました。20〜30%は効率が上がったと思います」
 仕事を覚えると仕事が楽しくなる。その分、陸上競技への集中力が上がる。三浦が走れるようになると、先輩たちもうかうかしていられなくなる。チームの起爆剤として期待できる存在だ。
 登石は「どれだけレースを意識した練習ができるか」と、レースで力を発揮するための取り組みを試みる。と同時に、この1年がそうだったように、自身が強くなることでチームへの影響も考慮している。
「まず、しっかりと自分が力をつけること。こういうやり方がいいのではないかと、訴えることができる力をつけたい」
 村井は“2位でニューイヤー駅伝出場”という目標設定の仕方が、自身の甘さにつながったと感じている。
「タスキをかけて走るからには、優勝争いをするつもりでやらないと駅伝は走れないのだと痛感しました。2位でいいと思っているから、今回のような結果になるんです。YKKを目標にしないといけません」と決意を語る。
 再生重川材木店はこれらの選手に故障から回復中の長部、来春入社の新人選手が加わり再スタートをきる。
 4年前に初出場したときと違い、過去の実績のない選手が集まったのが現在の重川材木店である。守るべきものは何もない。雑草集団が原点に戻って再び挑戦をする
北陸実業団駅伝のスタート。来年、再びこの場所に戻ってくる


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