2007/11/16 東京国際女子マラソン前々日会見
両監督のコメントからもハイペースは必至だが、
ポイントは力まないことか?


 記者会見後に有力選手の指導者に話を聞くのは、共同会見後の恒例になっている。三井住友海上・鈴木秀夫監督の取材中に、次のようなコメントが出た。
「渋井が失敗したレースは、本人が思っていたよりもついて来られたケース。それに対して今回の野口さんは、一緒にいて当たり前の選手。胸を借りるっていう部分もあるくらい。今までの失敗レースとは状況が違う」

★渋井のマラソン全成績
回数 年月日 大会 順位 記録
1 2001/1/28 大阪 1 2.23.11.
2 2001/8/12 エドモントン世界選手権 4 2.26.33.
3 2002/10/13 シカゴ 3 2.21.22.
4 2004/1/25 大阪 9 2.33.02.
5 2004/9/26 ベルリン 1 2.19.41.
6 2005/3/13 名古屋 7 2.27.40.
7 2006/3/12 名古屋 2 2.23.58.
8 2007/1/28 大阪 10 2.34.15.

 渋井のベスト記録は独走で日本記録(当時)をマークした2004年のベルリン・マラソン。02年のシカゴも、ラドクリフ(英国)とデレバ(ケニア)の2強に引き離されたが、その後は独走でリズムをつくった。それに対して04年の大阪、05年の名古屋と、国内で競り合ったレースは好結果が出ていない。
 渋井自身、自身のベストレースは? という質問に、国内で唯一独走した、01年の大阪を挙げていた(会見記事)。

 今季は春先にトラックのスピードを再確認。練習では、1万mの日本記録を出した5年前と同じようなタイム設定で走れていると話していた。しかしマラソン練習に入ると、近年行っていなかった40km走を自ら志願して復活させた。最後の昆明合宿に行く前の40km走(富津)では、平坦なコースだが2時間21分13秒とその練習コースの自己新が出た。
 それでいて、直前の東日本実業団女子駅伝では10kmを31分06秒。スピードもまったく失われていない。駅伝後も「10kmを31分54秒で軽く走ったし、20kmは69分で行けている」と鈴木監督。
「練習やマラソン前のレースで走れていると、渋井はそのまま突っ走れる。今の渋井の調子ならハイペースの方が良い。(昨年の)土佐でも16分30秒で5kmを入っている。行き過ぎても問題だが、16分20秒くらいで入ってもおかしくない。そうなったら我慢比べ。お互い、どこまで自分のレースができるか。(上りに入る前にどちらかがリードする可能性も)あると思う」
 選手に「具体的なペースの指示は出さない」という鈴木監督だが、練習展開などからハイペースで行くのは師弟間の合意事項と思われる。

 注意すべきは、単にハイペースの流れにするということではない。野口と競り合いになることは予想(覚悟)する。過去の失敗を反省し、そうなったときに力まない。気持ちが乗っていると、余分な緊張もせず、持ち味である速いリズムで押すことができる。鈴木監督のいう「自分のレースができるか」という部分に、勝敗は左右されそうだ。

 シスメックス藤田信之監督もハイペースの展開を予想する。大会記録(2時間22分12秒=99年・山口衛里)の5km通過は16分24秒。
「野口のベルリンと変わらない(05年ベルリンで2時間19分12秒を出したときの5km通過が16分24秒だった)。特別速くない」
 藤田監督は内定当確を出すためには、ある程度のタイムで勝つことが必要と考えている。「そうしないと次の練習に入っていけない」という理由からだ。「2時間24〜25分で勝っても意味がない」

★野口のマラソン全成績
回数 年月日 大会 順位 記録
1 2002/3/10 名古屋 1 2.25.35.
2 2003/1/26 大阪 1 2.21.18.
3 2003/8/31 パリ世界選手権 2 2.24.14.
4 2004/8/22 アテネ五輪 1 2.26.20.
5 2005/9/25 ベルリン 1 2.19.12.

 長距離関係者間では、今の野口は本当に良い状態だと言われている。野口の実績と今回の練習状態から、東京のコースでも2時間20分を切る可能性さえ指摘されている。
 ところが、その点に対しては藤田監督は慎重だ。過度に高いタイム設定をしているわけではない。
「過去の選考会では2時間22〜23分はなかなか出ていない。大会記録あたりを出せば当確が出る」
 2時間10分台とは言わなかったし、野口も具体的なタイムを口にしていない

「後半のこともある。(16分24秒は速くないが)ガンガン行きすぎるとダメージが残る。どのくらいがそうなのかはわからないが、本人が流れを見て決めればいい」
 気象条件やレース展開で負担は違ってくる。2時間10分台と決めてしまうと、その流れにならなかった場合、選手が力んでしまうからだろう。
 メディアに「2時間10分台」と活字が出てしまったら、2時間22分台になった場合のイメージダウンも考慮する必要がある。

 三井住友海上とシスメックス。どちらの陣営もハイペースを予測しているが、必要以上に力むのは得策ではないと考えている。
 ただ、結果的に2時間10分台が出る可能性はある。


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