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第3回 ジュニア指導者
     クリニック・レポート
「子供達の運動能力を伸ばす指導法とは?」

 日本SAQ協会の主催によるジュニア指導者クリニック「子供達の運動能力を伸ばす指導法とは?」が、9月9日、日産スタジアム内にある横浜市スポーツ医科学センター小アリーナで開催された。講師陣と演題、クリニックのテーマは以下の通りだった。
10:30〜12:00 ジュニア期におけるスポーツ傷害とその予防法 佐藤 政宏 クレーマージャパン・ヘッドアスレティックトレーナー
13:00〜13:30 ジュニア期の発育・発達を理解する 外園  隆 クレーマージャパン代表取締役 日本SAQ協会理事長
13:40〜15:10 アメリカでのジュニア期におけるトレーニング スコット・フェルプス スピードクエスト社代表取締役
15:20〜16:05 ジュニア期のトレーニング スプリント編 原田 康弘 クレーマージャパン・トレーニングコーチ
16:15〜17:00 ジュニア期のトレーニング アジリティ編 吉田 謙介 クレーマージャパン・トレーニングコーチ
 クリニックの内容を細かくレポートすることはできないが、フェルプス氏と吉田トレーナーにクリニック終了後に取材を行なった。フェルプス氏は1980年台前半、アメリカの白人選手では最強スプリンターだった。その後はプロ選手の指導を中心に行っていたが、どういった経緯でジュニア指導に情熱を注ぐようになったのか、そこを知りたいと思った。
 吉田トレーナーには“アジリティ(敏捷性)”について質問。SAQトレーニングの1つとして、その重要性が指摘され始めてかなりの年月が経つが、指導現場での受け容れられ方がどうなのか、かねてから興味があったのである。


@日米コーチが語るジュニア指導の“つぼ”

●予防と発育パターンを知ることの重要性
 日本全国から集まった受講者は約160人。参加者の職業は予想通り、教員・学生・フィットネス関係者が多かった。次いで公務員(自衛隊含む)・体育協会関係者なども多く、公的機関にもジュニア指導の人材が求められていることがうかがえる。世相を反映してか、“体育の家庭教師”の参加もあった。
 受講者の地区別の割合は関東地区が55%を占めたが、九州地区も7%に上るなど、遠くから足を運んだ参加者も多数いた。それだけ、全国の指導者たちが関心を持っているテーマであり、注目されている演者が揃っていたということだろう。
 講義、クリニックに緊張感はあるものの、ある種のファミリー的な一体感も漂っていた。講師陣の情熱あふれる指導と、受講者たちの積極的に吸収しようという姿勢。両者の気持ちが一体となって、会場の目的意識が高まっていたように感じた。
講演をする佐藤トレーナー(左)と外園理事長
 午前中は佐藤トレーナーの講演。クレーマージャパンのヘッドアスレティックトレーナーの肩書きを持つ人物で、その経験は半端ではない。「トレーナーの数が増加しているのに、傷害が多くなっている」と、問題点を指摘することから話し始めた。女子バスケットボールのジュニア日本代表選手などの具体例と、体系だてられたトレーナー理論がマッチして、受講者の興味をぐいぐい引きつける。最後は、「傷害予防には現場指導者の役割が重大である」ことを強調して、1時間半の講演を締めくくった。
 昼食休憩を挟んで次に登壇したのは日本SAQ協会の外園理事長。自身も米国でトレーナー理論を学び、大学の教壇に立つほどの理論家・研究家でもある。「子供の発育パターンを知る」というタイトルの図表を見せながら、ジュニア指導の“ツボ”を伝授した。
「小学校低学年では“ねばり強さ”はない。集中が続かないのは新しいものに興味が移りやすい時期だからで、決して飽きているわけではない」
「小学校高学年は興味の対象も専門的なってくるので、プロ野球やJリーグなどレベルの高いものを見せるのに適している時期」
「中学生段階では(指導者側にも)知識がないとコーチはできない。結果だけを求めて、選手にトレーニングをやらせてはいけない」
 等々。日頃、気にしている部分をズバッと、理論づけて言われると、なるほどと納得させられる。
「指導者は、子供たち以上に勉強しないといけない」との言葉に、集まった受講者たちは自身が身を置いているポジションの重要性を再認識したことだろう。

●フェルプス氏がジュニア指導に移行した経緯は?
 外園理事長の次がフェルプス氏の「アメリカでのジュニア期のトレーニング」と題したクリニックだった。クレーマー・スポーツ整形塾の子供たちや、飛び入り参加の受講者たちを相手に、各種トレーニング・メニューを紹介していく。
 まずはステップのバリエーションに富んだ各種スキップだ。自身で実演した後、受講者にトライさえ、リズムと動きのパターンを体に覚えさせる。足だけの移動ではなく、しっかりとした重心の移動となるように、“言葉でのアドバイス”も的確に行っていく。
リズミカルなスキップを実演したフェルプス氏。ジョークもリズミカルだったが、これは参加者しか楽しめない
 フェルプス氏は冒頭でも紹介したように、かつてはスプリンターとして鳴らしたアスリート。1984年のロス五輪全米選考会100 mでは準決勝まで進出。ベスト記録は10秒19で、白人選手としては当時、全米でナンバーワンの存在だった。だが、故障も多かったし、黒人選手たちの壁は厚かった。
 85年からは高校の陸上競技部コーチとなり、州で総合優勝も達成した。NBA(プロバスケットボール)2チームのスピード養成担当コーチも担当。NFL(アメフト)と、MLB(大リーグ)チームのアドバイザーも務めた。
「現役時代は筋力トレーニングやプライオメトリック的なトレーニングが中心で、しっかりしたコーチもいない環境でした。ケガも多く、五輪選考会の準決勝でもやってしまった。(全米レベルで戦えたのは)単に、才能と運に恵まれていただけです。トレーニング全体は上手くデザイン(構成)されていなかったと思います。大学でバイオメカニクスやキネスオロジーなどを勉強して、やっと1つ1つのトレーニングがどう噛み合っていくべきかがわかるようになりました」
 10年ほど前にオレゴン州ユージンに移住。スピードクエスト社を設立し、ジュニア指導にも力を入れ始めた。
「アメリカもジュニア指導の質は、それほど高かったわけではありません。十分な情報が提供されていない状態で、基礎的な知識も乏しい状態で指導をしていた。私たちが提案できるものが、たくさんありました。クレーマージャパンの事業とも共通するものですが、知識、情報を共有できるようにして、指導者の質を上げていくこと。それができれば、ジュニアアスリートは自然と発掘されていきます」
 指導者の重要な能力の1つに、選手の適性を見抜くことがある。フェルプス氏は、ある高校2年生の女子選手を、中距離から短距離へ転向する過程を指導したことがある。僅かの期間で州の100 m・200 m・走幅跳のチャンピオンになり、三段跳でも2位となった。
「どんなコーチといえども、子供の適性を見誤ったら結果を出せません。医者に例えるなら、診断の部分です。そこで正しい判断ができないコーチも多いのです」
 選手の適性を的確に把握し、より可能性のある方向に導く。それもジュニア指導のやり甲斐の1つだという。
外園理事長の講演風景
Aトレーニング・メニューを“楽しく”実演に続く


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