2002日本選手権を10倍楽しむページ
ちょっと無責任な展望記事 男子トラック編
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◆男子100 m
 朝原宣治(大阪ガス)を優勝候補の一番手としたい。水戸国際で10秒05を出した末續慎吾(東海大)が200 m1本に絞ったため、朝原を追うのは水戸で10秒13をマークした田島宣弘(日体大)と、同じく水戸で10秒28の宮崎久(東海大)。関東インカレでは優勝した末續に0.30秒以上の大差を2人ともつけられてしまったが、このときは末續が抜群のスタートで一気にリードを奪った。「さすがにあれだけリードされると、他の選手は力を出し切れない」と、ある短距離関係者。多少は割り引いて考える必要があるかもしれない。
 だが、大阪GPで宮崎を抑えたことや、関西実業団で10秒21と安定した記録を出していることから、朝原の優位は動かない。それに、日本選手権のこの種目では負けていない実績もある。過去の朝原のパターンから、年度ベストは7月に出ることが多い。ただ、96年の日本選手権では年度ベスト10秒14を6月の日本選手権で出している(が、7月のアトランタ五輪で向かい風で10秒16を出している)。
 しかし、今季前半の朝原が、かつてないほどいい状態なのは、間違いない。本人だけでなく、同じ神戸出身の先輩スプリンター・伊東浩司も自身のWEBサイトでそうコメントしている。それだけいい状態にもかかわらず、“今日は失敗した”点があると、レース毎に朝原はコメントしている。朝原は体力のピークを合わせて記録を出すのではなく、技術的な部分がよければ記録が出る傾向がある選手。6月とはいえ、“失敗”しなければ9秒台が出る可能性もある。
 今季の“失敗”は前半で出ることが多い。残念なことに、“失敗”したのかどうか、見ている側には判断しようがない。外からわかるポイントがあるとしたら、60m付近だろう。今季は室内から「いかに60mまでを上手く走るか」をテーマにやってきている朝原。単純に60mを速く全力で走るのでなく、「60m後もいける」余力を持ちつつ、60mまでも速く走ることらしい。60mまでで朝原がリードし、さらにリズムに乗って後続をグンと引き離したら、“失敗のない”レースの可能性が高い。
 ここで問題は、朝原以外の選手の調子である。60mまでを速く走る選手がいれば、相対的に朝原がリードする可能性は低くなる。その可能性を持つ選手の筆頭は、川畑伸吾(群馬綜合ガードシステム)。10秒11の前学生記録を出した一昨年の調子には戻っていないが、前半は朝原をリードする可能性はある。
 田島、宮崎の学生コンビに川畑、その川畑を東日本実業団で同タイムながら抑えた小島茂之(富士通)、織田記念、水戸と好走を見せている立松健宏(徳洲会)が朝原を追う候補。日本選手権で必ず2〜3位に食い込んでいる土江寛裕(富士通)は、織田記念でやった故障の回復次第。(ちょっと長過ぎ。次の種目から短くします。そうしないと10種目も書けなくなってしまいそう)

◆男子200 m
 今季200 m初レースとなるが、末續慎吾(東海大)の優勝は動かない。焦点は19秒台が出るかどうか。
 そこで頑張ってもらいたいのは、2位選手である。100 mで触れたが、関東インカレ100 mは末續が2位に0.30秒以上、4m前後の大差をつけた。2位を争っていたのが宮崎と田島で、2人の今季の状態から10秒3前後では走っていると思ったので、「(9秒台が)出た!!」と思わず叫んでしまった。その選手の走りだけを見て9秒99と10秒10、200 mだったら19秒95と20秒10のスピードの違いを区別することは難しい。やはり、2位選手との差が判断基準となるのだ。
 末續が2位に5〜6m差を付けたとしても、2位の選手が20秒6〜7かかっていたら、19秒台は出ていないことになる。ここはなんとしても、2位選手に20秒5くらいでは走ってもらいたい。
 などと、末續が大差をつけることを前提として書いてしまったが、昨年2位の大前祐介(早大)が、20秒29を出した昨年のジュニア選手権や学生種目別選手権の絶好調時の走りが戻れば、末續も2〜3mの差しかつけられない可能性はある。
 理想は、アトランタ五輪だろう。マイケル・ジョンソン(米)が19秒32の世界新を出し、2位のフレデリクス(ナミビア)が19秒68の歴代2位。フレデリクスのタイムはジョンソンの前世界記録に0.02秒と迫るものだった。
 今季の末續はトップスピードに入るのが早い。コーナーの出口ではすでにリードを奪っているだろう。アトランタ五輪のホームストレートで必死にジョンソンを追ったフレデリクスの役割を演じるのは、昨年の世界選手権セミファイナリストの藤本俊之(富士通)にも可能性があったが、故障でエントリーを見送った。同じく世界選手権代表の松田亮(広島経大クラブ)も、今季はレースに出てきていない。20秒67の関西学生新をマークした林直也(大体大)と関東インカレを制した宮崎久(東海大)が、大前と2位争いを展開する候補。

◆男子400 m
 今季負けなしの田端健児(ミズノ)と、今季は200 mに絞って出場し、400 mは日本選手権が初レースとなる小坂田淳(大阪ガス)の、同学年対決となる。スピードよりも“終盤の強さ”の田端と、“スピード”の小坂田と対照的な2人。前半は小坂田がスピードにものを言わせてリードを奪うだろう。たぶん200 mの通過は21秒7〜9あたり(風にもよる)。田端は22秒1〜3。5mの差を、どこで田端がつめるか。
 昨年の日本選手権のように小坂田が終盤も持ちこたえ、田端に5mの差をつけたとしよう。今季の田端の安定ぶりから45秒台中盤は期待できるので、そうなったら小坂田は44秒台を出しているだろう。逆に、田端がホームストレートでかつてないスピードで小坂田を逆転したら、45秒代前半の自己新が出ていることになる。
 2人に迫る候補は、故障からの回復次第だが、やはり山村貴彦(富士通)ということになる。45秒03の日本歴代2位記録保持者。5月12日には「300mまでは大丈夫」の状態と話していた。その後の練習でどこまで回復したか。
 もう1人の候補が、今季田端以外の日本選手に負けていない松本卓(スズキ)。兵庫リレーカーニバル、静岡国際と一番強い組で走っていないので、直接対決していないが、力強さが明確に増している。元々、後半に強い選手だが(田端と同じ長崎県出身)、5月25日には中京大記録会で前半から飛ばすパターンも試みている。目の離せない選手に成長した。

◆男子800 m
 メンバーはいつも一緒だが、優勝者(日本人トップ)が毎レース変わるのが、今年の男子800 m。それだけ混戦状態、見る側にとっては面白いレースとなる。
 今季主要レースの日本人上位選手は以下の通り。
○群馬リレーカーニバル
 1位 菅原竜二(新日鉄君津)1分51秒25
 2位 中野将春(大塚製薬) 1分50秒26
○水戸国際
 2位 森 祥紀(自体学)1分50秒63
 3位 中野将春     1分50秒90
○東日本実業団
 1位 笹野浩志(富士通) 1分49秒28
 2位 菅野篤史(自体学) 1分49秒28
 3位 森 祥紀(自体学) 1分49秒73
 本当に、予想がつかない。
 それぞれ、個性的な側面もある。菅原は高校時代は社業も定時までこなしながら練習をする一匹狼的な選手。地元、千葉県の大会などでは200 mや400 mのレースにも積極的に出場しているという。
 中野も元走高跳選手で、400 mHもこなす身体能力の高さを誇る。大塚製薬には高橋圭太という1分48秒49の選手がいるが、中野を練習で目の当たりにした同僚が、その動き・スピードの違いに目を見張ったという。昨年の選手権者で、ラストにも強い。
 そして、現役選手最高の1分47秒76の記録を持ちながら、国内主要レースで一度も勝てていないのが森である。水戸で日本人トップとなったが、外国選手に優勝は譲っている。日本選手権はなんとしても欲しいタイトルだ。
 だが、東日本実業団のレースを見ると、笹野が強い。シーズンインでもたついた観があるが、一昨年の日本選手権優勝と勝負強さもあり、昨年の東アジアで見せたような度胸の良さもある。
 東日本実業団では、菅野というニューフェイスも1分49秒台に入ってきた。
 “無冠”の森が勝つには、ハイペースが望ましい。日本選手権という個人の順位が問われる大会で、東日本実業団で見せたような“チームで引っ張り合う”レースができるかどうか。1周目が52秒くらいだと、森ペースだ。仮にスローペースでも1分49秒台は出してほしいし、52秒で入ったら1分47秒後半から1分48秒前半の優勝タイムを期待したい。

◆男子1500m
 これも予想が難しい。
 春季サーキットでは2戦1500mが行われ、3分45秒台と46秒台で木實淳治(八千代工業)が連覇。しかし、大阪GPを見る限り、徳本一善(日清食品)が強い。東日本実業団でも日本人トップ。徳本は水戸国際5000mで日本人2位、東日本実業団5000mでは自己新で日本人トップを占めた。箱根駅伝での故障から練習不十分にもかかわらず、これだけの走りを見せ、潜在能力が高そうなことを示した。
 しかし、徳本が出なかった5月25日のゴールデンゲームズで好タイムが続出した。
1位 3 分 40 秒 52 小林 史和(NTN)
2位 3 分 41 秒 01 辻 隼(ヤクルト)
3位 3 分 42 秒 00 木實 淳治(八千代工業)
4位 3 分 42 秒 17 小林 哲也(福田組)
5位 3 分 42 秒 31 濱砂 康輔(順大)
6位 3 分 43 秒 35 森川 三歩(佐川急便)
7位 3 分 45 秒 20 星野 寛(ヤクルト)
8位 3 分 45 秒 77 角田 貴則(東海大)
 ゴールデンゲームズはペースメーカーを付け、きろくを出やすくしたレースだが、ここまでいい記録が出ると、徳本有利と断言するのはどうかと思えてくる。小林は昨年の日本選手権優勝という実績もある。とはいえ、3分42〜44秒くらいの優勝タイムでラスト勝負となったら、徳本が強そうな感じがする。

◆男子5000m
 日本選手権直後にヨーロッパ遠征を控えた高岡寿成(カネボウ)は、この種目1本に絞ってきた。高岡はスローペースにも、ハイペースにも対応できるタイプ。普通の調子であれば負けることはないだろう。
 高岡に勝てる選手の候補としては、カネボウの後輩の瀬戸智弘と、1500mの優勝候補にも挙げた徳本一善(日清食品)か。2人ともラスト勝負に強さを発揮する選手だが、ラスト勝負なら高岡に一日の長がある。最後、ロングスパートのかけ合いとなり、粘りが勝負を決めるような展開になれば、ゴールデンゲームズで日本人トップとなった佐藤敦之(中国電力)にも可能性が出てくるが、そうなった場合でも国際舞台で百戦錬磨の高岡が勝る。
 結局、“高岡をはるかに上回る体調”を、他の有力選手がつくって日本選手権に臨めるかどうか、だろう。
 ポイントは、外国選手に誰がつくのか、誰もつかないか。気温次第だが、13分20秒台のペースで外国勢はレースを進めるだろう。これまでだったら、高岡1人がつく展開になることが多かったが、今年から外国選手はオープン参加で順位はつかないことになった。高岡が普通の調子ならつくのだろうが、それも体調次第だろうか。

◆男子1万m
 兵庫リレーカーニバルで自己新をマークし、カジュウリ(愛知製鋼)、カビル(ホンダ)、カーニー(トヨタ自動車)、ドゥング(ホンダ浜松)を抑えた坪田智夫(コニカ)が優勝候補筆頭だろう。3月の全日本実業団ハーフマラソンでも独走優勝し、高岡寿成、佐藤敦之らを寄せつけなかった。ジェンガ、カーニーと2人の外人選手が出場するが、彼等とともにハイペースで飛ばす可能性が大きい。
 山口洋司(NEC)も、念願だったアメリカで27分台の記録をものにした。これまでも、そこそこの記録は持っていても、日本選手権ではいいところがなかった。年間の練習と試合選択のパターンを変更したことが、好結果に結びつくかどうか、注目される。
 2人がハイペースに持ち込まなければ、兵庫1万mで日本人2位、水戸5000mで日本人トップの瀬戸智弘にもチャンスが生じる。もう1人、今季のレースから有力選手を挙げるとすれば佐藤敦之(中国電力)か。同僚の油谷繁と2人、粘り強い走りを見せてくれそうだ。岩佐敏弘(大塚製薬)は粘りというよりも、中盤、あるいは終盤での一気のペースアップが持ち味。
 持ちタイムでは入船敏が日本人2番目。入船は800 mの森祥紀(自体学)同様、海外で好記録は出しているが、国内のタイトルが取れていない。やはり、一度は国内でインパクトのある走りを見せておきたいところだ。
 シドニー五輪15位の花田勝彦(エスビー食品)の走りも気になるところ。兵庫リレーカーニバルで標準記録を破っての出場だが、そのときは早大の後輩・佐藤敦之に先着されている(もう1人の後輩・梅木蔵雄には先着した)。マラソンでなかなか結果を出せないでいるが、今後の種目選択も含めて、その動向が注目される。

◆男子110 mH
 昨年、エドモントン世界選手権で準決勝、北京ユニバーシアードで決勝に進出。記録的にも13秒50と日本新をマークした内藤真人(法大)の勢いは、今年も続いている。織田記念で13秒56w(予選で13秒60)、水戸国際で13秒55のセカンド記録と13秒5台が安定している。大阪GPで13秒72、関東インカレで13秒84ともたついたが、優勝候補筆頭の座は揺るがない。本人は踏み切り位置についてかなり悩んでいる(関東IC・内藤記事)ようで、日本選手権でも13秒7〜8かかるようだと1年以上続いている日本選手間での不敗が途切れることになる。
 シーズンインが大阪GPにずれ込んだ前日本記録保持者の谷川聡(ミズノ)を、一覧表では「故障からの回復次第」の欄に入れさせてもらったが、東日本実業団では、大阪で日本人2位の桜井健一(ミキハウス)を破っている。大阪の途中棄権は、故障の影響ではなく、ちょっとした技術の狂いだったのかもしれない。
 スタートから1台目の速さには定評のある谷川と、その部分がこの1年で見違えるように速くなった内藤。2人が隣同士のレーンに並んだら、1〜2台目あたりですさまじいつばぜり合いが見られそうだ。

◆男子400 mH
 銅メダリストが万全ではない。大阪GPでは49秒74、ドーハGPでは50秒40もかかっている。2月いっぱいまで冬期練習が不十分だったことが影響しているのだろうか。しかし、関西実業団では400 mに47秒34で優勝。このタイムは昨年の春季サーキットで出したものとほぼ同じ。「1カ月遅れているだけ」と、本人はそれほど心配していない。ただ、その昨年は日本選手権が48秒台第一戦で、6月末からのヨーロッパ遠征でトップコンディションに持っていった。となると、今年は日本選手権での48秒台は厳しいことになってしまう。
 となると、優勝候補筆頭は河村英昭(スズキ)となる。記録が49秒53にとどまっているのは強風に記録を阻まれたこともあるが、必ずしも全開といえない状態で今季日本選手間で3連勝。元々、前半は14歩のインターバルということもあり、後半で追い上げるタイプ。大阪GPでは為末との前半の10m差を、ホームストレートで逆転した。
 吉沢賢(デサントTC)、千葉佳裕(富士通)の順大OBコンビは(河村も順大OB)、今季はやや出遅れている。河北尚広(筑波大)と大本裕樹(西濃運輸)も、まだ“候補2人”には届きそうにない。調子を上げた為末が逃げ切れるか、河村が逆転できるか、という展開になるのは間違いないだろう。

◆男子3000mSC
 水戸国際、大阪GPと2連勝の内冨恭則(中国電力)が優勝候補筆頭だ。5000mが走れていなかったのが気になるが、岩水嘉孝(トヨタ自動車)以外には負けるわけにはいかないだろう。というか、4年前のアジア大会金メダリスト。2連覇へ向け、相手が誰であろうと勝たなくてはいけないところ。
 昨年の優勝者で世界選手権代表の岩水嘉孝(トヨタ自動車)は、箱根駅伝を肺気胸で欠場。それ以前に腰に痛みもあった。レースには復帰したが、5月に再度入院(リハビリのためで故障とかではないらしい)し、その回復次第。
 順大で岩水の1学年先輩、榊枝広光(日産自動車)がワンランク力を上げた。兵庫リレーカーニバルで優勝し、水戸国際・大阪GPと内冨に次いで2位。調子をうまく上げていれば、内冨と最後まで競り合うシーンが見られるかもしれない。
 一時期、内冨と泉亘(YKK)が競り合うことで好ペースとなるレースが何回か見られた。岩水、榊枝に泉の役割を期待したい。そして、さらにレベルアップすることを。