アクセス数11311人突破記念企画
2001世界室内選手権における
2000シドニー五輪入賞者成績
と、世界室内選手権の存在についての考察

 世界室内選手権(3月9日〜11日:ポルトガル・リスボン)が終了して約10日。シドニー五輪で活躍した選手が、どんな成績だったのかを追跡した。
IAAF世界室内公式サイト

決勝記録一覧 世界室内公式リザルツにシドニー五輪での順位(8位以内の選手のみ)を記入。
男子トラック種目リザルツ
男子フィールド種目リザルツ
女子トラック種目リザルツ
女子フィールド種目リザルツ
日本選手リザルツ

◆大会初日。
 午前中唯一の決勝種目が、男子三段跳だった。シドニー五輪金メダリストで、室内でも今季、17m60とインドアの自己記録に4cmと迫っていたエドワーズ(イギリス)が、1回目の17m06、2回目の17m12で順当にリードしたが、3回目に99年セビリア世界選手権優勝のフレデリク(ドイツ)に17m13で逆転を許す。
 さらに、4回目にはシドニー五輪8位のカモッシ(イタリア)に、この日初の17m20オーバーの跳躍が飛び出て、17m32と大きくリード。エドワーズも最後の6回目に17m26と、あわや逆転かというジャンプを見せるが、6cm及ばなかった。
 シドニー五輪金メダリストがのっけから敗退したが、エドワーズは金メダリストらしい見せ場も作った。この時点ではその後の“金メダリスト敗戦大行進”は予想できなかった。

 夕方には女子走高跳、棒高跳、男子砲丸投が並行して行われていたが、一番の番狂わせは、女子棒高跳の世界選手権&オリンピック初代チャンピオン、今季室内でも4m70の室内世界新を出していたドラギラ(アメリカ)の4位敗退だった。4m61を跳んだハマコワ(チェコ)にだけでなく、4m56が2回目の成功だったため、フェオファノワ(ロシア)、サトル(アメリカ)にも敗れて4位。
 確かに、ドラギラはセビリアの世界選手権の際も、調子が出てこないと低い高さでも失敗するケースが多かったように記憶している(調べてみたら4m40と45は2回目、50は3回目のクリアだった)。それにしても、あのドラギラが4位とは……。

 男女の60mHにも金メダリストが出場。男子はシドニー1位のアニエール(キューバ)を、シドニー五輪2位のトゥランメル(アメリカ)が破って優勝。金銀が入れ替わった。女子はシドニー五輪優勝のシシギナ(カザフスタン)が5位と大敗。
 女子五種競技は金メダリスト・ルイス(イギリス)の出場こそなかったが、2〜7位の6選手が出場し、その6選手が8位以内に入賞。

◆大会2日目。
男子棒高跳でもシドニー五輪銀のジョンソン(アメリカ)が優勝。男子1500mではシドニー五輪金のゲニー(ケニア)が3位と敗れた。3分51秒台に5選手がなだれ込む大接戦で、好調の地元シルヴァ(ポルトガル)が優勝。ゲニーは屋外1000mの世界記録を持ち、800 mにも積極的に出場しているが、どうもフィニッシュ前のスプリント勝負には弱いようだ。
 女子走幅跳も、シドニー五輪金のドレクスラー(ドイツ)は5位、女子砲丸投シドニー五輪金のコロルチク(ベラルーシ)は9位と大敗。
 そして極めつけは、あのサボー(ルーマニア)が敗れたことだ。99年セビリア世界選手権、2000年シドニー五輪はもちろん、このところ大試合で負け知らずだったサボー。今季室内でも3000mで12年ぶりの世界記録(8分33秒82)を出すなど好調だった。
 女子3000mはシドニー五輪5000m8位のエゴロワ(ロシア)が8分37秒48の好タイムで優勝し、サボーは2秒近くも離されての2位。エゴロワは確かに、昨年のストックホルムのGP(DNガラン)でワミ、ツルという世界選手権&五輪の1万m優勝者を破った実績のある選手。一概に、サボーの不調とばかりは決めつけられない。だが、トラック外での雑音が大きいのが最近のサボー。それが影響していたとは思いたくないが・・・。
 男女の200 mにはシドニー五輪金メダリストは出場せず。

◆最終日。
 男子3000mは、シドニー五輪の1500mでゲニーに敗れたエルゲルージ(モロッコ)が優勝。シドニー五輪5000m金メダリストのウォルデ(エチオピア)は5位。だが、失礼を承知で言わせてもらえば、ゲブルセラシエ(エチオピア)クラスならともかく、ウォルデが敗れても、それほど番狂わせとは思われなかったのではないか。少なくとも日本では。大勢いるアフリカ選手の1人という認識だろうから。これがバウマン(ドイツ)のように数少ない白人トラック長距離種目の金メダリストだと、目立つのだが。
 世界記録を1500m、1マイル、2000mと持つエルゲルージだが、シドニー五輪では不覚をとった。今回はその雪辱となったわけだが、スローペースだった1500mに比べるとタイムもいい。1000m毎の通過記録を見ると、モロッコのベリウイという選手がトップで通過している。その選手はフィニッシュでは30秒近くの差をつけられて最下位。
 “またやったな”と思われても仕方がない。要するに、99年のセビリア世界選手権と同様に、エルゲルージはペースメーカーをつけて、自分の得意なハイペースに持ち込んだのだ。もちろん、もう1人の選手が自発的にというか、積極的にレースを引っ張っただけのことと言い張れば、ルール上は“助力”でもなんでもない。
 でもなあ。エルゲルージって、ラストのスプリントも効くタイプだと思うのだが、どうだろうか。少なくとも、ゲニーよりは強いと思う。本人が、より安全なのはハイペースと判断しているのだろうが。

 しかし、最終日になると、男子走幅跳のペドロソ(キューバ)、女子三段跳のマリノワ(ブルガリア)、女子800 mのムトラ(モザンビーク)とシドニー五輪金メダリストが相次いで優勝。女子三段跳と800 mは金銀がそのまま、1,2位を占めた。

◆ところで
 ここまでデータを検証してから言うのもなんだが、オリンピックでメダルを取ったり入賞した選手が、世界室内選手権でも頑張ったかどうかをチェックすることに、意義があるのだろうか?
 オリンピック入賞選手の出場数は、種目によってかなりばらつきがある。例えば、男子60mへのオリンピック入賞者の出場数は少ない。ここで比較しているオリンピック入賞者とは男子100 mの入賞者の数で、考えてみれば距離が半分になるのだから、“別種目”だということもできる。だが、世界室内男子60mHへの、オリンピック男子110 mH入賞者の入賞は、結構多いのである。
 混成競技は室内の方が種目数が少なくなり、当然、屋外とは違った選手が活躍する可能性が大きくなる。男子七種競技はオリンピック十種競技入賞者2人の入賞で、“別種目”であることを証明しているようなデータだが、逆に女子五種競技はオリンピック七種競技入賞者6人が入賞し、“オリンピックのまんま”である。
 結論としては、オリンピックと世界室内に相関関係はない。オリンピックで活躍したから世界室内でも活躍して当然とか、世界室内で活躍したから、その後の屋外の世界選手権やオリンピックで活躍できる保証が、あるわけではないのだ。
 出場するモチベーションという視点に立ってみても、オリンピックで活躍したからといって、世界室内で頑張らないといけない理由があるわけでもない。逆に、オリンピック翌年の場合、ひと息つく選手がいて当然だ。実際、グリーン、ジョンソン、ジョーンズと、アメリカの誇る“3M”は出場していない。
 だが、オリンピックで失敗した選手にとっては、自信を回復するのに都合のいい大会であるのは事実だ。実際、この企画で両大会の成績を比較検討してみると、そういった選手の頑張りが目立った。選手によって位置づけの違いが出て当然ということ。世界室内で頑張りたい選手もいれば、頑張りたくない選手もいる。つまり、オリンピック・メダリストが世界室内で負けたからといって、“安定性がない”とレッテルを貼るのは危険だし、世界室内で雪辱したから“やっぱりこの選手が世界一”と断定することもできない。
 陸上ファンの側に立ってみると、そういう評価をすることよりも、別の視点で楽しむ方がいいだろう。60mでしか活躍できないスペシャリストを探してもいいし、60mで活躍した選手が、屋外の100 mでも頑張るのかどうかを注目するのは自由だ。前年のオリンピックに“間に合わなかった”と思われる若手選手が、室内でどこまで記録を伸ばしてくるか、成長の度合を確認することも楽しい。どうしても、レッテルを貼らないと気がすまない、というファンもいるかもしれないが、それも楽しみ方の1つかもしれない。
 オリンピックは選手にとって“活躍しないといけない”大会だし、ファンは純粋に“誰が活躍するか”に価値を置いて見ることが多い。だが、世界室内は選手にとっても自由、ファンにとっても自由、な大会なのだ。だから、この企画はデータそのものと、データの特徴をほんの少々紹介するだけのもので、データをどう解釈し、どう楽しむかは、受け取る側の自由である。