ちょっと無責任な展望記事 女子トラック編
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●女子100 m
石田智子(長谷川体育施設)が織田記念で11秒55と日本歴代5位をマーク。レース後半での力強さが増したが、直接対決では前日本記録保持者の坂上香織(ミキハウス)が水戸国際、東日本実業団と連勝。新井初佳(ピップフジモト)がアメリカでの11秒85が最高と出遅れている状態なので、坂上の優勝が濃厚だ。
今年の坂上は、苦手の200 mにも出場するなどして、後半に減速する課題克服に努めてきた。水戸国際で外国選手に同タイム(11秒45)で競り勝ったが、たまたま記録が100分の1秒まで同じになったのでなく、終盤で文字通り“競り合いながら”先着した部分に進歩の跡が見られる。また、東日本実業団の際の坂上自身と高野進コーチのコメントからも、課題克服が順調に進んでいることが伺える。
自身3回目の日本記録更新の可能性は十分とみた。
2位争いは石田と鈴木亜弓(スズキ・旧姓島崎)の争いか。鈴木は今季、公認では11秒91が最高だが、追い風参考では11秒51。織田記念では石田が先着しているが…。
●女子200 m
東日本実業団で信岡沙希重(ミズノ)が24秒01の今季日本最高をマーク。兵庫リレーカーニバルで優勝した坂上香織(ミキハウス)に0.49秒差をつけた。が、アメリカで24秒20を出している日本記録保持者の新井初佳(ピップフジモト)を忘れてはいけない。が、ホントのところ、どちらが優勝するか、なんとも言えない状況。コーナーを先に出てくるのは間違いなく新井だろう。新井の今季のレースを見ていないので、その不調が後半部分の減速から来るものなのか、全体的に切れがないのか判然としない。予想しろと言われると困るのだが、日本選手権4連勝中の新井の意地が勝ると考えた。
意地でスピードが出るのか難しいところだが、そういった部分も陸上競技にはある。為末大(大阪ガス)も昨年の世界選手権銅メダルを振り返って、「走り自体は準決勝の方が良かったが、実際に速かったのは決勝だった」とコメントしている。では、4連勝中の選手の方が“意地”を発揮しやすいのか、信岡に意地がないのか、という部分になると……。やっぱり“意地”で勝敗を予想するのはやめた方がいいかもしれない。いったいどっちなんだと叱られそうだが、自分でもどっちと考えているのかわからないこともある。優勝者予想は便宜的に新井としたが…。
100 mHの金沢イボンヌ(群馬綜合ガードシステム)と関東インカレ100 m&200 m優勝の藤巻理奈(日体大1年)にも要注意。
●女子400 m
昨年この種目で日本人初の52秒台に突入した柿沼和恵(ミズノ)と、400 mHで日本人初の56秒台を記録した吉田真希子(福島大TC)とのマッチレースとなる。吉田は400 mでも53秒23と歴代3位をマークしていて、400 mで柿沼を追いつめることもしばしば。しかし、ホームストレートに入ってきたときの差が、詰まるようで詰まらない、というレースパターンが続いている。300mで吉田が勝っているようだと面白いのだが、元々200 mが得意だった柿沼(日本人初の23秒台=23秒82・92年)と、元々800 mが専門(2分06秒82・2001年)だった吉田の違いを考えると、どうしても後半に吉田が追い上げるパターンになってしまうのだろうか。
53秒ランナーの杉森美保(京セラ)がタイムテーブルの関係で800 mに絞ったため、3位争いは日色さおり(東学大)と木田真有(福島大)の争いに。だが、関東インカレ100 m&200 m2冠の藤巻理奈(日体大)が、100 mではなく400 mに出場してきた。国際舞台を目指すのは400 mと考えているようで、彼女の走りからも目が離せなくなりそうだ。
●女子800 m
本当に混戦模様を呈している。大会ごとに優勝者が入れ替わっているし、記録的にもハイレベルだから、見ている側にとってはワクワクする種目となっている。
今シーズン、好タイムの先陣を切ったのは杉森美保(京セラ)だった。4月13日に遠征先のアメリカで2分05秒3の日本歴代13位をマーク。昨年のエドモントン世界選手権(4×400 mR)までは400 mに専念した杉森が、800 mに本格的に取り組み始めたシーズンの第一戦でこの記録。春季サーキットでの走りが大いに期待された。
ところが、4月28日の兵庫リレーカーニバルでは、松島朋子(UFJ銀行)が見事なスパートを見せて杉森をホームストレートで逆転。2分05秒03で快勝した。
その松島を、5月3日の静岡国際では佐々木麗奈(富山陸協)が破り、2分06秒48で優勝(杉森は出場していない)。佐々木は富山龍谷高で松島の先輩に当たる選手だ。
そして迎えた5月11日の国際グランプリ大阪。優勝こそハウェル(ジャマイカ)に譲ったが、ラスト160mでスパートした杉森が日本人トップの2位。2分03秒56の日本歴代4位をマークした。有力選手が顔を揃えたこのレースの成績は以下の通り。
1)2.03.25 C・ハウェル(ジャマイカ)
2)2.03.56 杉森美保(京セラ)
3)2.03.99 王 顔春(中国)
4)2.04.89 西村美樹(東学大)
5)2.05.00 田村育子(グローバリー)
6)2.05.45 佐々木麗奈(富山陸協)
7)2.05.79 松島朋子(UFJ銀行)
今季、いまひとつの状態だった日本記録保持者の西村が復調してきたのは明るい話題(ライバル選手には暗い話題)。1500mで圧倒的な強さを見せる田村が、日本歴代12位に進出してきたのも注目される(が、日本選手権は1500m&5000mに出場)。春季サーキットで優勝した松島と佐々木でさえ、1〜2週間後の試合で後ろの順位となってしまうほど、今の女子800 mは混戦ということである。
昨秋、全日本実業団と国体と、全国タイトルを連取した藤原夕規子(グローバリー)が復帰すれば、さらに激戦になると思われたが、残念ながら欠場する。
●女子1500m
田村育子(グローバリー)の3連勝の公算が大きい。ゴールデンゲームズでは4分12秒30の今季日本最高で、2位に4秒以上の大差をつけた。昨年、この種目で敗れたのは、3位と不覚をとった関西実業団1レースのみ(のはず)。800 mの項目で紹介したように、2分05秒00とスピードにも一段と磨きがかかっている。ハイペースにも、スローペースからのラスト勝負にも対応できる。現時点で死角は見当たらない。
田村に迫るのが、兵庫リレーカーニバルで優勝した市川良子(テレビ朝日)と、兵庫2位・水戸国際優勝の早狩実紀(KIコーポレーション)、兵庫3位の川島亜希子(UFJ銀行)、水戸2位の那須川瑞穂(積水化学)ら。5000m五輪2大会連続出場の市川だが、800
m中学記録保持者で、1500mでも世界ジュニア12位。ラスト勝負にも強い。ラスト勝負に強いのは早狩も同様で、今季はかつてないほどいい仕上がりで、日本記録更新への意欲も十分。
スローペースになったら本当に大混戦。田村としては、ラスト200 mを切ってからの勝負というよりも、300mとか400 m以上の長めのスパートで決着をつけようとするのではないだろうか。
●女子5000m
弘山晴美(資生堂)はすでにマラソンでアジア大会代表に決定しているが、トラックをこなし、そのリズムでマラソン練習に入るのが彼女のやり方だ。マラソンで好結果を出しているときは必ず、その前のトラックで好成績を残している。その弘山が1万mを棄権して、5000m1本に絞ってきた。これをどう解釈するかだ。日程的には金曜日が1万mで日曜日に5000m。
ヒントとなるのは2つ。1つは4月に体調を崩して練習のブランクができたこと。その影響で結果的に十分な体調に持ってこられなかった。だが、5000mだったら距離的に持ちこたえられ、スピードの仕上がりはまずまずだから1本に絞った、という推測である。
もう1つのヒントは1500m・3000m・マラソンで日本選手権のタイトルを取っている弘山が、5000mだけは勝っていないことだ。4月のブランクがあった時点で、あるいはその直後に、意図的に5000mに絞った可能性もある。800 mから徐々に距離を伸ばし、ことごとく成功してきている弘山にとって、日本選手権を取っている種目の“空白”は、是非とも埋めておきたいのかもしれない。
しかし、1500m・3000m・5000m日本記録保持者の弘山とはいえ、そう簡単に勝てる状況ではない。優勝者予想では当初、市川良子(テレビ朝日)の名前を挙げていた。「1500mが走れるときは、5000mも走れている」(市川)ことが多く、兵庫リレーカーニバル1500mで優勝しているからだ。兵庫1500m、静岡国際5000m、水戸国際1万mと連戦し、静岡では15分36秒16で6位と失敗したが、水戸では31分44秒87の自己新で2位と好走した。ゴールデンゲームズでは5000mで福士加代子(ワコール)に敗れて2位。タイムは15分33秒52で13秒差を付けられている。
アトランタ、シドニーとオリンピックに出場した得意種目で結果が出ていないのは、日本選手権の5000mまで結果を出すのを取っておいている、と考えるべきだろう。そう考えれば、兵庫・静岡・水戸の強行軍も納得がいくし、日本選手権で1日目に1500m予選、2日目に同決勝、3日目に5000mと3本連続で走るシミュレーションだったのかもしれない(まったく違う意図の可能性もあるが)。
しかし、今季の実績では福士加代子(ワコール)が文句なしに一番だ(福士の戦績などは1万m展望記事で)。レースを引っ張るのは、やはり好調の山中美和子(ダイハツ)あたりか。弘山も最近はラストで決着をつけるレースをしていないので、ハイペースは望むところか(根拠の薄い推測)。市川がハイペースに不安があるが、体調さえ上手く合わせてくれば、15分10秒くらいまでは対応できるのではないか。
●女子1万m
5月に30分48秒89の日本新をマークした渋井陽子(三井住友海上)が、大阪GP後に体調を崩し練習ができなかった影響で、日本選手権を欠場することになった。その走力は誰しもが認める渋井だが、トラックではタイトルがない。トラックでの快走を見たかったファンも多いだろう。残念な欠場となったが、無理をしたら秋のマラソンへ影響が出てしまう。我慢するしかない。
弘山、渋井の他にも野口みずき(グローバリー)、藤永佳子(筑波大)が欠場。しかし、有力候補は枚挙にいとまがない。
優勝候補筆頭は福士加代子(ワコール)。兵庫の1万mでは小鳥田貴子(デオデオ)を、静岡の5000mは世界クロカン4位の山中美和子(ダイハツ)を、大阪GP5000mでは渋井を、関西実業団5000mでは再度山中を、そしてゴールデンゲームズ5000mでは市川良子(テレビ朝日)を破っている。3月の福岡国際クロカンと世界クロカンで山中に敗れたが、再度連勝街道をばく進し始めた。
大阪の5000mは15分04秒54と弘山の日本記録(15分03秒67)に迫る歴代2位。出場レース数が多いのが気になるが、練習代わりに出て15分20〜25秒で走っているような感じさえ受ける。そして今年の特徴は、ラスト勝負にも強くなったこと。スローな展開だったとはいえ、兵庫のラスト400 mは68秒台でカバーした。
福士に対抗するのは山中だろう。なんといっても世界クロカン4位。この実績は侮れない、というかシニアの日本選手では過去最高順位なのだ。5000m14分台の外国選手にも勝っている。春季サーキットでは「苦手意識」のあった1万mで水戸国際に優勝。ラストのある市川に対し、終盤のペースアップで振り切った。長距離はラストが強いにこしたことはないが、ラストの強い選手を上回る体調(ハイペースに耐えられる)さえ作ってしまえば勝てるのである。
水戸以外では福士に負けることも多く、記録的にもロード・クロカンの走りからしたら物足りない。しかし、それは世界クロカン後に高地練習で走り込んだのが原因。シーズン序盤に走れないのは計算の内だ。積極的に先頭を引っ張るレースパターンを変えたら驚きだが、山中としてはラスト勝負に持ち込まずに、水戸のような展開にしたいところ。
好調組が警戒しないといけないのは、昨年の2冠(5000m&1万m)、世界選手権でも9位と好走した岡本治子(ノーリツ)だろう。冬期には大阪国際女子マラソンにも挑戦した。マラソン練習としては不十分な状態で出場したのは、3月の名古屋にスライドさせたら春のトラックシーズンに間に合わない、というスケジュール的な理由からだった。つまり、岡本は今年もトラックで頑張るつもりなのだ。
春季サーキットでは兵庫の1万mが10位と不安の残る出だしだったが、静岡の5000mでは福士、山中に続いて3位。去年も春先はこんな感じだったのだ、治子は(ファーストネームの呼び捨て失礼します)。去年の静岡国際5000mは15分34秒50で6位。今年の静岡は前述のように3位で15分32秒31。高校まで短距離選手だっただけに、余力があればラストも強い。昨年の再現がないとは言い切れない。
前日本記録保持者となってしまった川上優子(沖電気)は、3月の全日本実業団ハーフマラソンで優勝した後、体調を崩してしまった。そこから立ち直れているのかどうか。前回のアジア大会金メダリストの復調ぶりが気になるところ。また、大越一恵(ダイハツ)や小鳥田ら、春のレースで上位に食い込んでいる選手の“一発”があるかどうかも、注目される。
●女子100 mH
金沢開催だけに、金沢イボンヌの優勝は動かない。だったら千葉で日本選手権が開催されれば、千葉佳裕(富士通)や千葉真子(豊田自動織機)が必ず勝てるのか、と突っ込まれそうなので、この見解は撤回したい。
昨年の日本選手権を欠場し、95年から続いていた連勝記録が“6”で途絶えてしまった金沢。その後の競技会にも姿を見せず、その間に池田久美子(福島大)、茂木智子(秋田ゼロックス)、森本明子(さとえクラブ)、藤田あゆみ(穴吹工務店)、川上小百合(筑波大)らが充実。“打倒・金沢”の機が熟しつつあるようにも思えた。
だが、さすがはシドニー五輪セミファイナリスト。今季の静岡国際、大阪GPと茂木を寄せつけずに日本人トップをキープした。
むしろ、2位争いが面白い。前述のように静岡、大阪と金沢に次いで日本人2位の茂木は東日本実業団で森本を抑えて優勝。群馬リレーカーニバルは森本が、川上に0.60秒の大差で圧勝。その川上は兵庫リレーカーニバルで茂木を抑えて日本人トップ、関東インカレは13秒41の学生歴代3位で優勝。ただ、川上は群馬では森本に大差で敗れ、兵庫では鷲頭宏絵(横浜国大)に敗れるなど、出来不出来の差が大きいのが気になる。昨年の日本選手権者の池田は今季、上位には入るがこれという快走がない。
4月に追い風参考で13秒17、向かい風0.2mの群馬で13秒39をマークした森本が、兵庫で15秒を要してから、会心の走りができていない。復調すれば、金沢での打倒・金沢の一番手。埼玉栄高3年時にキャプテンとして個人・総合とも優勝したインターハイは、お隣・富山だった。
●女子400 mH
昨年、日本人初の56秒台を記録した吉田真希子(福島大TC)は、記録のみならず日本選手間で近年不敗を誇る。優勝は堅いところで、日本記録が出るかどうかが焦点だ。そのために、インターバルの歩数16歩を7台目まで伸ばす方法を、すでに東日本実業団で試している。金沢のトラックも、昨年の全日本実業団(400 mと2冠)で実証済み。
以前、川本監督に質問したところ、「400 mのタイムプラス何秒が400 mHの記録」という考え方はしていない」ようだが、昨年の全日本実業団のときのタイムは54秒20と57秒26で、その差は約3秒。今大会は400
mが先に行われるので、そのタイムが参考になるかもしれない。400 mが53秒台なら56秒台が期待できるし、“7台目まで16歩バージョン”が功を奏せば、さらなる記録短縮も可能だろう。
日本新が出る可能性は50%を超えると見た。
2位争いは、昨年のインターハイ400 m&400 mHの2冠、江口幸子(横浜陸上ク)が有力。昨年は57秒90で3位(2位の鈴木美恵は結婚・出産で現在は競技から遠ざかっている)。今季は群馬リレーカーニバル、東日本実業団と59秒台だが、100 mにも積極的に出場してスピード強化を図っている。