2004/6/2 日本選手権前もの
大会1日目Preview

■全体編
 日本記録の可能性があるのが男子110 mHと女子棒高跳。女子1万mも気象条件次第では福士加代子(ワコール)が期待できる。110 mHと女子1万mは優勝者がその場で五輪代表に内定しそう。男子やり投と女子棒高跳も、今大会でA標準突破の優勝→五輪即時内定と行きたいところ。
 故障からの回復が気になるのが、110 mHの内藤真人(ミズノ)と女子やり投の三宅貴子(ミキハウス)。
 今大会の予想をしていて、フィールド種目やハードル種目は比較的選手層が薄く、「ほとんど優勝候補」の選手数が少なかったのだが、男子走高跳は例外的に多かった。それだけ走高跳は大混戦模様。入賞者全員が同記録になったら話題にはなるが、願い下げでもある。

全種目展望

■男子110 mH
A標準13秒55
13秒47 内藤真人(ミズノ)
13秒53 谷川 聡(ミズノ)
B標準13秒72

 谷川が向かい風0.4mの東日本実業団で13秒53を記録。日本記録13秒47更新も可能性を感じさせる走りだった。
 一方の内藤は絶不調。詳しくは関連記事の「国際GP大阪  苦しむ内藤」を参照してほしいが、内藤にとっては1日でも多く練習&調整期間が欲しいところ。大会初日というのは……などと、マイナス思考で考えている場合ではないだろう。
 田野中輔(富士通)が安定して13秒7台を出している。織田記念の予選で13秒75(+0.5)、国際グランプリ大阪でも13秒75(−1.2)、東日本実業団で13秒73(−0.4)。13秒6前後がいつ出てもおかしくない。日本選手権で谷川に勝つようなら、結果的にA標準も出ているかもしれない。
◎優勝者予想
谷川 聡
○ほとんど優勝候補
田野中輔
▽有力候補
合戸 隆
※回復次第
内藤真人


■男子走高跳
A標準2m30
B標準2m27

 今季の安定度では久保田聡(順大4年)が一番。手元の資料で判明しているだけでも2m15以上を5大会で跳び、水戸国際でも2m18で日本人トップの2位。関東インカレは2m19で2位。昨年は関東インカレ優勝、日本選手権・日本インカレと優勝者と3cm差。今年の水戸国際もあのストランド(スウェーデン)に3cm差だったのだ。安定感は今季に限らず抜群と言える。大一番の強さがあるかどうか。
 記録的には関東インカレに2m22で優勝した江戸祥彦(東海大3年)がトップ。4月の対日大戦は2m05、四大学対校で2m10。その次の試合で2m20台を跳んだ情報があるが未確認、そして関東インカレで2m22と右肩上がり。東海大の先輩である比留間修吾(東海大4年)も、関東インカレで2m16の3位と調子を上げてきた。昨年の日本インカレでタイトルを取った経験もある。
 昨年の優勝者の醍醐直幸(東京陸協)は兵庫リレーカーニバルに優勝したが、記録的には2m15。昨年2m25を跳んでいる真鍋周平(阪大)は室内2試合で2m15を跳んでいるが、兵庫2m10、水戸2m05と振るわず屋外では関西インカレの2m16がベスト。02年に2m27を跳び、アジア大会代表だった内田剛弘(福岡大ク)も兵庫2m10・水戸2m10。
 久保田・江戸の学生コンビが優勢だが、2m20とか2m23くらいで優勝が決まるようなら、その日の調子次第。誰にでもチャンスはある。だったら、野村智宏(堀越高教)を優勝者に予想してもいいだろう。2m15以上を2試合で跳んでいるのだし、96年のアトランタ五輪代表にもなった選手。でも、やっぱり学生の誰かな……変更する可能性あり。
 五輪標準記録をクリアして優勝、となるのが理想だが。
◎優勝者予想
野村智宏
○ほとんど優勝候補
醍醐直幸
内田剛弘
真鍋周平
江戸祥彦
久保田 聡
▽有力候補
なし


■男子やり投
A標準81m80
B標準(77m80)
81m71 村上幸史(スズキ)

 4月25日の愛媛リレーカーニバルで81m71とA標準に9cmと迫った村上幸史(スズキ)が、選考会の静岡国際でも79m70と“ほぼ80mアーチ”を見せた。今季83m99を投げている韓国選手を破った点も評価できる。他の選手との記録差から考えて4連勝は固いし、やりも去年より硬い材質のものを投げられるようになった。焦点は、村上がA標準を投げられるかどうか。本人は83m台を目標にしている(その理由は別の機会に)。
 近年の村上は狙った試合できっちり結果を出している。日大4年時に80mの大台に乗せ、入社1年目の02年は左脛骨の痛みと闘いながらアジア大会で銀メダル。その年はどの試合でも、1〜2投目に勝負をつける試技内容だった。シーズン終了後に手術に踏み切り、痛みはなくなったが、昨年は世界選手権の標準記録を破れなかった。シーズン終了後に標準記録が引き下げられ、昨年中に2度突破した形に。故障の影響で走る部分が不十分だったが、この冬は走る練習に時間をかけ、スピードが戻ってきたという。
 2位候補は静岡国際で日本人2位の山本一喜(中大3年)と同大会4位の室永豊文(国士大院)だが、山本が関東インカレを欠場。故障としか考えられないが、回復具合次第。その関東インカレで71m台を3選手が投げた。優勝の種本祐太朗(国士大2年)が71m98で、2位の中嶋亮太(東海大4年)と3位の岡沢寿明(順大4年)が71m11の同記録。日本選手権とは何の関係もないが、やり投で1cm単位まで同じ記録は珍しい。昨年の日本選手権で74m04を投げ、村上を苦しめた藤原康喬は出遅れている。
◎優勝者予想
村上幸史
○ほとんど優勝候補
なし
▽有力候補
山本一喜
室永豊文
種本祐太朗


■女子1万m
A標準(31分45秒00)※A標準突破者のみ掲載
31分05秒68 福士加代子(ワコール)
31分15秒34 羽鳥智子(第一生命)
31分21秒03 野口みずき(グローバリー)
31分24秒00 大越一恵(ダイハツ)
31分32秒10 山中美和子(ダイハツ)
31分32秒27 弘山晴美(資生堂)
31分42秒01 渋井陽子(三井住友海上)
B標準32分17秒00

 日本記録保持者の渋井、マラソン代表の野口は欠場するが、兵庫リレーカーニバルで国内日本人最高の31分05秒68で走った福士に、コンディションさえよければ日本記録(30分48秒89)更新も期待できる。関連記事の「兵庫 福士が国内日本人最高」に書いたように、1周74秒の30分50秒ではなく、1周73秒の30分30秒を狙っていたのだ。ワゴイ(スズキ)など強力外国選手も出る。問題は気象条件だけだ。
 福士の3連勝は動かないだろうが、兵庫で福士に10秒差と食い下がった羽鳥は、ラストにも強いタイプで侮れない。昨年の充実ぶりを考えると大越も要注意。さらには、渋井二世とも言われる橋本歩(三井住友海上)が、兵庫で初1万m日本歴代2位の31分53秒57で今季日本リスト4位。中距離のスピードを生かした走りに期待が大きい。
 東日本実業団では大山美樹(三井住友海上)が32分17秒19の自己新で優勝した。ハイペースの展開となったときスピードに対応できるか未知数だが、ラストにも強い。東日本実では68〜69台でラスト400 mをカバーして、斉藤由貴に競り勝っている。
◎優勝者予想
福士加代子
○ほとんど優勝候補
羽鳥智子
橋本 歩
大越一恵
小鳥田貴子
大山美樹
弘山晴美
田中めぐみ
▽有力候補
市川良子
斉藤由貴
小崎まり
大南博美
※回復次第
山中美和子
阿蘇品照美


■女子100 mH
A標準12秒96
B標準(13秒11)
13秒06 金沢イボンヌ(群馬綜合ガードシステム)

 昨年結婚もして心機一転、金沢が3大会連続五輪代表を狙う。だが、練習開始が2月と遅れたこともあり、今季は13秒39がベスト。故障があったわけではないとのことで、金沢自身も「気持ちよく走れている」と意欲的だ。
 2位候補は池田……と陸マガには書いたが、もしかしたら、という直感で優勝候補は池田にした。大会初日に100 mH、翌日が本命の走幅跳だが、昨年の日本選手権や世界ジュニアのように、100 mHがいいときに走幅跳でも好結果が出ている。
 石野真美(日女体大)が13秒53(リスト3位)と自己記録を大幅に更新。要注意の存在に成長してきた。その石野を関東インカレで破ったのが鷲頭。藤田、茂木の実業団選手は踏ん張りどころ。
◎優勝者予想
池田久美子
○ほとんど優勝候補
金沢イボンヌ
▽有力候補
石野 真美
鷲頭宏絵
藤田あゆみ
※回復次第
茂木智子
森本明子


■女子棒高跳
A標準4m40
B標準(4m25)
4m35 近藤高代(長谷川体育施設)
4m31 中野真実(三観陸協)

 中野真実(三観陸協)が4月末に4m30、水戸国際で4m31と日本新を連発。五輪B標準も2度100 mH元国体チャンピオンの再生に、中野時代の到来を感じた関係者も多かった。しかし、関西実業団で近藤高代(長谷川体育施設)が4m20で中野を破って優勝。5月29日の中京大土曜記録会では4m35の日本新に成功した。
 現時点では走力など体力的な部分では中野が勝るが、“抜き”の高さなど技術的には近藤が上という関係者の評価。中野は160ポンドで握りが3m95、長さは14フィートのポールで記録を更新したが、それでも「軟らかすぎる」と言い、同じ長さでさらに硬いポールを海外に発注。そのポールが日本選手権には間に合ったという情報だ。一方の近藤も、未確認だが4m35のときは以前よりも硬いポールを使用した(=使いこなした)という情報もある。ポールの選択と、それを使いこなせるかどうかが、勝敗を分けるかもしれない。
 小野真澄(札幌陸協)と南野弥生(筑波大)の札幌手稲高OGコンビにも、優勝の可能性はある。小野は水戸国際で4m10、南野も屋外ではまだ3m90だが、2月の日中対抗室内で4m10に成功している。
 4m40のA標準のバーを先にクリアした選手が優勝と、この種目の五輪代表第一号の称号の、両方を得ることになりそうだ。
◎優勝者予想
中野真実
○ほとんど優勝候補
近藤高代
▽有力候補
小野真澄
南野弥生
江口 茜


■女子円盤投
A標準61m00
B標準57m70

 室伏由佳(ミズノ)が52m台を2度出したのにとどまっているが、中部実業団の52m28は雨の悪条件だったことを考慮していい。円盤投が大会1日目で、五輪B標準を突破しているハンマー投が3日目。問題なく出場できると言う。力的には、この種目でも自身の日本記録56m84は更新してもおかしくない状態とのこと。
 もう1人の優勝候補が山口智子(呉市体育振興協会)。静岡国際2位、中部実業団と同日の日本選抜石川で優勝したが、記録は48m台と49m台にとどまっている。この2人は得手不得手とする風のタイプが違うと、ある投てき関係者は言っているが…。
◎優勝者予想
室伏由佳
○ほとんど優勝候補
山口智子
▽有力候補
なし


■女子やり投
A標準60m50
B標準56m00

 60mスローワーの三宅貴子(ミキハウス)が東日本実業団に出場したが45m41と、故障の影響から脱し切れていない。記録的には小島裕子(東京茗友ク)と山本晴美(長野市体協)、吉田恵美可(京産大)の3人が53m台でリードしている。ただ、オリンピックを狙えるのは三宅しかないので、期待も込めて優勝者予想を三宅とした。
「肩の痛みは消えていますが、身体のバランスが悪くなっている。投げに関しては蓄積があるので、バランスを整える方が重要です」という状況。三宅の調子が戻らなければ、5年ぶりに新チャンピオン誕生となるが、吉田が自身のジュニア日本記録53m72を更新すると、その可能性が出てくる。
◎優勝者予想
三宅貴子
○ほとんど優勝候補
小島 裕子
山本 晴美
吉田恵美可
▽有力候補
中野 美沙
山崎綾子



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