2013/5/26 関東インカレ最終日
男子1部総合Vの日大が圧勝した最終種目の4×400 mR
柳澤純希山崎謙吾
ライバルストーリー中の2013関東インカレの位置づけは?


@2走・柳沢が45秒89、4走・山崎が45秒40の非公式ラップ

 最終種目の4×400 mRを3分04秒96の好記録で制したのは日大だった。1走から400 m6位の水谷祐己(3年)、同5位の柳澤純希(4年)、800 m優勝の川元奬(3年)、400 m優勝の山崎謙吾(3年)のメンバー。4選手のラップ(非公式手動計時)は以下の通り。
水谷:46秒80
柳澤:45秒89
川元:46秒87
山崎:45秒40
 1走の水谷がトップ争いをして短距離主将の柳澤にバトンを渡すと、2走のオープンになった時点で柳澤がトップに。3走の川元が100m付近で早大に抜かれたが、最後の直線で抜き返した。4走の山崎は前半200mを21秒35(手元の手動計時)で通過して2位以下を大きくリードすると、2位・中大に1.77秒差をつけて圧勝した。
男子4×400 mRレース後の日大チーム。左から水谷、柳澤、川元、山崎
柳澤「水谷がトップ近くで持ってくると思っていたので、2位以下を離すのが自分の仕事と思っていました。後ろ2人はウチのエースですから、自信はありました。2走にはスピードのある選手が多く来るので、そこで自分がどう走れるか、だと思っていました」
川元「800 mのもやもや(優勝したがタイムが1分49秒56と悪かった)をマイルにぶつけました。冷静に、ラスト勝負に懸けて走った結果があのレース展開になりました」
山崎:「1位で持って来てくれたので、順位をキープしてゴールするだけでした。最後は後ろが気になりましたが。ゴールしてメンバーに抱きついで優勝を実感できました。個人(400m)の優勝も嬉しかったですけど、チームはさらに嬉しいです」

 個人成績を見ると圧勝も納得できる顔ぶれだが、柳澤と山崎の2人が今回の好成績の軸となっていたのは間違いないだろう。
 2人のライバル関係は4年前の奈良インターハイがスタート地点だった。

A中学記録保持者・柳澤の、3年目の勝機をつぶした山崎

 柳澤は2006年に48秒25の中学記録(現中学歴代2位)を出して全日中に優勝、秋のジュニアオリンピックも制した。ところが高校ではタイトルがとれなかった。3年時に46秒99をインターハイ北海道予選でマークしたが、本番は1学年下の山崎に敗れた。
 2年生優勝の山崎が46秒83、2位の柳澤は47秒23。先行していた柳澤を、最後50m付近で山崎が逆転した。そのレースを見ていた日大の井部誠一コーチは「あそこで2人の(競技人生の)流れが大きく変わりましたね」と話す。
 勢いに乗った山崎は秋の国体も優勝。3年時もインターハイを連覇した。

 一方の柳澤は日大進学後も流れを変えられず、大学1年時のシーズンベストは47秒7。2年時は右足首の故障でまったく走れなかった。
 だが、3年時の昨年は46秒89と3年ぶりに自己記録を更新して国体で5位に入賞した。その背景には、山崎へのライバル意識がプラスに働いていたことがあった。
「大学で同じチームになるとは思っていませんでした。向こうはどう思っているのかわかりませんが、僕は大学に入ってもずっと意識してきました。練習から、お互いに競い合えています」と柳澤。
 山崎も「つねに純希さんは意識して、練習でも負けないようにしてきました」と言う。

 2人を見てきた井部コーチは次のように話す。
「柳澤は優しくてまじめですが、内に秘めるものが大きいタイプ。山崎は勝ち気な性格です。2人とも表面的には静かですけど、練習になると性格が表れますね。スピードはどっこいどっこいで勝ったり負けたり。良い意味でライバル関係ができている2人です」
柳澤(左)と山崎

B学生初タイトルにも「過程の1つに過ぎません」(山崎)

 だが、レースでの直接対決は2009年の奈良インターハイ以降は、昨年の関東インカレがあるくらい。2人揃って調子が良い状態を作ることができなかった。
 その関東インカレも柳澤が6位、山崎は89秒74で8位。急性胃腸炎で準決勝のあと発熱した山崎は、病院から会場の国立競技場に直行し、対校得点のためにトラック1周をジョッグした(日大は総合優勝)。

 その山崎が今大会で初の学生タイトルを獲得した。4×400mRの優勝も、柳澤、山崎とも入学後初めてだった。
「去年が去年だったので、誰よりも勝ちたい気持ちが強かったはずです。マイルに関しても、純希さんがチームをずっと引っ張ってくれていたので、少しでも恩返しをしたかった」
 ここまではインカレらしいコメントを聞くことができた。

「ただ」と山崎は言葉をつないだ。「個人の走りについては普通に力を出しただけで、特に良かったということはありません」
 今回の優勝タイムは46秒31。静岡国際(5月3日)の46秒17、日大・東海大(4月13日)の46秒25を下回った。日大・東海大はスタートから上手くスピードに乗せることができ、前半200mを21秒7で通過しても余裕があった。「後半もフォームをまとめることができた」と町田の競技場で話してくれた。
 静岡国際は前半から行ったが「フォームが安定しなかった」という。自己新をマークしたが同じ学生の木村淳(中大)に先着されるなど、不満の残る内容だった。
 初タイトルの感想にも、課題を先に挙げた。
「バックが向かい風だったこともあったので前半を抑えて、展開を見て切り換えました。勝ちに行ったレースですが、あの走りでは日本選手権では優勝は狙えません。日本選手権は前半から積極的に行って、45秒台を狙います」

 冬期練習の手応えから、自己新や学生間での優勝は既定路線と考えていた。
「この後も大きな大会が続きます。世界陸上も個人で狙っていますし、学生タイトルは全部取るつもりです。今回はその過程の1つに過ぎません」
 山崎の意識はすでに、学生タイトルの先に向けられていた。

C元中学記録保持者がライバルを超えたときには…

 個人種目では水を開けられた形となった柳澤は、今大会の結果をどう受け止めているのだろう。
「同じチームメイトとして謙吾の優勝は嬉しかったですね。同じ環境で同じ練習をしている選手ですから、力を発揮できれば自分もやれると思えました」

 Aで紹介したように、練習の2人はどちらかが圧倒的に強いわけではない。勝ったり負けたりを繰り返している。だが、試合になると今季は山崎が3連勝している。
「練習以上に試合で力を発揮できるのが、彼の強いところです。ただ、先ほども言ったように練習では競い合えています。コーチからは、『オマエも力がないわけじゃない』と言ってもらっています。日本選手権で勝つことも、まったくあきらめてはいません。練習で目の前に標的がいるのですから、こいつに勝てば試合でも勝てる、と思って頑張れます。日本選手権、日本インカレと勝つチャンスも、自己記録を更新するチャンスもあります」

 日大・東海大で話を聞いたときに、「インターハイのリベンジの意味もあるので、4年生でしっかりと勝ちたい」というコメントを聞くことができた。
 高校時代の関係にこだわった場合、ともすると狭い世界だけで勝負を繰り返すことになる。柳澤と山崎の場合、普通は試合で対決するライバルがチーム内にいたことで、練習を追い込んで行うことができた。
 その練習を上手く活用できているのが山崎で、現時点では柳澤は活用できていない。だが、山崎が先に行っていることで、柳澤がそこに追いついたときには日本のトップレベルに躍り出ることになるだろう。

 為末大の例もある。高校ではケガが多かった中学チャンピオンが、故障を克服したときに高校のトップレベルに達し、さらには種目を変更したら日本のトップレベルになっていた。
 柳澤が年下のライバルを追い越したとき、45秒台前半を出すことになるだろう。


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