2002/12/14 山梨学大公開練習
箱根本番のカギを握る橋ノ口
「全日本のあとは練習でもゆとりが出てきました」

 橋ノ口滝一(山梨学大3年)が駅伝で失敗続きであることは、駅伝ファンの多くが知るところとなっている。トラックでは今季の関東インカレ1万m優勝、ベスト記録も28分38秒32で正真正銘、学生トップランナーの1人である。ところが、駅伝となると額面通りの力が発揮できない。前回の箱根は7区で区間13位、今季の出雲は1区7位、全日本は4区5位。区間順位は箱根ほど悪くはないのだが、出雲ではチームが流れに乗り損なう一因となったし、全日本では駒大に1分近く差を詰められ、逆転される流れを作ってしまった。
 駅伝となると走れないことの原因は、巷には独走だと走れないタイプという分析もあるようだが、山梨学大関係者は精神的な力みにあると見ている。
「独走でも走れないわけじゃないんです。モチベーションが高い分、考え過ぎてしまうんでしょうね。“スピードのある自分が前に行かなければ”とか、自分でこうでなければいけないと決めつけてしまう傾向があります」
 と、上田誠仁監督。意気込みが強過ぎるから、大会の前にピークが来てしまうことも多いという。
「でも、今は、それほど心配していません。心理状態としてはいいと思いますね。大会前になってどうか、という部分は少しありますが、ある程度は乗り越えてくれたかな、と感じています」
 上田監督は全日本大学駅伝後、橋ノ口とかなり突っ込んで話し合った。精神的に力んでしまう原因を書きだしたメモを渡したり、携帯電話にメールをしたりもした。
「基本はNow & Here. 今ここで、と思わずに、ここからがスタートなんだ、と考えることです」

 同学年で、チーム日本人2番目の記録を持つ高見澤勝は、次のように話している。
「橋ノ口以外の選手が、彼への負担を減らせていないのが原因です。チーム全体の問題だと思います。橋ノ口も、自分が何とかしなきゃいけないという思い込みが強く、1人で背負い込んでしまっている。もうちょっと、自分たちに任せてもらっていいし、(自分たちも)彼の負担を減らす走りをしないといけません」

 橋ノ口自身、周囲のそういった声に、柔軟な考え方をするようになってきた。
「全日本のあと、何で力があるのに結果が出ないのかを話し合いました。自分が見えていないので、今の自分と向き合うことが大事だと言われました。自分が走れなくても他の選手が走ってくれる、と思うことも。試合前になると色々と考えてしまって不安になりますが、レースは1時間ちょっと。それまでの練習は、その何十倍、何百倍もつらいことをやっているわけです。それを考えたら、1時間くらい楽なんじゃないかと。
 以前は切羽詰まって、神経を張りつめていましたが、全日本のあとは練習でもゆとりが出てきました。名古屋ハーフが終わって、ピリピリした部分も出てきましたが、余裕を持って走っています。
(本番では)チームに一番貢献できるのは区間賞を取ること。1秒差でも2秒差でもいいから、取れるようになりたいですね。全区間にとは言いませんが、せめて、次の区間の選手だけでものびのびと走ってもらえる位置で、タスキを渡したい。出雲も全日本大も自分が不利となる流れにしてしまい、(次走者が)力があるのに発揮させることができませんでした」

 橋ノ口の話を聞いている限り、箱根で独走となる区間への出場も、不安は抱いていない。「1年生の時に1区(区間6位)を走り、次からは1区は走らない、と決意しました。2年生からは絶対に2区を、と考えていましたから。でも、チームの勝利が最優先。1区だろうが2区だろうが、言われたら何区でも走ります」


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