敗北の中の収穫
その1★女子後半3区間の苦闘、その意味するところは……★

 2002国際千葉駅伝(特別協賛:ライフ)は男女ともエチオピアの優勝で幕を閉じた。日本女子には11連覇がかかっていたが、5区で逆転を許し、そのまま逃げ切られてしまった。エチオピアとはフィニッシュで35秒差だったが、日本も力を出し切ってのこの秒差。善戦はしたが完敗でもあった。
 男子はエチオピアが5区間中4区間で区間賞を占め、大会新記録で圧勝した。日本はケニアとの2位争いに敗れて3位。昨年より順位を1つ落としてしまった。
 女子は11連覇の夢ついえ、男子は6年ぶりに3位以下という順位。男女とも敗れた日本に、どんな収穫があったのだろうか。


 アンカーの真鍋裕子(四国電力)は「11連覇はアンカーである私にかかっていました」という言葉を、何回も口にした。もちろん、誰もその言葉を鵜呑みにはしない。駅伝の結果は、全員の総合力の結果である。最後、胸一つの差で負けたとしても、それはアンカーだけが負けたのではなく、タスキをつないだ全員が負けたことになるのだ。エチオピアはアンカーに強い選手を配置した。ならば、アンカーまでに差をつけておくことが、チームとしてエチオピアを上回ることになる。今回はチームとして、日本よりエチオピアの方が強かった。
 だが、選手は“全員の総合力”という意識とは別に、“自分の役割”を強く自覚する。アンカーは、1秒でもいいからライバルに先着することが役目だ。前半の選手はいい流れ(上位の流れ)に乗せることが役割で、後半の選手は流れが良ければそれを断ち切らないようにする。流れが悪かったらいい方向に持っていくのが役目となる。
 ただし、チームの戦略・選手配置によって役割は変わってくる。今回の日本チームは、1区に今季好調の大越一恵(ダイハツ)、2区に5000m日本記録保持者・福士加代子(ワコール)、3区にアジア大会代表の小鳥田貴子(デオデオ)と、「先制攻撃」(佐々木精一郎監督)の布陣を敷いた。そういう意味で注目されたのは、やや力が劣ると思われた4区以降の選手たちの走りだった。

 4区の高橋教子(資生堂)は、初めて日の丸を胸に付けた。レース2日前には、次のように胸の内を話してくれた。
「あんまり緊張しない方なんですが、今回はドキドキしています。自分だけのことじゃなくて、責任を感じています。それに、ただでさえ駅伝の経験は少ないのに加え、入社して1区以外の区間は初めてなんです。1区ならトラックと同じ感覚で走れますが、今回はどういう展開になるのかわかりません。11連覇を狙って力を出そうとするより、自分の力を出し切ることが11連勝への近道だと思っています」
 日本は2区の福士でトップに立つと、3区の小鳥田がリードを広げ、37秒差で高橋にタスキが渡った。タスキを受けるとき「感動して泣きそうになった」と言うくらい、高橋にとって日の丸を付けて走ることは、重みがあった。
 だからといって、プレッシャーで高橋の走りが重くなることはなかった。横からの映像を見る限り、終盤になってもスタミナ切れで失速した走りにはならなかった。16分01秒で区間2位。5000mのベスト記録で40秒上回るるデババ(エチオピア)には詰められたが、5000mで15〜20秒上回るオルテアヌ(ルーマニア)とザドロツナヤ(ロシア)には勝っているのである。「よくて16分を少し切るくらいと思っていた。風とカーブのあるコースを考えたらこんなもの。エチオピアが強かった」と、川越学コーチも高橋が力を出し切ったことを認めた。

 高橋から5区の奥永美香(九電工)にタスキが渡ったとき、2位のエチオピアとは3秒差。10mちょっとの距離だった。最初の入りに気を付けていたと言うが、ややオーバーペース気味。だが、エチオピアとの秒差を考えたら、速いペースで突っ込んで相手の出方を見るのは、ある意味、当然ともいえる走り方だろう。
 しかし、相手は世界ジュニア5000m優勝者のデファー。5000mのベスト記録でも約30秒、奥永を上回っていた。中継後すぐに追いつかれてしまい、奥永も追いすがったがそれも1kmあまり。力の差はどうしようもなかった。
 しかし、振り切られた後も奥永は粘った。高校時代は最初から思いっきり突っ込むレースを繰り返していた(マリンコース注目のランナーC奥永美香(九電工) 取り戻した“がむしゃらさ”と、試合に合わせ切る能力参照)。オーバーペースでも後半、そう簡単には潰れない下地がある。エチオピアとは8秒差、相手が大きく見える範囲でアンカーにタスキを託した。
 アンカーの真鍋は辛い役回りだった。前を行くキダネ(エチオピア)はシドニー五輪5000m7位、ベスト記録は14分43秒53の選手。力の差は明らかで、差はどんどん開いていく。しかし、過去の例から見ても、エチオピアやロシアのトップランナーが、別人のようにひどい走りをすることがある。あきらめずに粘ることで、活路が開けるかもしれない。
「後半、なんとかしたいと、気持ちだけは前へ、前へと行っていました」
 それでも、エチオピアとの差は詰まらなかった――。
※その2に続く


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