2002/2/6
世界選手権標準記録企画 その2  その1 その3突破者リスト
ほとんど全種目で記録がアップ!
日本勢への影響はいかに?

男子50kmWと女子100 mはB標準が前回のA標準以上

2001エドモントン大会と2003パリ大会の標準記録AB一覧と
2001年リストの該当選手数

2001 エドモントン 2003 パリ 2003 パリ 2001 エドモントン
A標準 B標準 A標準 B標準 種目 A標準 B標準 A標準 B標準
10.26 10.38 10.21 10.28 100 m 11.27 11.34 11.36 11.47
3 15 1 2 1 1
20.72 20.84 20.59 20.75 200 m 22.97 23.13 23.06 23.35
5 4 3 2
45.72 46.10 45.43 45.74 400 m 51.37 52.10 52.00 52.70
2 3 1 1
1.46.00 1.47.00 1.46.00 1.47.00 800 m 2.00.00 2.01.30 2.00.00 2.02.00
 
3.36.20 3.38.40 3.34.90 3.37.10 1500m 4.05.80 4.07.15 4.07.00 4.09.20
 
13.25.00 13.32.00 13.21.50 13.25.40 5000m 15.08.70 15.20.45 15.22.00 15.49.00
1 1 2 2 42
28.00.00 28.23.00 27.49.00 28.06.00 1万m 31.45.00 32.17.00 32.00.00 33.00.00
2 9 1 2 3 21 14 31
なし なし 2.12.00. 2.14.50. マラソン 2.32.00. 2.36.00. なし なし
20 28 27 14
13.70 13.85 13.54 13.62 110 mH/100 mH 12.96 13.11 13.05 13.32
3 5 1 1 1
49.70 50.00 49.20 49.50 400 mH 55.60 56.25 55.67 56.80
5 1 2
8.25.00 8.29.00 8.24.60 8.30.30 3000mSC ―― ―― ―― ――
1 2
1.23.00. 1.25.30. 1.21.20. 1.24.00. 20kmW 1.31.40. 1.34.30. 1.36.00. 1.40.00.
2 3 1 2 2 3 3
4.00.00. 4.04.00. 3.53.00. 3.58.00. 50kmW ―― ―― ―― ――
2 2 1
なし なし なし なし 4×100 mR なし なし なし なし
なし なし なし なし 4×400 mR なし なし なし なし
2.30 2.26 2.30 2.27 走高跳 1.95 1.92 1.95 1.92
1 1
5.75 5.60 5.70 5.60 棒高跳 4.40 4.30 4.40 4.20
1 1
8.20 8.00 8.20 8.10 走幅跳 6.80 6.65 6.75 6.65
2 1 1 1 2
16.95 16.70 17.10 16.80 三段跳 14.20 14.00 14.15 14.00
 
19.95 19.40 20.30 20.00 砲丸投 18.55 17.20 18.35 17.50
 
65.00 62.40 64.60 63.50 円盤投 63.40 59.75 62.80 60.25
 
77.65 76.30 79.50 76.40 ハンマー投 67.50 64.00 65.00 62.00
1 1 1 1
82.50 80.50 83.50 80.80 やり投 62.15 59.30 60.30 59.00
1 1 1
8070 7990 8090 7860 十種/七種競技 6105 6019 6120 5820
1
黒太字は変化のなかった記録。青太字は下がった記録。その他は全て記録が上がった
有効期間=2002/1/1-2003/8/13
<トラック編>
 エドモントン世界選手権のときにもシドニー五輪と比較して、フィールド種目を中心に大幅なレベルアップがあった参加標準記録(A標準突破者は1国3人まで、B標準突破者は1国1人まで参加できる)。2003年のパリ大会はトラック種目を中心に、さらに引き上げられた。本WEBサイトでは2月1日に、エドモントンとパリの標準記録AとBを、比較しやすいように一覧にして紹介した。有効期間は今年の1月1日からなので突破者とはならないが、下の表では2001年の日本リストでそれぞれ該当する選手が何人いるのかを示した(薄黄色のおび部分)。なお、B標準該当者の数に、A標準該当者は含まれていない。つまり、B標準は越えているがA標準には届いていない選手の数だ。

 今回のB標準が前回のA標準を上回るという、大幅な引き上げが実施されたのが、男子50kmW女子100 mの2種目。50kmWは今村文男(富士通)だけがB標準該当者となるが、原義美、小池昭彦(日立)を含めた現役3選手がA標準を上回る記録を持っている。傍で言うほど簡単なことではないだろうが、なんとかしてくれるだろう。
 逆に「それはないでしょ」と言いたくなるのが女子100 mだ。エドモントンの標準記録でなら昨年11秒36の日本新をマークした二瓶秀子(福島大)がA標準に、11秒42の歴代2位(自身3度目の11秒42)をマークした坂上香織(ミキハウス)がB標準に該当した。それが、一気にチャラになってしまったのだ。

 標準記録大幅アップは、女子100 mに限らず、男女の短距離全体にいえる傾向だ。表をよく見ていただければわかるが、パリの100 m・200 m・400 mのB標準は、男女ともエドモントンのA標準とほとんど同じレベルなのだ。
 男子3種目(100 m・200 m・400 m)もA標準は厳しいレベルになったが、現役選手のベスト記録を見ると50kmW同様どの種目も複数選手が上回っている。現在の男子短距離勢の勢いをもってすれば、破れないレベルではない。というか、A標準がどうこうと気にせずに、突破してほしい。
 問題は女子の方だ。先に紹介した100 mだけでなく、柿沼和恵(ミズノ)が53秒突破に成功した400 m、吉田真希子(福島大TC)が57秒突破を果たした400 mHと、B標準が間近に迫っていた種目も多い。「あとちょっとで世界が」という気持ちになっていたところに、標準記録のアップ。女子短距離種目を世界の舞台へ送り込もうと、選手・強化関係者は力が入っているだけに、出鼻をくじかれたかっこうだ。
 だが、昨年の世界選手権の4×100 mRの派遣記録を破れなかった際、強化関係者は「記録ばかりを追うよりも、別の意識の持ち方でアプローチしたい」と話していた。表面的な記録を意識するのでなく、“どうやったら力が伸びるか”という本質的な部分を追求するという姿勢だろう。先ほど男子短距離に勢いがあると言ったが、それは女子も同様だ。11秒3台がバンバン出れば、当然4×100 mRを派遣しよう、という雰囲気になってくるのではないか。

 男女の1万mもこれまでのように安閑としていられなくなった。男子1万mはこれまでのように高岡寿成(カネボウ)と花田勝彦(エスビー食品)には頼れない。三代直樹(富士通)や永田宏一郎(旭化成)らが踏ん張れば届くレベルなので、なんとかなるとは思うが…。徳本一善(法大)は来季、1500mで日本新を狙う計画もあると話していたが、1500mの標準記録が引き上げられたことを受けて、どうするか。
 女子1万mはA標準がこのタイムなら問題ないはずだが、気になる点もある。シドニー五輪までトラックを支えてきた弘山晴美(資生堂)、川上優子(沖電気宮崎)、高橋千恵美(日本ケミコン)、市川良子(東京陸協)らが、マラソンとの兼ね合いでどうなるかわからないからだ。エドモントンで最も成績の良かった岡本治子(ノーリツ)もしかり。福士加代子(ワコール)や山中美和子(ダイハツ)、小鳥田貴子(デオデオ)ら、イキのいい若手も出てきている。あとは、ラストに強い選手が現れてほしいところだが…。
 男子3000mSCのB標準が引き下げられ、岩水嘉孝(順大)に加え内冨恭則(中国電力)も該当者となった。選手はA標準突破を狙っているはずなので、関係ないと言えば関係ないが…。

 男子110 mHはこれまで標準記録のレベルが低かったとは思うが、いきなり0.16秒も上がると「厳しいな」と感じてしまう。内藤真人(法大)に続く選手が現れるかどうか。谷川聡(ミズノ)の巻き返しはいかに。
 意外だったのが男子400 mHのB標準該当者が「0」になってしまうこと。A標準は2人いるのにB標準が0人とは、この種目を“伝統種目”としている日本としては寂しい。山崎一彦、苅部俊二、斎藤嘉彦が相次いで一線を去ったこと、河村英昭(スズキ)が故障がちだったことが原因だ。それにしても、最低でもA標準突破4人というくらいの状態にならないと、故障者が出たときに対応できない。3人未満なら国内の選考がスムーズとなって、本番に集中できるメリットもあるかもしれないが…。

フィールド種目は小幅の変化
女子砲丸投のB標準引き下げで、森にも可能性が

<フィールド編>
 フィールド種目はトラックほど標準記録の変更幅が大きくなかったせいか、あるいは世界に通用する選手が限られているせいか、人数部分への影響は少ない。
 男子棒高跳走幅跳は、B標準突破の争いでなく、A標準突破を目指さなければいけないのは、エドモントンと同じ。幸い、棒高跳のA標準は5cm引き下げられ、走幅跳は据え置かれた。
 ハンマー投の室伏広治(ミズノ)は標準記録云々というレベルを超越している。が、2人目が参加できるかとなると、残念だがこれも問題外という話になってしまう。やり投は村上幸史(日大)が昨秋、エドモントンのB標準を越えたがパリのB標準には該当しない。今後の成長があれば、植徹(富士通)ともども、A標準突破の可能性はある。

 女子走高跳はABとも据え置かれ、今井美希(ミズノ)、太田陽子(ミキハウス)とも1m95を跳ばないといけない状況は、エドモントンと変わらない。走幅跳はエドモントンに花岡麻帆(オフィス24)と池田久美子(福島大)の2人が出場したが、パリの標準記録だと決勝進出者の池田がB標準になってしまう。(5cmアップした)A標準を目指す状況は昨年とそれほど変わらないといえば、変わらないかもしれないが。
 それにしても、A標準がこれだけハイレベルになったら、他種目のB標準突破でも出場できるようにならないだろうか。具体的には、走幅跳でB標準を突破したが、A標準突破者がいて出場できなかった場合、三段跳のB標準突破で世界選手権に参加していたら、走幅跳にも出場可能となる、というケースだ。参加人数を絞る目的の措置だから、無理のような気もするが…。

 トラック種目と違い、フィールド&混成競技は6種目で標準記録が下がった(A・B両方下がったケースはないが)。注目したいのは女子砲丸投だ。B標準が17m50から17m20へと30cmも引き下げられた。これで昨年、16m84の日本新をマークした森千夏(国士大)にがぜん、世界への道が開けてきた。あと2シーズンで36cm。さんじゅう、ろく……届かない数字ではないように思う。
 女子円盤投も50cm、B標準が下がった。砲丸投の30cmに比べたら小さい下げ幅だが、60m台から50m台になったことで、選手には意識しやすくなったのではないか。日本記録から3m……である。

 ハンマー投やり投は綾真澄(中京大)と三宅貴子(ミキハウス)が頑張っているが、エドモントンのようにB標準に届いたら即、代表というのではなく、複数の選手に突破してもらいたい。
 七種競技は女子短距離と同様の状況。中田有紀(東海デカスロン)が昨秋、エドモントンのB標準を上回ったが、パリは200点引き上げられてしまった。このアップは確かに厳しいが、200点を7種目で割れば1種目30点……という書き方をすると、混成競技の選手は怒るだろうか。これで怒っていたら、世界は遠のくばかり……と安っぽいライターなら書きそうだが、そういった安現場の状況を理解していない安易な意見はある意味非情でもあり、選手を発奮させることもあるかもしれない。

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