2001/7/31
男子マラソン勢がエドモントンで会見 写真
富士通コンビの“違和感”発覚
森下、西田、油谷は順調


 男子マラソン5選手が10時から、マラソン・コースの一部であるWILLIAM HAWRELAK公園で記者会見を行なった。会見は、選手1人が1つのテーブルに座り、そこに記者が集まって話を聞く形式で行われた。ここにきて、藤田敦史と高橋健一の富士通コンビが、腰から脚にかけての違和感から、練習が不十分なことを明かしたのだ。

藤田敦史のコメント
「こちらに来て、よくないんですよ。いい状態とは言えません。右脚全体から、力が抜ける感じです(大八木コーチの話では、座骨神経痛で腰から脚全体にかけての違和感、とのこと)。痛みというより、違和感と言った方がいいんですが、歩くときはともかく、走るとちょっと、という感じです。路面の硬さからきているのかもしれません。走っていても、バランスがよくない感じです。メニューは特に変えていませんが、思ったほどタイムを追えていないのが気になります。
 練習ではずっといい状態でしたが、今思えば、無理をしたのかもしれません。福岡のあと故障が続いた分、負担がかかったのかもしれません。福岡のあと、左くるぶしの痛みが3カ月近く続きました。(今回の違和感も)それをかばって右脚に出た可能性があります。5月のゴールデンゲームズを欠場したのは、疲労から来る肉離れが原因。(ふくらはぎ?が)腫れ上がって足首が見えないほどでした。
 痛みが出たのは、西湖での合宿(6月末から7月頭)のあとです。神経系は初めての経験なのでやっかいです。ここまで来ると、当日どんな状態なのか、神頼みになってきます。神経系ですから、何かの拍子に治るかもしれません。骨ではないので、鍼の治療がいいかと思ってやっています」

 先週金曜日の成田空港出発時点まで、藤田自身は“違和感”のことを口にしなかった。ただし、大八木弘明コーチが「福岡を100とするなら60くらいの練習」と、不安を訴えていた。ただし、「藤田は集中力があるし、これまでそういう状況でも結果を出してきた。本番でどれだけできるか、やってみないとわからない」とも、話している。つまり、“スタートラインに着く時点で、結果のほとんどが決まっている”と言われるマラソンでも、選手のタイプによっては、練習以上の好結果を出すこともあるし、藤田はその典型ともいえる選手なのだ。

 藤田はこれまでも故障がちながらも、実績を残してきた。
「前回のセビリア(6位)は、あれだけ痛くても走り切れました。学生の頃から、こういう状態でも走ってきました。いかに投げ出さずに頑張れるかが、肝心です。ここで欠場したら、次がプレッシャーにもなります。(違和感を)隠しておいて本番が来てバレるよりも、話しておいて結果が出れば、すごいと評価してもらえます。
 やれることをやって、あとは当日、どうなっているのか。欠場は考えていませんし、出るからには勝負をしたい。レース前半はなんとかなるかもしれませんが、後半の勝負所でどうなるか。今の状態なら、暑くなって、我慢比べになったほうが自分にはいいですね。涼しくなってハイペースになると不利ですね。最低でも、今日くらいの暑さになってほしいですね」

高橋健一のコメント
「まずい状態ですね。疲労が故障に変わってしまって。右のお尻から腸けい靱帯です。痛みというより、力を入れたいところで入らなかったり、力を抜きたいところで抜けなかったり。距離を踏んでいると、だんだん痛くなってきます。
 7月に入ってすぐくらいからです、そうなったのは。ほとんど練習ができていません。最後に予定していた40km走もできず、20km走に変更したんですが、13kmから歩いて、やめてしまいました。7月14日までにいけたら、もう1回40kmをやりたかったんですが、いけなくて、30km走を2回という形になってしまいました。それも、なんとかごまかしてやったという感じで、スピードが上げられませんでした。余裕を持って1時間35〜36分で行きたかったんですが、1時間40分でめいっぱいでした。
 この状態になったら、普通のレースだったらやめていたと思います。やめようかと何回も思いましたが、レースがレースだけに、自分の判断だけでは決められませんし、スタートラインにはつきたいと思います。ただ、スタート後は、自分の判断でスパッとやめるかもしれません。こんな状態ですから目標は設定できません。完走が目標です。14分台で入られたら、離されるかもしれません」

 2人とも明るい話でないのは確かだが、1つだけ光明を見出すとしたら、「痛み」というより「違和感」という表現を、選手が使っている点だ。両者の違いは一見ないようで、実は明確にある。選手が「これはどうしようもない」というほどの痛みであれば、「痛み」とか「故障」という表現になる。逆に、「それほどでもないけど、ちょっと」という場合は「違和感」という表現になる。
 種目は違うが、朝原宣治(大阪ガス)が東アジアの4×100 mRで大事をとって欠場した際が、同じケースだったように思う。朝原は「ちょっとおかしい」「違和感」という表現だったが、筆者が「故障」という表現を使ってしまった。しかし、日本選手権までに朝原が立て直してきたのはご存じの通り。
 藤田のコメントをよく読んでみると、希望がないわけではなさそうだ。練習も、6月までの走り込みはできている。基礎となる部分さえできていれば、なんとかできるタイプの選手のはずだ。
 その点、高橋健一の方は、「痛み」に近いのかもしれない。これで、前半からぶっ飛ばす高橋健一の勇姿を見られないのは決定的となった。彼が、マスメディアを利用して、他の選手の裏をかこうとしているのでもない限り、高橋の“大逃げ”はなさそうである。

西田隆維のコメント
「こっちに来てからも、最後にいい刺激練習をすることができました。気分よく行かしてもらいます。結果はどうあれ、思い切っていきます。別大ではスタートラインに着いたとき、そこまでの自信は持てませんでした。自分は、練習がこなせなければ結果は出せないタイプ。その点、今回はしっかりやってくることができました。
 周りが強い人ばかりで、自分はあまり期待されていませんが、経験を積む意味でも勝負をしていきたい。健一さんみたいに飛ばすのでなく、先頭集団についていきます。
 敦史さんと一緒のレースは、大学3年の関東インカレ・ハーフマラソン以来。僕は2番でしたが、敦史さんにはダントツで離されてしまいました。以前は、レース前から敦史さんには勝てないと決めつけていましたが、今はどれだけ差が縮まったか、挑戦して確かめたいと思っています。差が縮まっているかどうかはわかりませんが、いつまでも以前のような気持ちでは、上に行けません。
 ただ、周りはみんな強い選手ばかりなので、誰がライバルとか特定せず、全員が競う相手だと思っています」

油谷繁のコメント
「24日にエドモントン入りし、今は時差ボケもとれ、普段どおりです。あとは疲れをとって、本番に備えるだけです
 びわ湖のときよりも、今回の方がいい練習ができたと思います。びわ湖も100%の練習ではなかくて、7分台が出せました。今回はもっと上かもしれません。痛みが出ても、差し支えのない範囲でした。
 レースが速くなっても遅くなっても、どちらでも対応できる練習をしてきました。15分ならいつも通りです。世界選手権は勝負中心ですから、びわ湖とは違ったレースになるとは思います。走って何らかの収穫があると思います。
 札幌ハーフマラソンは、思った以上にいい結果でした。日本人3番ですから、調子が上がっていると思いました。ハーフマラソンのあとも、40kmをもう1回やりました。実際は42kmで2時間28〜29分のタイム。40kmなら2時間20分台。練習の40km走ではいつも、そんなに速く走りません。最後も、上げても16分台です。
 好きなコースはフラットなコースですが、上り下りがあった方が、ポイントがあって仕掛けやすいと思います。フラットだと迷ってしまいます。今回も35km過ぎの橋(のアップダウンが)ポイントになるでしょう。あとは風がどうかですね。5月に試走したときも、風が強かったですから。
 楽しみ半分、不安半分の心境ですが、練習ができたので、楽しみです。緊張はしないタイプですので、マイペースで行きます」

森下由輝のコメント
「トレーニング自体はすべて、予定どおりこなせました。後半、暑さもあって、タイム的には設定より低くなってしまいましたが。蓄膿症などの心配はなく、元気にきています。
 夏場のレースは過去にゴールドコーストに1回出ていますが、それほど気合いを入れたレースではありませんでした。40km走も3〜4回でした。今回は3カ月で8回。タイム的にも、疲れなどの身体の状態的にも、びわ湖のときと遜色なくできています。それに、マラソン練習は40km走だけではありませんから。
 ただ、疲労はないのですが、動きがイマイチです。フォームではなくて、スピード練習をやったときのタイムの部分です。
 僕のレースは集団の中で我慢して、勝負所を見つけるのが、自分の走り。今回も変わったことをやるつもりはありません。集団が国内レースとは違って大人数になるかもしれませんが、20kmを過ぎれば同じだと思います。前半、変な位置にいて給水を取れなかったり、転んだりしないように気をつけたいとは思いますが。
 プレッシャーはありませんし、逆にすごく楽しんでいる感じです。30歳になっての代表ということで、そう思えるのかもしれません。早くに代表になるのがいいとは思いますが、今までやってきたことも無駄ではなく、こういう運命だったと考えています。チャンスが来るのは人それぞれだと思うので、それを生かすしかないと思っています」