2008/6/24
日本選手権2009日付別展望
第1日・6月25日(木)
上野と竹澤のラスト勝負が一番の注目
岩水、福士、吉田、海老原ら春季GP欠場選手の状態が勝敗を左右


■男子200m予選

■男子800m予選

■男子5000m決勝
 B標準突破が前田和浩と上野裕一郎の2人だが、マラソン代表の前田は出場しない。過去3年連続長距離2冠の松宮隆行も、今年は1万mに絞る予定だ。
 上野の武器はラストのスピードを計算できること。ゴールデンゲームズでもラスト1000mを2分37秒、400 mを57秒台でカバーしてB標準を2秒69破った。昨年は故障に泣いたが、1年かけてしっかりとした状態を作ってきた。
 竹澤健介が箱根駅伝のダメージから徐々に回復し、5000mに絞って出場する。標準記録未突破で、日本選手権前に破れなかったら本番でも挑戦するという。ラスト勝負でも上野に対抗できる数少ない選手だ。
「万全の上野と、集中力の竹澤」(田幸寛史監督)の対決は興味深い。

=陸上競技マガジン7月号記事。以下同

 竹澤健介の標準突破がなるかどうかが、最初の見どころ。
 竹澤はホクレンDistance Challenge第2戦の深川大会3000mが今季初戦となり、8分05秒44で松岡佑起(大塚製薬)を0.13秒抑えて1位。続く第3戦の士別大会はゲディオン(日清食品グループ)に21秒47離される13分38秒25。
 北京五輪代表だった竹澤だが、昨年も故障上がりの日本選手権で五輪代表を決め、北京五輪後もトラックレースに出られなかったため、標準記録を突破することができなかった。世界選手権代表になるには日本選手権で標準記録を破って優勝するしかない(優勝者がA標準を破れば2位でも出場資格は持つことになる。選ばれるかどうかはわからない)。

 一番の目的は達せられなかったが、13分38秒25という記録は悪くない。“戻し”の早い竹澤らしいともいえる。前述のように、昨年の日本選手権はシーズン初のトラックレースにもかかわらず、松宮隆行(コニカミノルタ)に続いて2位となり、北京五輪代表の座を射止めた(そのときは前年のA標準が効いていた)。今年は標準記録未突破。竹澤の状態が良いとしても、B標準を破るにはそれなりのペースでレースを進めないといけない。

 B標準を破るには、400 m毎を65秒弱で押し通すことが必要。竹澤の力からすると無理ではないが、1人で引っ張ることになるとどうか。暑さや湿度も影響がないとは言えない。そこで計算できるのが、同僚の上野裕一郎の存在だ。
 陸マガ記事に書いたように、上野はラストをきっちりと上がってくる。2人で競れば最後の1000mを2分35秒までは上げられるだろうか。そうすると4000m通過は10分54秒でいい。つまり、3000mまでを65秒イーヴンで押せば、次の1000mは1周66〜67秒ペースに落とすことも可能となる。

  しかし、B標準では上野に勝たないと代表になれない。その点、ゴールデンゲームズでB標準を突破済みの上野は、勝つことに集中できる。理想は、優勝記録がA標準突破となることだが、どちらか勝った方が代表になるという状況も緊張感がある。
 2人のラストの競り合いは、陸マガ記事にも書いたように甲乙つけがたい。2年ほど前から竹澤が「ラストにも自信を持てるようになった」と言えるようになった。優勝した2007年の日本インカレや、2位争いを制した昨年の日本選手権など、本当に強かった。今の日本では文字通り“一、二を争う”2人だろう(13分30秒以内の選手で)。先に仕掛けた選手が、自身の余力をどこまで正確に判断できているか。かといって、慎重になりすぎても勝機は開けないかもしれない。
 いずれにしても、2人のラスト勝負は初日のハイライトになる。

■男子3000mSC決勝
 6月で30歳になる日本記録保持者の岩水嘉孝が、唯一のB標準突破選手。ゴールデンゲームズ5000mでは14分09秒25だったが、ここ一番への集中力は高い。
 好調なのが梅枝裕吉で、兵庫では前回世界選手権12位のメスフィンに0.10秒差に迫った。アメリカ遠征で8分39秒56、中部実業団では8分36秒36の自己新。兵庫では「標準記録(Bは8分33秒50)は切れる。岩水さんの跡を継ぎたい」と話していた。東日本実業団優勝の菊池昌寿も、「岩水さんが3000mSCを走っているうちに勝ちたい」と意欲的。関西実業団優勝の松浦貴之も要注意選手。
 有力選手が集まった6月6日のホクレン札幌大会では、岩水が8分34秒95の今季日本最高で日本人1位。梅枝、菊池と好調な選手が上位を占めた。


 ホクレンDistance Challenge札幌大会の結果は以下の通り。
NAHOM MESFIN カネボウ 8.29.48
岩水 嘉孝 富士通 8.34.95
梅枝 裕吉 NTN 8.35.19
菊池 昌寿 富士通 8.38.31
岡村  翔 Honda 8.44.80
松浦 貴之 大塚製薬 8.45.76
黒田 将由 中国電力 8.48.25
中嶋 聖善 立命館大学 8.49.55
 岩水嘉孝(富士通)と梅枝裕吉(NTN)が僅差の勝負をしたが、岩水の余力が実際のところどの程度だったのか。流れとしては、シーズンインを遅らせ(遅れた?)調子を上げてきている岩水が、標準記録も突破済みで有利な立場にいる。明らかに力をつけている梅枝が、それを凌駕することができるかどうか。
 8分40秒前後の選手が増えていることも注目点。菊池、松浦の地区実業団優勝者や、関東インカレ優勝の松元葵(山梨学大)らが、どこまで岩水・梅枝に迫るか。1000mを2分50秒ちょっとで入る先頭集団に4〜5人がいれば、その全員に8分30秒台も期待できる。

■男子円盤投決勝
 2007年に60m10の日本歴代2位を投げた畑山茂雄が兵庫リレーカーニバル、三重県の記録会、静岡国際と57m台を連発。三重の57m93は自己8番目の記録で、日本記録(60m22)保持者の川崎清貴の3番目の記録が57m84ということを考えると、畑山が高いレベルで安定していることがわかる。10回目の優勝の確率は高い。風に恵まれれば最古の日本記録(1979年)更新もあるだろう。
 小林志郎が兵庫、静岡と連続2位で、記録差は3m45と3m18。06年と08年には日本選手権で畑山に土をつけている。3度目の優勝も狙えるはずだが「まだベスト記録の差(3m75)くらいの実力差はある」と認めている。だが、畑山にミスがあったときに付け入ることは十分に可能だろう。


 陸マガ記事に書いたように、アベレージでは数年前から、日本記録保持者の川崎清貴を上回っている畑山茂雄。川崎は広島県の出身。現在はオーストラリア在住で、畑山は合宿中にアドバイスを受けたこともあるという。先人の故郷で記録を更新したら恩返しにもなる。広島の風が味方することを祈りたい。

■男子十種競技1日目
 田中宏昌の6連勝がかかっている。2007年までは2位に大差をつけていたが、昨年は7594点の田中に対し池田大介が7550点まで追い上げたため、薄氷を踏む勝利だった。
 今季も日本選抜和歌山大会で田中が7639点と自己3番目の記録をマークしたが、右代啓祐が7622点と肉薄した。今年23歳で伸び盛りの2人が挑んでくるだけに、激戦となることが予想される。
 田中は8種目目の棒高跳で差を広げるのが勝ちパターンだが、右代は9種目目のやり投で70m台、最終種目の1500mで4分27秒台の記録を持つ。棒高跳終了時点で田中が250点リードすれば安全圏、右代と200点前後ではどう転ぶかわからない。


 上位候補3選手の自己ベストと、今年の和歌山大会の内訳と得点を一覧表にした。
田中宏昌
2009和歌山 得点 累計 田中自己記録 得点 累計
100m 11"09 (-1.7) 841 841 10"87(+1.2) 890 890
走幅跳 6m85 (+1.7) 778 1619 7m16(+2.5) 852 1742
砲丸投 11m81 595 2214 12m07 611 2353
走高跳 1m93 740 2954 1m87 687 3040
400m 50"08 811 3765 49"85 822 3862
110mH 15"10 (+1.6) 837 4602 15"06(+2.3) 842 4704
円盤投 42m28 711 5313 40m21 669 5373
棒高跳 5m00 910 6223 5m10 941 6314
やり投 60m04 738 6961 63m94 797 7111
1500m 4'40"38 678 7639 4'38"22 692 7803
右代啓祐
2009和歌山 得点 累計 右代セカンド記録 得点 累計
100m 11"57 (-0.9) 738 738 11"42(+1.5) 769 769
走幅跳 6m82 (+0.7) 771 1509 6m79(+2.9) 764 1533
砲丸投 13m78 715 2224 12m89 661 2194
走高跳 1m93 740 2964 2m02 822 3016
400m 50"60 787 3751 51"49 747 3763
110mH 15"47 (+1.5) 794 4545 15"67(+1.3) 770 4533
円盤投 40m65 678 5223 42m87 723 5256
棒高跳 4m50 760 5983 4m40 731 5987
やり投 69m33 879 6862 66m96 843 6830
1500m 4'27"69 760 7622 4'39"71 682 7512
池田大介
2009和歌山 得点 累計 池田自己記録 得点 累計
100m 11"32 (-1.7) 791 791 11"30(0.0) 795 795
走幅跳 6m77 (+0.7) 760 1551 6m90(-0.6) 790 1585
砲丸投 12m78 654 2205 12m77 653 2238
走高跳 1m84 661 2866 1m92 731 2969
400m 49"91 819 3685 49"81 823 3792
110mH 14"82 (+1.5) 871 4556 14"85(+0.5) 868 4660
円盤投 40m74 680 5236 38m25 629 5289
棒高跳 4m50 760 5996 4m60 790 6079
やり投 63m15 785 6781 62m83 781 6860
1500m 4'48"73 626 7407 4'29"29 749 7609

 田中と右代を比較すると、得意種目は異なるものの、1日目と2日目の得点配分は似ている。和歌山では初日に14点リードした田中が、最終的に17点差で勝っている。
 といっても、このくらいの点差はその試合の状態でいかようにも変わってくる範囲。初日で10〜30リードされたからと、プレッシャーを感じているようでは混成競技選手はつとまらない。
 それよりも、初日の注目は池田大介の点数だろう。田中と右代に勝つには、自己ベストに近い点数が必要となる。前半を2人と同レベルの点数で終えられれば、三つ巴の混戦に持ち込める。


●女子200m予選

●女子1500m予選

●女子10000m決勝
 昨年は故障の不安もあって3位と敗れ、連勝記録が「6」で途切れた福士加代子。タイトルを取り戻すことが目標で「記録はついてくれば」(永山忠幸監督)というスタンスだ。もっとも、福士が良い状態であれば、スローペースにはならない。なったとしても、早い段階でスパートするだろう。
 福士に対抗できそうなのは兵庫リレーカーニバルで日本人1位の中村友梨香。30分台を出せる力はありそうだ。また、ベテランの小崎まりも調子を上げていて要注意の存在。マラソン代表では、前回優勝者でもある渋井陽子は出場しないが、赤羽有紀子と加納由理は出場予定。なかでも赤羽は仙台ハーフで1時間8分台と、底力があるところを見せている。


 優勝予想を福士としたのは、陸マガ記事用に永山忠幸監督に電話取材をして、昨年12月の全日本実業団対抗女子駅伝以降の流れを聞いて判断した。半年をかけてじっくりと、準備をしてきている。レースには出ていなくても、レース勘が鈍ることは福士に限ればないと言える。日本選手権では間違いなく、力を出してくる。
 中村が勝てるとすれば、それを凌駕する成長を見せたとき。その可能性は大いにあるが、それが実現できる兆候は、現時点でははっきりしていない(だから福士を優勝者に予想した)。
 陸マガ記事中に名前を挙げていないが、松岡範子がホクレンDistance Challenge深川大会に32分18秒74で優勝している。昨年4位の選手で、故障も多いが“戻し”も早い選手。ひょっとすると、ひょっとするかもしれない。

●女子100 mH予選

●女子走高跳決勝
 今井美希・ハニカット陽子の2強時代の跡を継ぎ、女子走高跳のレベルを保ってきた福本幸が3連勝中。その福本も、今季いっぱいで一線から退くことを考えているという。和歌山では優勝したものの1m80。春季GPの他の大会では女子走高跳が組まれていなかったため、5月10日の京都府記録会に出場し、1m85と記録を伸ばした。花道を飾るためにも標準記録を跳んで世界選手権出場を果たしたい。
 和歌山で福本と同記録の1m80をクリアした三村有希が、先に1m80の次の高さを跳べば勝負も面白くなる。昨年、1m76以上を跳んでいる若杉麻衣子、大浦暁絵、関東インカレ優勝の今城瞳らの学生勢に1m80以上を期待したい。


 陸マガ記事を書いた後の動向では、日本学生個人選手権で三村有希が1m81の自己新で優勝した。詳しくはこちらの記事を参照してほしいが、優勝者予想の福本幸との勝負が楽しみになったのは確か。
 ただ、その福本も6月中旬の関西実業団記録会で、今季2度目の1m85をクリアしている。好勝負が実現するとすれば、福本の調子が悪いときという条件付きになる。
 それよりも、今季いっぱいでの引退を意識している福本に、なんとかB標準の1m91を跳んでほしいところだ。

●女子棒高跳決勝
 昨年は4m10がシーズンベストにとどまった錦織育子が復調し、織田記念に4m20で優勝。まだ、日本記録(4m36)を跳んだ頃の硬いポールは使いこなせないが、織田記念では4m40にも挑戦した。
 前回世界選手権代表の近藤高代は織田記念で4m00。元日本記録保持者の中野真実は4月に4m15と出だしは良かったが、織田記念で大腿部を肉離れ。
 錦織は意外なことに日本選手権は未勝利。初優勝に立ちはだかるとすれば昨年優勝の我孫子智美だが、織田記念は4m00、2月に室内で出した4m10が今季ベストと伸び悩んでいる。4m20を1回目でクリアした選手が優勝できそうな情勢で、B標準の4m35をクリアできれば世界選手権代表も確実だ。


 織田記念後、つまり5月以降の情報がほとんどない種目。
 織田記念の結果だけからの判断になるが、錦織育子が日本記録をマークしたビッグアーチで初の日本選手権タイトルを獲得する可能性が高い。といっても、5割以上あるというよりも、候補選手の中で一番上というところ。
 我孫子智美が織田記念と、6月の日本学生個人選手権で4m00を跳んでいる。2連覇がかかっているし、年齢的には最も有利のはずだが、どこかしっくりきていない感じを受ける。
 中野真実選手の情報は本人のブログに出ている。ケガからの復帰戦として6月中旬の鳥取での試合に出場したが、4m00が跳べずに記録なし。もちろん、日本選手権本番で一気に復調する可能性もないわけではない。
 近藤高代も織田記念後、関西実業団あたりに出場するかと思われたが、出てこなかった。どういう状態なのか不詳だが、ライバル選手たちからすると不気味な存在だろう。

●女子三段跳決勝
 吉田文代が4連勝中。今季は3月のオーストラリア遠征で13m02を跳んでいるが、その後は疲労から来る腰痛で織田記念は欠場。東日本実業団では「出力が上がらない」状態ながら12m56で優勝。昨年からフルタイム勤務の環境でトレーニングを続けているが、「あれもこれもと欲張るとケガをします。日本選手権まで絞ってやっていきます」と言う。ただ、オーストラリアの13mで、「予想以上に良い感触」もある。13m10以上の優勝記録を続けたいところ。
 3年連続2位の三澤涼子は中部実業団の12m69がベスト。日本選手権に合わせられるか。織田記念で12m84の竹田小百合、関東インカレ優勝の大坂阿玖里、同2位の前田和香ら、学生陣に13mを期待したい。


 5月4日に竹田小百合が13m13(+1.8)の学生歴代5位タイ跳び、今季の日本リスト1位に立った。織田記念でも日本人1位。今季の実績なら優勝者予想にしてもおかしくない。
 ただ、吉田文代と直接対決はしていないし、吉田には東日本実業団で今季の状態を話を聞いている。日本選手権に懸ける思いの強さも、過去の取材でよくわかっている。そういった諸々を総合して、吉田を優勝者予想に名前を挙げた。
 ただ、学生2年目の竹田が将来の大物で、今が成長している最中であるならば、話は違ってくる。

●女子やり投決勝
 海老原有希が4月に60m84の日本歴代2位とB標準を初めて突破した。A標準にも16cmと迫るハイレベルの記録である。だが、兵庫リレーカーニバルで右のハムストリングを負傷したこと(それでも53m69で優勝)。静岡国際、大阪GPと欠場。中部実業団では復帰したが52m44にとどまっている。
 前回の世界選手権代表の吉田恵美可は対照的に、兵庫の52m28から静岡の55m32と記録を上げている。海老原との同学年対決は面白くなりそうだ。
 海老原の脚の状態が万全なら再度の60mスローを期待したいが、60mを投げた技術がいつでも再現できるほど簡単ではないことを、コーチも海老原自身も認めている。57m47のセカンド記録前後なら、その後を十二分に期待できる。


 海老原有希は6月7日に55m22まで記録を上げてきた。悪くてもそのレベルを投げられるようだと、吉田恵美可も分が悪い。


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