2006/6/22 日本選手権記者発表会
専門種目に絞った末續と、専門外2種目の為末
2人にとっての日本選手権とは


 末續慎吾は出場を自身「専門種目」と言う200 mに絞り、為末大は専門外の200 m・400 mとした。その結果、200 mでメダリスト2人が激突するかもしれない(実現すれば恐らく初対決。インカレの4×400 mRであるかどうか)。
「200 mで末續君に勝てはしませんが、いいレースができればと思っています」
 共同会見で抱負を語った為末だが、これはリップサービス。タイムテーブルを見ると大会2日目に400 mの予選・準決勝と、200 mの決勝が行われる。200 mで決勝に進める確率も、正直に予想すれば低い。為末も東京選手権で20秒97の自己新を出したとはいえ、学生に20秒台中盤が続出している。
 囲み取材の際に「200 mは記念受験みたいなもの。走っているかどうか、わかりません」と本音を話していた。


末續が200 mに絞った理由は? 「サプライズ企画」にも注目

 末續慎吾は200 mに絞ることを、「結構早い段階で決めていました」と言う。詳しい理由は、陸マガ7月号の記事に掲載されている。抜粋すると、以下のようになる。
 ここ何年間か、短距離選手はどうあるべきかを考えてきたが、陸上競技でお客さんを喜ばせることを考えたとき、自分の勝っている姿を見せることが求められると思った。だったら最初に、200 mでどれだけ速くなれるかをやってみよう。
 この日も、囲み取材中に以下のように話している。
「アプローチの仕方を変えただけなんですけどね。100 mからではなく、200 mから上げたり下げたり。しばらく(日本選手権は)200 mにも出ていませんし、アジア大会もありますし」

 付随的な理由もある。
 まずは今季、学生陣に好記録が続出していること。末續が出ていなかった日本選手権で2連勝中の高平慎士(順大)と、東海大の後輩にあたる塚原直貴(東海大)が、関東インカレで20秒35をマークした。大前祐介(富士通)も20秒57とA標準を突破。吉野達郎(ミズノ)もA標準の力はある。200 mに絞った理由を質問されて開口一番、次のように話した。
「面白そうだからです。国内の200 mが、学生とか見ていて、力のある選手がかなり出てきました。本当に面白そうですよ」
 国内の対決に久しぶりにワクワクしていることがわかる。
 日本選手権後すぐに、ヨーロッパ遠征でローマ・ゴールデンリーグなど3試合をこなす。そのスケジュールも考慮して、種目を1つに絞った。

 東日本実業団でのケイレンは、「練習には影響しなかった」と言う。同大会で試した、前脚から踏み出すスタートも今回は封印する。
「あれは100 mでやりたいスタート。200 mではあまり変わりません」
 それよりも、と続ける。
「具体的にはまだ言えませんが、今年はサプライズ企画があります。日本選手権では足元を見てください」
 なにやら、意味ありげな微笑を浮かべていた末續。日本選手権の末續は足元に、何かの違いが現れているはずだ。

為末の注目ポイントは首の角度

 末續の注目ポイントが足元なら、為末大の注目点は“首”ということになる。ナンバ的な走り方なら左脚接地時には左側に首(あるいは体全体)が傾くが、今回の為末は「右側に傾いていると思う」と言う。
 日本選手権の為末は、「日本一を決める大会。順位にこだわりたい」という気持ちもあるが、優勝までは難しい(織田記念では日本人1位だったので、可能性はあるが)。それよりも、自身の試している走りでどこまでやれるのか。そちらへの興味が大きい。

「正確には金丸(祐三・法大)君と合宿をした3月から、ずっと試してきた動きです。どんな言葉で説明するのがいいのか考えてきましたが、赤ちゃんのハイハイを走りながらやると言うのが一番近い。それが上手くできると、1周スピードが落ちない感じがします。ただ、スタート一歩目からやるのは難しい」
 共同会見では、こう話していた為末。赤ちゃんのハイハイが一番近いと言いながらも、言葉にするのは簡単ではないようで、その後の囲み取材ではいくつもの例えを話している。

「梯子を上っているときの手脚の使い方に近い。右脚を出して次に右手で上をつかむ。その右手を引っ張りながら、左脚を動かす」
「右脚が着いたとき、腰の右側が(外側に)折れるのがナンバ的な動きですが、右脚をついたときに右脇腹を伸ばすんです。右脚が着いたときに右手が出てくるイメージではなく、右手で左脚を引っ張り込む感じです。去年、ガトリン(米)が接地側から逃げようとしているのを見て、金丸君を合宿で見て、カチッと(頭の中で速く走れる理由が)合うようになりました」
「右手で物を拾うときも、右側の脇腹を伸ばすようにしています」
「立つということはその場に居続けることですし、二足歩行というのは、安定した動きです。それに対して、走ることは重心を移動させる行為。安定とは違う方向であり、進化していく方向とは、反対の方向なんです。ですから、わざと不安定な状態を作ってやればいい。金丸君が、それをやっているんです」
「腕は水泳のクロールに近い動きです。練習では実際、腕をぐるぐる回しています。最初は小学生が運動会のカーブを走るときのような腕振りをして、直線に入ったらクロールのように腕を回す。ウォーミングアップ、ハイハイ、クロールという順序で練習をするのが、今のところ一番しっくり来ます」
「バリアフリーのスロープなどで、手すりをもって進む動きも近いですね」
「魚は最初、尾ひれを大きく動かして、その後は小さな振動で直線的に動いていきます。加速ではなく、動き出したものが止まらないようなイメージです」

「感触も出始めているので、ハードルに出ない日本選手権で何か1つ、形にしたい」
 為末が言った“形”とは、高校3年以来の45秒台とか、優勝争いといったことだろう。その“形”を形の上で見るには、冒頭で述べたように首の角度に注目すればいい。問題は、微妙な角度がテレビ画面でわかるのかどうかだが、まずはそこに注目してみないことには、わかるものもわからない。


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