フルマラソンチャレンジBOOK 2
トップランナーの肖像@
野口みずき
東京圧勝で連続金メダルに大きく前進
野口が“立ち止まらない”理由とは?
アテネ五輪金メダリストの野口みずきが、さらなる進化を見せている。昨年11月の東京国際女子マラソンで、終盤の上り坂を攻略し、2時間21分37秒の大会新で優勝。“2年ぶり”のマラソン出場という部分が懸念されたが、故障を克服する過程で、さらに効率の良い走りを身につけていた。何より、精神面の充実が素晴らしい。連続金メダルという目標も、前向きな姿勢で着実に前進する野口の前では、“絶対的なもの”ではない気がしてきた。
●2007東京「アテネ五輪より嬉しい」
予想できたことと、予想できなかったこと。昨年11月の東京国際女子マラソンで、関係者の多くがその2つを感じていた。
予想できたのは、野口みずきが2時間21分37秒で優勝したこと。渋井陽子(三井住友海上)との新旧日本記録保持者対決が注目されたが、勝った方が大会記録を破り、北京五輪代表を確定させると思われていた。
予想外だったのは、レース後の野口のコメントだ。
「もう本当に、このレースに勝ててうれしいです。目標だった大会記録も更新でき、二重の喜びです。ひょっとしたら(金メダルの)オリンピックや、(日本記録の)ベルリン・マラソンより、倍うれしいかもしれません」
確かに、日本の女子マラソンはレベルが高い。前回のメダリストでさえ、一歩間違えれば五輪代表切符を取ることもできないほどだ。
「レース前にあの人が調子良い、この人も良いと聞いていましたし、オリンピック切符もかかっていて、大丈夫かな、と不安になったところもありました。その分、幸せな気持ちです」
しかし、である。いかにレベルが高くても、東京は国内の選考会に過ぎない。オリンピックとは格が違う。
そもそも野口がマラソンを志したのは、シドニー五輪の高橋尚子を見たのがきっかけだった。フィニッシュ前にトラックを周回する間、スタジアム中の応援を独り占めにしていた。「どんなに気持ちいいのだろう」と想像した。
アテネ五輪の野口は25kmでスパートし、逃げ切りを図ったが、終盤、ヌデレバ(ケニア)が迫ってきた。にもかかわらず、スタジアムに入ると「この雰囲気をずっと味わっていたい。ゴールしたくない」と感じたほどだ。
「あの夏は、一生忘れられない大事な思い出です」
そこまでの思いをオリンピックに持ちながら、東京の勝利の方が“倍うれしい”と言い切った。仮に、本心でそう思ったとしても、「比べられない」と答えるのが普通の選手だろう。それを、きっぱりと言えるところに、野口の野口たる所以がある。
そこを理解できれば、五輪金メダルを獲得した選手が、そこでとどまらずに走り続ける理由がわかるだろう。北京五輪で“連続金メダルを目指す野口”ではなく、彼女の本質をより深く知ることができるはずだ。
以下
●“スタミナ切れ”の経験なし
●緊迫感に満ちた筋トレ風景
●野口を取り巻く人々
●メダルのためでなく、過程が楽しいから
と続きます
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