2010/3/29 
朝原さんらが中心となって設立
アスリート ネットワークが本格始動

「自分たちが成長した過程で経験した“本物の感動”を子どもたちに伝えたい」

 朝原宣治さん(大阪ガス)と柳本晶一さん(バレーボール女子日本代表前監督)が中心となって設立を進めていたアスリート ネットワークが、3月29日に正式に発足した。
 すでに2月から活動を開始していたが、この日は大阪市中央体育館で「キッズドリームスポーツチャレンジinおおさか」と銘打った小学生を対象としたスポーツ教室を開催後、追手門学院大阪城スクエアに場所を移して設立総会などを行なった。

 キッズドリームスポーツチャレンジinおおさかには陸上競技、テコンドー、バレーボールの3競技の小学生が100人以上参加。競技別のクリニックではなく、小学生全員が3競技の指導を受けた。
 最初は陸上競技の朝原さんと小島茂之さん(アシックス)がウォーミングアップからストレッチ、ドリル(動きづくりというよりも敏捷性や巧緻性を養成するもの)などを行なった。空中での脚交差や両手回し走など、子どもたちが飽きないようなメニューが中心。小島さんが披露した高速スキップにはため息が漏れていた。
 最後には2組でダッシュも行い、朝原さんも子どもたちにまじって相変わらずの健脚ぶりを見せていた。

 続いて岡本依子さん(シドニー五輪7位)が中心となりテコンドーの練習。蹴りや突きなどを全員が経験した。最後はバレーボールで、柳本さんが打つスパイクを他競技の小学生も次々にレシーブしていった。陸上競技の子どもたちは尻込みしていたが、朝原さんが飛び入りで参加すると後に続いていた。
 競技の垣根を超えて指導をする理由を柳本さんは「せっかく3競技が同じ場所に集まった。違うところに目を向けるのも勉強になるはず」と説明する。朝原さんは中学時代のハンドボールのジャンプシュートの感覚が、走幅跳の踏み切りの感覚と共通していたと話していたことがあるが…。「そういうヒントもあるかもしれませんが、とにかく色々な経験をすることがプラスになる。たぶん、今日テコンドーをした子どもたちは初めてだったと思います。そういう機会をつくることが重要なんです」

 クリニック終了後にはアスリート ネットワークのメンバー6人が、自身が競技に取り組んだきっかけや成長過程をトークショー形式で話していった。
 柳本さんは中学でバレーボールを始めたが、一緒に入部した友人たちのなかで唯一レギュラーになれなかったという。親にも野球をやっていると嘘までついていた。ところが1964年の東京五輪を見て「背中がゾクゾクした。すごい感動をした」という。それがきっかけで打ち込み方が変わり、10年後にはナショナルチーム入りした(1976年のモントリオール五輪代表)。
「人間、どこかで必ず変わるところがある。動機はどうであれ、出会った瞬間を大事にしてほしい。ただ、ここにいるメンバーに共通しているのは、夢を求めて継続したこと」と小学生たちに説いた。

 大阪城スクエアに場所を移し、18:30からは設立総会が行われ、理事と規約などを承認して任意団体として正式にスタートした。
 柳本さんが理事長、朝原さんが副理事長に就任。奥野史子さん(シンクロナイズドスイミング)、巽樹里さん(同)、岡本依子さん(テコンドー)、寺内健さん(飛び込み)、小島茂之さん(アシックス)が理事に就任した。その他30名前後の世界大会経験者が参加する予定だという。
 設立趣旨や活動目的、具体的な活動予定などはアスリート ネットワークのサイトを見てほしいが、柳本さんと朝原さんが強調していたのは「自分たちが成長した過程で経験した“本物の感動”を子どもたちに伝えたい」という点。
 朝原さんは「1つのきっけけになるのが感動だと思います。アスリートたちも感動を重ねて大きくなりました。僕らと触れ合うことで、“よし、やろう”と思ってくれれば」と言う。
 “よし、やろう”と思って目指す先には、必ずしもトップ選手になることでなくてもいい。
「子どもたちが自分のやることに希望を持てればいいと思うんです。僕らの活動でやる気が出て、子どもたちが元気になれば」

 朝原さん自身も、アスリート ネットワークの活動や多くのトップ選手と交流することで自身をさらに高めていきたいという。2008年秋の引退後も多くの活動をしてきたが、自身が活動の場を創出したのはNOBY TRACK&FIELD CLUBとアスリート ネットワークが初めて。朝原さん自身も新たな希望を持って一歩を踏み出した。


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