2013/10/1 日本郵政グループ女子陸上部創部発表会
ユニバーシアード金メダルの鈴木ら5選手が内定
監督に高橋昌彦氏が就任。「駅伝で頂点を目指す」


@タイプの異なる5選手が入社
 日本郵政グループが10月1日、来年4月1日に女子陸上競技部を創部することを発表した。監督には有森裕子、高橋尚子らの指導にスタッフとして携わった実績を持つ高橋昌彦氏が就任。選手としては下記の5名の入社が内定している。

柴田千歳(東学大←熊谷女高)
鈴木亜由子(名古屋大←時習館高)
藤田千尋(鹿屋体大←鳥取中央高)
佐々木明花(岡崎城西高):800m2分09秒02
関根花観(豊川高):3000m9分08秒48


 実績では今夏のユニバーシアード1万m金メダル、日本インカレも2011−12年と5000mで2連勝した鈴木が際立っている。
 だが、柴田も中学時代は全日中1500m2位(そのときの1位が鈴木)、高校2年時には世界クロスカントリー選手権代表になっている。
 藤田は1万mの九州インカレ優勝者。研けば光る可能性がありそうだ。
 関根は中学時代は全国都道府県対抗女子駅伝3区で区間賞を取り(東京都チーム)、現在は高校長距離トップチームの豊川高と競技エリート路線を走っている。
 佐々木は800mでインターハイ6位と、唯一の中距離選手だ。

 選手たちは増田明美さんとのトークセッションで、目標を次のように話していた。
柴田「2020年のオリンピックをマラソン選手として走ること」
鈴木「私はまだマラソンをイメージできないので、5000m、1万mでもう少し力をつけてからマラソンは考えていきたい」
藤田「私もマラソンで代表を目指していきます」
佐々木「800mでもっと記録を伸ばしていきたい。世界と戦える選手になりたいです」
※関根は試合を控えているため欠席

 国立大が3人、愛知県が3人という分類もできるが、国立大が多くなったのは「たまたま」(高橋監督)で、愛知県が多いのは高橋監督が大南博美・敬美姉妹らと名古屋で活動していたことが背景にあったのかもしれない。

 選手たちは午前中は勤務し、早朝と午後を練習時間に充てる。練習拠点は東京都小金井市周辺。国内、海外で合宿するのは既存の実業団チームと同様だ。
 タイムを持っている選手は来年4月の春季グランプリに参戦していく。

A高橋監督のスタイル

 高橋昌彦監督は@で紹介したように有森裕子、高橋尚子、大南姉妹と日本代表選手たちの指導に関わってきた。現佐倉アスリート倶楽部の小出義雄代表と東海銀行の竹内伸也元監督と、タイプの違う指導者の下でコーチングを学んだ。大南姉妹が競技人生を長く継続できたのは、高橋監督の手腕が大きかった。

 自身のコーチング・スタイルも固まっているはずだが、高橋監督から「こういう方針でやっていきます」的なコメントは聞かれなかった。鈴木について質問されたときに以下のような答え方をした。
「私が愛知をベースに活動していたので中学時代から見ていますが、一緒にやり始めてみないと彼女の状況、性格まではわかりません。本人の考えもあると思うので、一緒にやって、話し合って決めていきます。5人それぞれがタイプが違う選手たちです。トラック、マラソンと希望する種目も違います。中距離の子もいるので、個々に合わせた指導をしていきます」
 そういえば双子の大南姉妹でさえ、2人の特徴の違いを踏まえてきめ細かく指導していた。

 高橋監督はトライアスロン選手として鳴らした人物。日体大卒業後に中学教員、(プロ的な)トライアスロン選手、そして積水化学、UFJ銀行などのコーチを経て監督となった。
 監督となってからもUFJ銀行、トヨタ車体が廃部となり、早大の大学院修士課程に学んだ。そして2011年には東京電力(男子)の監督となったが大震災が起こり、活動らしい活動はできなかった。
 好んでそうしたわけではないだろうが、波瀾万丈の人生を送ってきた指導者だ。柔和な人柄で知られているが、芯の強さがなければ今日のポジションにはついていない。
 そういった経験があるからだろうか。選手にも気持ちの強さや社会性を期待している。

「(競技タイプは違っても、共通しているのは)実業団に入ってのびしろのある選手たちを採用しました。その辺の見極めは難しいのですが、実業団は高校・大学とレベルが違いますから、実業団の練習に気持ち的にも体的にも耐えていける子だと判断した選手たちです。会社からは(社会人としての)期待もかけられています。午前中は勤務しますし、選手を終えてから仕事もできるような人間となってほしい」

B西室社長が強調した郵政事業との“親和性”

 陸上部創部の理由に関しては、日本郵政グループと駅伝の“親和性”という点が強調された。西室泰三社長は創部の理由を以下のように話した。
「日本郵政グループは郵便、銀行事業などユニバーサルサービスを全国にあまねく提供し、日本社会、地域に貢献するのがつとめです。そのためには我々の郵便局ネットワークをさらに強固にしていく必要があり、日本郵政グループ社員全体の士気高揚、一体感を醸成するために企業スポーツとして女子陸上部を創部いたします。日本郵政がサービスを始めたのは明治4年ですから今年で143年になりますが、その間、スポーツの実業団活動をしたことは一度としてありません。今回初めて活動をするにあたり、一番の根幹事業である手紙をお届けする、郵便をお届けすることと“親和性”が高い陸上競技、駅伝を行っていくこととしました。継続的に日本社会、地域に貢献する決意を表す1つの方法として、今回の創部は極めて********(録音音声聞き取れず。意味があるというニュアンス)なことです。実業団スポーツをする企業としては新参者ですが、全面的にバックアップして育て上げていきたい」

 高橋監督は大きな目標を2つ掲げた。
「1つめとして、駅伝で頂点を目指すチームを作っていきます。駅伝はタスキに込めた皆の気持ちをより速く、確実に伝えていく競技です。郵政事業との“親和性”も高く、駅伝で頂点を目指すのは意味のあることです。2つめとして、世界と勝負できる選手を育てていきたい。それは駅伝強化にもつながりますし、日本の強化にもなる。さらに、選手自身の夢の実現となります。2020年のオリンピック東京開催が決まりましたが、2021年には創業150周年を迎えます。監督として2年にまたがり大きなイベントがあるわけですが、2つの目標をぜひとも達成したいと思っています」

 入社内定者は現在5人だが、3年以内をめどに12名程度にする予定という(コーチ・マネージャーも2名程度を採用予定)。「駅伝をするには6人では不安」(高橋監督)ということで、来春までに加入選手が増える可能性もある。「ただ、数だけ合わせればいいとは考えず、2〜3年後を見て採用していきたい」

 実業団スポーツ存続の難しさも指摘される昨今だが、日本の駅伝・マラソンは社会的注目度が大きく、今回のようにビジネス的な部分以外の効果も期待できる。
 陸上部を持つことの費用対効果はどうなのか? という質問も出たが西室社長はこう答えた。
「経営的に費用対効果を考えて実業団スポーツをやることは正しい方向ではない。社会への貢献、従業員の士気高揚など、全体的なムードを盛り上げるのが創部の理由です。そして、新しい力が私たちの会社のなかにもたくさんあると示したい。経営にプラスになると思って始めるわけではありません」
 財界のトップがこのような考えを持つことは日本のアドバンテージである。経営者の考えが変わったらそれまで、という側面もあるが、そうならないための努力を陸上界として継続していくべきで、モデルケースとなる実業団チームはいくつもある。
 それと同時に、企業に頼らない方法も積極的に考えるべきだろう。駅伝・マラソンの注目度が高いうちに、日本社会にマッチした新たなシステムを生み出す方向も探っていきたい。


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