2015/12/15 DeNAが下部組織「DeNA Running Club アカデミー」を設立
育成テクニカルダイレクターに両角速氏が就任
「既存のやり方の中で、その選手に先が見える設計図を示す」と田幸GM
田幸GMの危機感
DeNAが「DeNA Running Club アカデミー」を設立し、来年1月に東京、2月に神奈川とセレクションも実施していく(育成システムの詳細はDeNAサイト参照)。
育成テクニカルダイレクターに両角速氏が就任するが、「アカデミーのメソッド全体の仕組み作りなど、指導現場よりも全体に携わっていただく」(DeNAランニングクラブ責任者・西谷義久氏)というスタンスで、東海大における指導は現在となんら変わることはない。
現場指導はDeNAの田幸寛史GM兼監督を中心に、DeNAのコーチら複数のメンバーで行う予定だ。
アカデミー設立の一番の原動力は、田幸GMらの危機感である。
「マラソンの日本記録は2002年から止まってしまっています。私も“世界へ”の思いで指導をしてきましたが、現状のなかだけで努力をして届くのか? 実業団になってからだけの勝負ではなく、長い年月をかけて戦う必要があるのではないか、という思いが強くなってきました」
DeNAもケニアで合宿を行ったことがある。成果がなかったわけではないが、そこに生まれたときから住んでいる人間に勝とうとしたら、「早くから対策を練って取り組まないと届かない」(田幸GM)と強く感じた。
実業団の練習を高校生に施す、という発想ではない。
現在日本のトップレベルを指導していても世界に届かないことを、最も痛感しているのが実業団関係者だ。世界に届くための練習をシニアになったときに行うために、小学校や中学校世代で何を行うのが良いのか、道筋を示すための取り組みである。
両角氏と田幸GMの2人は、上野裕一郎(DeNA)を指導し続けて来た。
中学までは野球部だった上野を、佐久長聖高で両角氏が発掘して、1500mから1万mまで、高校トップレベルに育成した(1万mで当時の高校最高をマーク)。中大からエスビー食品、DeNAと上野とともに世界に挑んできたのが田幸GMだ。2009年には1500mと5000mで日本選手権に優勝し、5000mでベルリン世界陸上代表になった。
だが田幸GMは、同じチームのB・カロキ(DeNA)との違いを目の前で見てきた。
「上野とカロキは、ほぼ同じ力で指導をし始めましたが、カロキは今や世界で4番です(北京世界陸上1万m4位)。これを、上野個人の問題ととらえるか、日本全体の問題ととらえて策を講じる必要があるのか」
答えは明らかで、日本全体の問題なのである。
田幸GMと両角氏はともに長野県出身。連絡も密にとり、「上野の成長を検証することで、選手育成の成果と課題が見えてきた」と、田幸GMは言う。
「これを次の世代に生かすには、両角氏が必要なのです」
両角氏の思いも、現状を変えていくこと
両角氏は、田幸GMの熱意に応えて、今回の大役就任を引き受けた。
「東海大での指導が最重点であるのは変わりませんが、高校で16年間指導をし、6種目の高校記録を選手が出してくれた。世界に挑戦したい、という思いもありましたが、次の指導者にバトンタッチをしてきました(日本の長距離がそういうシステムになっている、というニュアンス)。
日本の駅伝はタレント発掘や、長距離競技の普及に大きく貢献してきましたが、そこが終着点であってはいけないと思います。指導者もその思いがありながら、3年から4年で責任を持って結果を出さなければいけない。3〜4年で燃え尽きさせてしまう指導になっている部分がなきにしもあらず、です。どの指導者もわかっているのですが、ヨコの部分(指導している数年間)で結果が求められ、タテの部分(将来的なところ)が難しくなっています。
今回のプログラムでは、選手を長く見られることがメリットです。日本選手が世界ユースや世界ジュニアで活躍できているのは、その年代の試合の数が多く、ボリュームのある活動ができているからだと思われます。その辺を長期的に、上手くコントロールしていくことが必要ではないかと。素質のある選手を早い段階で見いだし、その選手の晩年で力を発揮できるような仕組みづくりのできるプログラムを考えていきます。
現在ある形を大きく変えることは不可能ですが、疑問を投げかけたり、新たな方向性を示すことはできる。1つの提案をしていくことになります。そうした新たな考え方、システムの構築に賛同し、この場に立たせていただきました」
セカンドスクールとして存在
両角氏も指摘するように、現在の長距離界のシステムを大きく変えることは難しい。実際に選手発掘や普及において、駅伝が注目されることで大きな効果を挙げてきたのは確かである。
1万m27分台の人数がアフリカ勢を除けば世界で最も多い点や、マラソンの五輪&世界陸上で入賞を続けて来たことなど、世界標準でない日本のシステムが、世界のなかでも優れていることを物語っている。
ジュニア時代に世界と戦えるのも、インターハイを目指す過程でレベルが上がっているからだ。
田幸GMは「既存の(中学の)部活動にも所属しながら、セカンドスクールとして存在していきたい」という考えだ。
「環境は選手1人1人で違います。顧問の先生とお話ししながら、方針を決めていきたい。部活動がない学校であれば、DeNAのアカデミーでメニュー作りも含め、中学生としての範囲内で、活動方針をサポートしたい」
具体的な練習回数は、東京で週に2回、神奈川で週に2回を予定している。場所はメニューによって変わっていくが、東京なら織田フィールドや杉並区の競技場、神奈川は平塚競技場や東海大が候補だという。
来年1〜2月のセレクションはU15だが、いずれは高校生世代になっていく。高校で行うトレーニングとの兼ね合いはどうなっていくのか。インターハイなどで優勝や入賞を、目標とするのか。強豪高校の選手であれば、これまでは高校の監督の方針が絶対的だった。
「将来的に、シニア世代になって世界と戦うことが最終的な目標です。その選手が将来に向けての準備をするなかで、インターハイを狙えそうなら、そこを目標とすることは否定しません。既存のやり方と対抗するのでなく、既存のやり方の中で、その選手に先が見える設計図を示すことが一番の目的です。僕らが道案内をする役目を果たしたい。それが実業団指導に携わった者が、中学生・高校生を教えることの意味だと思います」
選手によっては、中学・高校の段階で高いレベルの記録を出すことがプラスになることもあるが、選手によってはあまり追い込んで記録を求めないことがプラスになることもある。その見極めをDeNA Running Club アカデミーのシステムのなかで行ない、選手と、選手の所属する学校に対して提案をしていく。
成果がはっきりと現れるまで10年近い年月がかかるかもしれない。
だが、2020東京オリンピックがゴールではなく、その後も世界への挑戦は続いていく。こうした長いスパンを覚悟した取り組みは評価されてしかるべきだろう。
日本のマラソン界の現状を打破し、トラックでもアフリカ勢に対抗していく試みとして、注目すべきプログラムがスタートした。
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