2001/5/12 国際グランプリ大阪
西村は日本の女子中距離シーンを塗り替えるか!?
女子800 mで2分02秒23の大幅日本新!!
狙っていたのは“ジュニア日本記録”
西村美樹(東学大)が狙っていたのは、ジュニア日本記録の更新だった。
ジュニア日本記録は、1995年の福岡ユニバーシアードで、当時筑波大2年生(=早生まれ)だった岡本久美子がマークした2分03秒45である。同時にこれは、日本記録でもある。
だったら、西村が狙っていたのは日本記録ともいえるのではないか…。
「みんな、高校記録を出すとそれがジュニア記録、ということが多いですよね。それが私の場合、去年インターハイで高校記録(2分04秒00・当時日本歴代2位)を出してもジュニア記録じゃなかったんです。ジュニアは今年で終わりなので、なんとか今年中にジュニア記録を残しておきたかったんです」
高校から大学に進学して、記録が落ち込む高校トップレベルの選手はかなり多い。そのほとんどが、高校時代の大きな目標に対して全力で突っ走って来た結果、精神的にどうしても一段落着きたくなってしまうのだという。「グラウンドには出るんですけど、気合いがどうしても前年までとは違ってしまうんです」とは、大学2年で日本記録を更新したが、大学1年時には停滞したある選手のコメントだ。
その点、西村は「前年以上の冬期練習が積めた」と言う。「自分でも(練習内容が)落ちるかもしれないと思っていましたが、高校(東京高)のみんなで頑張るんだという雰囲気がよくて、先生も指導してくださり、みんながいて頑張ってこられました」
現在も、月・金・土・日は東京高で練習している。これは東学大側とも話し合って、この形で練習を進めている。
「通学時間が45分から1時間半になったり、勉強(生涯スポーツ科)との両立も大変なので、環境が変わって疲れが出ていて、記録は考えていませんでした。今日は外国選手と走れるので、それに先頭で頑張ればテレビにも映るかなと思って楽しく走ろうと思っていました」
西村の外国選手と走ることに対する考え方は、積極的である。学生の新人選手の多くは、そのシーズンの目標を聞かれると「まずはインカレで…」というコメントをすることが多い。それが、学生競技生活に慣れるための第一歩であるとは、言えるかもしれない。だが、西村は「大阪グランプリで外国勢と対等に戦いたい」と、シーズンイン前から言っていたのだ。
西村は99年の世界ユース予選落ち、昨年の世界ジュニア準決勝落ちと、必ずしも世界大会で“通用した”わけではない。だが、外国選手に臆する部分はまったくない。2月末の日中対抗室内でも攻撃的な走りを見せたし、この日のまさに、日本人らしからぬ積極的な走りを見せた。ここ20年の日本の女子中距離選手で、国際グランプリで、そして1分台の記録を持つ外国選手を相手に、ここまで積極的なレースを展開し、最後まで対等に渡り合った選手がいただろうか。
同じレースで松島朋子(東海銀行)も2分04秒63、藤原夕規子(グローバリー)も2分05秒38と自己記録を大幅に更新。兵庫リレーカーニバル前に40℃の高熱で伏せった佐々木麗奈(中京大)は自己記録に届かなかったが、それでも2分5秒台だ。今後の彼女たちの頑張り次第では、この日の大阪のレースが、日本の女子800 mの流れを変えたエポックメイキング的なレースとして位置づけられるようになるかもしれない。
この日の記録で世界選手権のB標準、2分02秒00にもあと僅かと迫った。しかし――。「世界選手権は自分にとっては大きいと思います。(目標にするのは)ユニバーシアードくらいがいいと思ってます。よくわからないんですけど」と、まだまだ自分の足下を固めるのが先決といった姿勢だ。
最後に、西村が記事に書いてほしいと希望したコメントを紹介したい。
「高校で練習するときは、800 mブロックの男子選手と一緒に練習させてもらっているんです。自分の練習につきあってもらって、すごく感謝しています」
浮かれず、自分の置かれている状況に対し、謙虚に感謝できる姿勢が好感を持てるだけでなく、しっかりと根が張られている強さだと思えた。