2013/9/7 日本インカレ
全カレちょっと感動した話題特集
A400m前中学記録保持者の柳澤が、最後のインカレで800 m初挑戦

 400 mの選手が800 mに挑戦したとき、そのスピードをどう生かすかを考える。1つは前半から速いスピードで入って他を圧倒する。もう1つは最後のスプリント勝負でスピードを生かす。柳澤純希(日大4年)がとったのは後者だった。
「今日(予選と準決勝)は650mまではアップのつもりで走りました。体を温めることをイメージしてついていって、ラスト勝負をする。その走り方しかできないと思いました」
 大会2日目の予選を3組2位(1分51秒99)、同じ日の準決勝を1組4位(1分51秒47)。準決勝は2組で3着+2が決勝進出条件だったが、2組は日大の川元奬(3年)と三武潤(1年)がペースをコントロールして1、2位。1組の柳澤と斉藤和輝(一橋大)の北海道コンビがプラスで決勝進出を果たした。

 柳澤は400 mの前中学記録(48秒25=2006年)保持者で昨年出した46秒89がベスト。それを考えるともう少しキレのあるスパートを見たかった、というのが本音だが、初日に400 mを2本走った影響もあったかもしれない(決勝は5位=47秒37)。
 そもそも400 mのスピードがあるから800 mのラストがキレるかといったら、そうとも限らない。渡辺高博(400 m元高校記録保持者、バルセロナ五輪代表)が800 mに進出したとき、小野友誠や近野義人は「ラスト勝負なら勝てる」と感じていた。

 柳澤がラスト勝負の策をとったのは、自身のタイプを見極めてのことだった。
「シーズン前半の400 mは、前半の200 mを飛ばすレース展開をやりましたが、ピンと来なかったんです。そこが課題だと思ってチャレンジしましたが、結果につながらなかった(関東インカレ5位=47秒45、日本選手権予選落ち=48秒01)。気分転換を兼ねて800 mをやってみて、そこで400 mにつながるものがあれば、と思ったんです。実際に800 mをやってみて、自分のレースを作る感覚を思い出しました。乳酸がたまるくらいから気持ちよく走れる感じがあります。中学、高校の頃のようなラストの伸びが出てきました。短い距離をバンバン走るより、500mや600mを自分のテンポで走ることで、フォームを意識できて自分のペースを取り戻せたのだと思います」

 ちょっと気になったのは、400 mでの山崎謙吾(日大3年)との勝負をあきらめたのではないか、という点。こちらの記事にあるように、柳澤と山崎はインターハイ以来のライバルである。
 ここは第三者に聞いた方がいいと判断し、日大の松井一樹・中距離コーチに確認すると、「それはありません」という答え。あくまでも400 mに生かせるものを見つけることと、インカレの総合優勝のために800 mに出場したという。
 松井コーチと柳澤の話を総合すると、以下のような経緯で800 m出場が決まった。
 トワイライト・ゲームス(7月28日)のあとに柳澤から800 mで日本インカレに出場したいと申し出があった。練習中に600 mのタイムトライアルを行ったところ77秒2で走り、一緒に走った三武が落ち込むくらいの差をつけたという。大学1年時に一度600 mを走ったことがあり、そのときは79秒7だったという。
 8月初めの日大競技会が“初800 m”だったが、1分50秒20をマーク。中距離ブロックの3番手よりも力があると日大スタッフが判断し、日本インカレに出場することになった。

 柳澤自身も目標を、「800 mに変えるつもりはない」と言う。
「以前から800 mも走れる自信が少しあったんです。中学の頃から200 m&400 mではなく、400 m&800 m向きの走りだと言われていました。これまでチャンスがありませんでしたが、インカレも最後でしたからここで挑戦してみたかったんです。点数も1点でも多く取りたかった。800 mは9月下旬に記録を狙って出るかもしれませんが、転向するわけではありません。今回も練習メニューは400 mのものでやってきましたし、先ほども言ったように400 mにつながるものがあれば、と思ったんです」

 最終日の800 m決勝の柳澤は、やはり前半は前に出ることができず、最後の直線で追い上げたが5位(1分51秒75)。400 mと同じ順位だったが、合わせて8点と優勝と同じ点数を母校のために獲得した。
 3時間後の4×400mRにも1走として出場して3位。日大は2位に30点差をつけて総合優勝を達成した。トラックを9周した最後のインカレは、それなりの達成感があったのではないか。
男子800 mの日大トリオ。左から優勝(1分50秒24)の川元、5位の柳澤、2位のルーキー三武。19点は今大会の、1つの種目で1つの大学が獲得した最多得点

 だが、個人の勝負はまだ終わっていない。10月の国体400 mで、山崎との学生最後の勝負が控えている。
「今回の400 mもラスト150mで切り換えましたが、届きませんでした。(800 mに取り組んだことでつかんだものが)間に合いませんでした。国体までに(課題解決の方法を)見つけたい。シーズン前半に比べれば自分らしいレースはできましたから、国体でチャレンジします」
 山崎と、見ている者の胸を打つような勝負になるだろう。


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