2008/6/26
日本選手権2009日付別展望
第3日・6月27日(土) 男子編
成迫「横綱レースをしたい」
砲丸投は18m後半を期待

■男子100 m予選
■男子400 m予選
■男子1500m予選

■男子110 mH準決勝・決勝
 田野中輔が優勝候補。3月にアキレス腱の故障があり13秒6を切っていないが、織田記念、大阪GPと日本人トップ。東日本実業団では直前の体調不良のため後半型を試したが、日本選手権では“1台目をトップで入る”本来のスタイルで2度目の優勝とA標準突破を狙う。
 4連勝中の内藤真人がピンチだ。アキレス腱の故障で北京五輪後に初めてハードルを跳んだのが5月末。スプリントチャレンジin TOTTORIで14秒06で走ったのは「予想以上」(内藤)だったが、日本選手権までに戻せるかどうか。
 鳥取で田野中を破って13秒77で優勝したのがモーゼス夢。田野中が2、3台目を珍しく倒したことにも助けられたが、一番勢いが感じられる選手だ。

=陸上競技マガジン7月号記事。以下同

 予選は5組が行われ内藤真人、田野中輔、大橋祐二、八幡賢司、古川裕太郎がトップ通過。13秒78の田野中と大橋が記録的にはトップだが、風は田野中の2組が−0.5で、大橋の3組が+0.6。
「予選としては及第点。鳥取(モーゼス夢に敗れて2位)はアップがピカイチで、記録を意識しすぎてしまって力が入りすぎました。今回は力を抜いて、勝てば記録も出ると思っています」と田野中。
 大橋も「タイムは想定内。明日にピークを合わせています」と好感触のようだ。
「シーズン序盤は体が思うように動きませんでしたが、何とか間に合いました。標準記録を切っていないので、切って優勝することが目標ですが、自分のレースができれば両方ついてくると思っています。変に意識するのは良くない」
 2年前の世界選手権代表の八幡賢司も復調。昨年はアキレス腱を痛め、シーズン終盤にやっと回復した。しかし、冬期にも再度痛め、本格的な練習は「2月くらから」だと言う。予選のタイムは13秒91。
「13秒80くらいで行く予定でしたが、暑いですね。決勝ではアップを考えて、刺激を入れながらも体力を温存したい。動きは抜くところと入れるところを、もう少しメリハリを出すことと、ブレーキングの改善が課題です」
 1組の内藤も13秒90で、なんとか間に合ったようだ。だが、鳥取の後、右の大腿前側を痛めたという。準決勝でどこまでタイムを上げられるか。「世界で戦ってきたイメージがある」と話していたようなので、大舞台の経験などを活かし、一気に上げていくつもりのようだ。
 注目のモーゼス夢は1組で3位。田野中と岩船陽一に後れをとった。今季出遅れていた岩船が上げてきたのか、モーゼスが失敗したのか。準決勝を見てみないと判断が難しい。

■男子400 mH決勝
 現役続行を決め、サンディエゴを拠点にトレーニングを積んでいる為末大だが、ヒザ等の状態が思わしくない。関係者によれば日本選手権出場は「五分五分」だという(6月2日時点)。ただ、故障明けで優勝した昨年の例もある。スタートラインに立てば、優勝候補であることは間違いない。
 成迫健児は故障を完治させることを優先したため、冬期練習が例年よりも後ろにずれた。スロースタートだったが静岡国際で48秒99、大阪GPで48秒77と予定通りに記録を縮めている。日本選手権は「48秒5前後」が目標だ。最後まで14歩で押し通すプランもあり、ホームストレートの歩数にも注目したい。
 吉形政衡が大阪GPで49秒34。A標準(49秒25)突破も期待できる。


 為末大は欠場。予選成迫健児の独壇場となりそうな気配だ。
 だが、予選1組の成迫は1位通過も51秒64とタイムはよくない。「風が向かっていたこともあって、前半が思い切って行けませんでした。そのまま行ってしまって、こんな記録に終わってしまった。無理に上げたら明日に残りそうで」と、気合いが入らなかったことを認めている。だが、決勝に対しては並々ならぬ意欲をもって臨む。
「(風や暑さなど)この条件でも48秒台を出せないと、世界では相手にしてもらえません。“環境負け”しないようにしたい。ライバルを置き去りにするような横綱レースをしたい」
 今季の調子や実績から、成迫に迫るとすれば吉形だと思われたいる。予選2組で河北尚広に先着を許したのが気になるが、本人はプラス通過に自信を持っていたようで、最後は無理をしなかった。
「リズムは良かったと思います。良い充電になりました。明日は全部、出し切ります。僕の力からしたら48秒台後半を確実に出すことだと思います。あとは、プラスアルファで出るものがあれば。(対成迫ということなら)後半というよりも、中盤でいかに追いつけるか。7台目に15歩に切り換えますが、そこをスムーズに切り換える課題が上手く行けば、イケルと思っています」
 予選では3組の吉田和晃が唯一の49秒台となる49秒74。この組のタイムが全体的に良いので風に恵まれたのかもしれないが、今季出遅れていた吉田が、完全に戻ってきたと見て良さそうだ。
「A標準を破れば2位でも代表になれるので、アメリカではいつもラストで負けていましたが、吉形さんとの2位争いに競り勝てるようにしたい。今日は6台目までしか行けませんでしたが、決勝は13歩を7台目まで行く予定です」
 話は聞けなかったが2組1位の河北、タイムは51秒79と悪かったが(風が強かったの可能性がある)、小池崇之に競り勝った増岡広昭(昨年49秒76)らが2位争いに加わる可能性もある。

■男子棒高跳決勝
 第一人者の澤野大地が、今季も4月にアメリカで5m70を跳ぶなど好調。5月の静岡国際は「ポールの選択ミス」で記録なしに終わったが、そういったミスがない限り負けることはないだろう。
 しかし、学生陣も確実に力をつけている。澤野は日本記録保持者となった2003年以降、記録なしに終わった05年を除き日本選手権では2位に30cm以上の大差で優勝してきたが、昨年は2位の鈴木崇文が5m50で20cm差と健闘した。
 鈴木は静岡国際で5m55、同学年の荻田大樹も大阪GPで5m55に成功した。2人とも2年連続でB標準を超えていて、澤野も以前ほど簡単には勝てない状況になってきた。2人のうち澤野に善戦した方が、世界選手権代表に近づく。


 澤野は6月第1週のプレフォンテインクラシック(アメリカ)で記録なし。向かい風が強く、参加7選手中4人が記録なしだったという。
 澤野に勝てるレベルまでは行っていないが、荻田大樹と鈴木崇文の大学4年コンビも、学生としては高いレベルで安定している。荻田は大阪GP後も関西インカレで5m45、中京大土曜競技会で5m40。鈴木は大阪GPで5m45、関東インカレで5m40。
 2人に比べると、笹瀬弘樹は静岡国際の5m45の後は、大阪GP5m25、関東インカレ5m10と記録が落ち気味である。

■男子三段跳決勝
 織田記念で16m45を跳んだ藤林献明がリスト1位。自己記録には6cm届かなかったが、「パーツをつなぐところが少し見えた」と手応えを得ている。
 唯一のB標準突破者である石川和義が、織田記念では15m93で関係者を心配させた。だが、以前に悩まされてきた故障の影響ではないという。「昔はウエイトなどで追い込んで、超回復させて跳んでいましたが、今は感覚を重視しています。結果的に、試合を重ねないと上がってきません」(石川)。日本選手権では「自己記録(16m98)をぼんやりと」イメージできそうだという。
 東日本実業団で藤林と同記録の16m26だった角山貴之、関西学生で16m19の花谷昴らが、どこまで上位戦線を賑わせられるか。


 石川和義が本人の言うように自己記録に近いところを跳べれば勝てるが、16m前半にとどまるようだと、6月6日の群馬県選手権でも16m31(+1.6)と好調の藤林献明の優勝が濃厚となる。
 陸マガ記事で名前を挙げた選手以外では、十亀慎也が昆山のアジアGPで16m18(−0.3)を跳んでいる。ベテラン杉林孝法の一気の復活にも期待したい。

■男子砲丸投決勝
 新たな18mプッターが誕生した。山田壮太郎が織田記念で18m13の日本歴代5位をマークして優勝。関東インカレに出場していないので、その後の動向がわからないが、「日本選手権では日本記録を狙いたい」と意欲は十分。
 日本記録保持者の畑瀬聡、歴代3位の村川洋平に山田が加わり、18m選手3人が日本選手権で対決する。今季リスト2位は村川で17m83、リスト3位が東日本実業団優勝の大橋忠司の17m75で、山田は堂々の優勝候補だ。
 畑瀬が今季17m59と調子が上がっていないのが心配される。しかし、東日本実業団の際に「日本選手権に合わせて、この日まで我慢しろといわれて練習しています」と話した。新しい技術収得に向けて、堪え忍んでいるようだ。


 山田は日本学生個人選手権で17m52のセカンド記録で優勝。投てき界でも洗練された動きとの評価を得ている選手だ(詳しくはこちらの記事参照)。
 東日本実業団では大橋忠司が17m75で優勝。織田記念では17m29で、昨年後半の勢いがなく心配されたが、立て直してきた。
 陸マガ記事で紹介した畑瀬も、東日本実業団の17m07から、群馬県選手権で17m61に上げてきた。新しく取り組んでいる投げが間に合えば、18m後半も可能だろう。
 村川も日本選手権に向けて良い状態だとコーチが話していた。
 これだけの材料で推測するのもどうかと思うが、18m台後半(日本記録)を複数選手が投げそうな予感もする。

■男子ハンマー投決勝
 今季はまだ試合に姿を見せていない室伏広治だが、日本選手権の15連勝は間違いないだろう。北京五輪銅メダルで世界選手権の代表にも決まっている。記録の良し悪しよりも、室伏自身が現状をどう感じているかが焦点になる。
 記録的な興味は2番手の土井宏昭に向けられそうだ。昨年までの所属チーム廃部により冬期練習が不十分。出足がよくなかったが、東日本実業団では71m95まで記録を上げてきた。B標準の74m30を超えれば世界選手権出場も可能になる。野口裕史は4月に69m82の日本歴代6位を投げたが「ターンの最初の接地が安定しない」ためその後は記録が安定しない。土井と野口が日本選手権で70m台を記録すれば、史上初めて3選手が70m以上を投げた試合となる。


 室伏の15連勝と世界選手権に向けての状態に、世間の注目は集まるが、それだけでは日本選手権をやる意味がない。室伏以外の選手がどこまで頑張るかが重要だ。
 野口裕史は東日本実業団に続き、6月7日の群馬県選手権でも65m台。陸マガ記事でも紹介した「ターンの最初の入り」が安定しないのだろうか。


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