2009/5/9 国際グランプリ大阪
和歌山でB標準突破の荒井、好調の要因は?
「新たな自分を見つめた冬期をすごすことができました」


 男子やり投で75m78で3位(日本人2位)となった荒井謙(七十七銀行)。日本選抜和歌山大会では78m55の自己新で世界選手権B標準を突破。1種目で2人の標準記録突破は1980〜90年台前半の吉田雅美&溝口和洋時代以来と思われる。今季のやり投盛況を演出した立て役者となっている。
 好調の要因を質問すると得意の技術論ではなく、村上幸史(スズキ)の名前が一番に挙がってきた。
「この冬の合宿で村上さんと一緒になることが多くて、一緒に投げ込みました。ともに生活することで気持ち的にも1つになることができたと思っていますし、他の投てき種目の選手たちからも刺激をもらいました。1月の沖縄合宿では78mくらい行っていました。実測で75mくらいです。試合でアドレナリンが出れば78mは行くと思っていました」

 荒井といえば2005年の岡山国体で75m06で優勝し、2001年後半から続いていた村上の日本選手相手の連勝記録にストップさせた選手(当時は筑波大の院生)。前年までは60m台だった記録を、「ゼレズニー(チェコ)を参考にしている」という動きで一気に伸ばした。
 2006年は背中などを痛めたこともあり、「動きが大きく狂ってしまった」。シーズンベストは73m87にとどまった。2007年から再度上昇に転じ、同年に75m67、08年には2月のオーストラリア遠征で76m41。さらに、9月の全日本実業団で76m75と自己記録を更新した。そして、今年4月の和歌山でB標準突破。
「技術的には色々な要因がありますが、去年も、はまれば飛ぶ状態でした。右脚の使い方を中心に、最後のブロックができてきています。今年は良い動きの再現性が高くなったのだと思います」
 村上の記事中に出ている、外国人選手に多い“背中を使う投げ”も、荒井が一足先に取り組んでいた。硬くてレベルの高い競技者にはプラスになるが、身体への負担も大きいと言われているカーボン製のやりを使用するなど、積極的な姿勢も特徴だ。

 いつも人なつっこい笑顔を見せてくれる荒井だが、競技に懸ける思いは人一倍強い。客観的に見れば北京五輪代表は厳しい状況だったが、荒井自身は本気で狙っていた。
「北京五輪も前の年の大阪世界選手権も、標準記録を切ることができませんでした。実業団選手である以上、世界にかからないとつらい部分があります。昨年の夏以降は思い切った練習をするようになりました。ケガと紙一重の部分もありますが、その“域”を知ることが重要です。新たな自分を見つめた冬期をすごすことができたと思います」

 実際、「背中とひじに爆弾を抱えている」という状態で、和歌山では3本しか投げられなかったし、大阪GPも「恐る恐る」の状態だった。日本選手権に合わせることを優先しているからだ。
 昨年は2月と9月に自己新を投げた。日本選手権も75m台と決して悪い結果ではなかったが、荒井自身は「6月末にピークを持っていけなかった」と悔いている。
 日本選手権にピークを合わせる前提の上でだが、大阪GP翌週の東日本実業団では「狙っていく」つもりだ。会場の天童は、昨年の全日本実業団で自己記録を更新した相性の良い競技場でもある。


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