2012/8/10 ロンドン五輪展望
8日目(8月10日)午後の部
男子4×100 mRは38秒5〜6なら予選突破確実?
新たな伝統の第一歩となるか

 大会8日目午後の部に出場する日本選手は男子4×100 mR予選の日本チームのみ。

男子4×100 mR予選2組(日本時間11日3:53):日本

 北京五輪以降の世界大会と、今季のレース結果は以下の通り。また、各世界大会予選の通過最低記録も示した。

北京五輪以降の日本チーム成績
【塚原・末續・高平・朝原】  38秒15=2008北京五輪3位
      〃           38秒52=2008北京五輪予選1組2位
【江里口・塚原・高平・藤光】38秒30=2009ベルリン世界陸上4位
      〃           38秒53=2009ベルリン世界陸上予選1組2位
【小林・江里口・高平・齋藤】38秒66=2011テグ世界陸上予選2組4位
【江里口・山縣・高平・藤光】38秒69=2012静岡国際
【江里口・山縣・高平・小谷】39秒03=2012ゴールデングランプリ川崎
【江里口・山縣・高平・飯塚】38秒71=2012大阪府選手権特別レースA
【江里口・山縣・高平・飯塚】38秒83=2012大阪府選手権特別レースB
北京五輪以降の予選通過最低記録
北京五輪:39秒13
ベルリン世界陸上:38秒72
テグ世界陸上:38秒47

 昨年のテグ世界陸上で、シドニー五輪以来続いていた世界大会連続入賞が途切れたが、38秒66のタイムは北京、ベルリンと比べて0.1秒ちょっと低いだけ。テグチームが悪かったわけではない。
 決勝に進出できたのは38秒47までと、テグのレベルが異常に高かった。単純に数字だけを見ると北京チームもベルリンチームも決勝に進めなかったことになる。

 しかし、単純に数字だけを比べたらダメだろう。
 北京五輪は雨の上がった直後でコンディションが悪かった。付け加えるとするなら、予選で38秒52でも決勝で38秒15まで記録を上げる“チーム力”があった。
 その点、昨年のテグ世界陸上は女子の予選通過タイムも、それまでの世界大会に比べ異常に高かった。記録が出やすい条件だったのだろう。そのなかで38秒66は力不足だったと言わざるを得ない。

 ベルリンチームは各選手の走力が高かった。江里口と塚原が10秒0台の自己新、高平も20秒22の自己新を出したシーズンだった。藤光の自己記録は2010年だが、当時から陸連合宿などではトップスピードが目立つ存在だったと聞いている。
 末續と朝原は北京五輪の頃、走力が自己記録を出したシーズンよりも落ちていた。個人種目の走力なら、ベルリンチームの方が上だったのではないか。チームとしての成熟度で、北京チームはメダルを手にしたといえる。

 肝心のロンドンチームだが、山縣と九鬼巧のツイッター上でのやりとりを見ると、九鬼が控えに回ったようだ。オーダーは山縣亮太・江里口匡史・高平慎士・飯塚翔太となるだろう。
 今季は静岡国際以降、1走・江里口、2走・山縣を試してきたが、JISの測定データで1・2走を逆にした方がいいかもしれないという判断ができた。7月中旬の富士北麓合宿で1走・山縣、2走・江里口でデータをとると、大阪府選手権よりも良いタイムが出た。直前の変更というと女子の失敗がを思い起こしてしまうのだが…。

 女子は1走から土井杏南、市川華菜、福島千里、佐野夢加のオーダーで予選1組8位、44秒25で敗退した。バトンパスは1・2走はつまり、2・3走は最後で減速し、3・4走は(テレビ画面の端で不鮮明だったが)4走が振り返ったように見えた。
 女子チームは昨年から、2走・高橋、3走・福島で固定してきた。終盤に強い高橋の特徴と、男子並のダッシュができる福島の特徴を最大限に生かすのが狙い。ところが直前のフランクフルト合宿で、個人種目に出場する福島以外の4人で選考トライアルを行った結果、市川、土井、佐野、高橋の順位となり、高橋を外さざるを得なくなった。

 合宿では走順を決めつけずに何パターンものパスを練習してきたが、“高橋・福島”ラインは鉄板と誰もが思っていただろう。表面的には高橋不在も想定した範囲でも、潜在的な意識ではどうだったか。
 それに加えて大会が始まり、個人種目で福島の不調が明らかになった。
 4×100 mRは目印に前の走者が来たらスタートする。文字にすればそれだけだが、それを正確に、思い切りやろうとしたら選手同士の信頼感や、精神的な安定が不可欠だ。単に緊張しただけかもしれないが、そこも含めて女子チームはまだ世界で戦う力が備わっていなかった。
 そう考えると“チーム朝原”と呼ばれた北京五輪チームが強かったのは納得がいく。何年もかけて固定されたメンバーがそれぞれのポジション(走順という意味だけでなく)で役割を果たし、お互いの信頼感、朝原がいることでの安心感は絶対的に大きかった。

 ロンドン男子チームの走順変更は、女子ほど直前ではない。
 プラス要素は山縣が個人種目で準決勝まで進出し、予選で10秒07(+0.7)の自己新、準決勝で10秒10(+1.7)と五輪日本人最高タイムを連発したこと。
 マイナス要素は江里口が100 m予選で10秒30(+1.3)と予定よりも0.2秒悪かったこと。これは何度も書いているように、個人種目とリレーで走りがガラッと変わることがあるので、それを期待したい。
 高平と飯塚の200mはプラス要素ともマイナス要素とも断定できない。

 チームとしての成熟度ということでいえば、北京五輪チームには到底及ばないが、2004年から代表入りを欠かさず続けている高平の存在は大きい。5人中3人を学生が占める若いチームだが、高平が落ち着いていれば若い選手も安心できる。江里口も2009年以降メンバー入りを続けている。
 こちらの記事連続メダルに挑む4×100 mRのリーダーが「“チーム高平”になってはダメなんです」と言う理由は?で高平が話しているように、北京五輪のようにメンバーを固定した強さでなく、誰が出場しても強さを発揮できるチームが今後、日本が目指す方向だ(結果的に固定されることもあるかもしれないが)。
 その第一歩をロンドンで記すことになる(ベルリンが第一歩といえるかもしれないが、ベルリンとテグは北京型を目指す過程だった)。
 普通の条件であれば38秒5〜6くらいで走れば予選を突破できる。勝負は決勝でどこまで記録を短縮できるか。それで現時点のチーム力が判断できる。


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