2009/4/7 高平&塚原会見
塚原が9秒台に意欲
ジャマイカ式の走りに手応え
それを、あえて口にした理由は?

 4月7日、富士通のスポーツ選手たちが新入社員を前に祝辞を述べた。その後に行われた今シーズンに向けた会見の席上、塚原直貴が100 mの9秒台に意欲を見せた。意欲には違いないのだが、9秒台への手応えを強調した感じだった。

 今季の目標記録に関わる部分の一問一答は以下の通り。
Q.タイムなり、世界選手権の順位の目標は?
塚原 10秒0台を出したいというか…、10秒を切りたいです。
Q.9秒台ということですか?
塚原 はい。そういう意味で大事な年なんです。
Q.その手応え、確率は?
塚原 言えるのは、出るときに出せるということです。出せるときに出す、と言いますか。狙って出すのが筋かなとは思いますが、前倒しで出せそうなら、そこで出します。具体的にいつになるかは、まだレースを走っていないのでなんとも言えませんが、感覚的に優れたものが身についたのは確かです。10秒0台を安定して出せるようにしたいですね。ビッグマウスでなく、有言実行となるようにしたいです。

 冬期練習の内容や、昨年まで悩まされたアキレス腱痛がよくなっていることが、上記のコメントから推測できた。具体的にはどういったところに手応えを感じていたのか。

Q.1月の陸連公開練習の際に、ジャマイカ流の走りをやっていると話していましたが、その手応えは?
塚原 あれは良いですよ。6割くらい、レベル6くらいですが。自分の走りは結構、変わっていると思います。試合でご披露できればと思っています。
Q.空中でタメをつくる感じですか。
塚原 僕の中では接地の感じがすごく長い。以前はスタートから30〜40mまでのダッシュの区間で、動きを俊敏に、回転をめちゃくちゃ上げて進む感じでした。次から次へと情報が入って、次から次へとやっていく感じで。今は、そこがゆっくりで、焦らなくても以前と同じスピードで進んで行く。なおかつ後半で、(前半で)余裕がある分、余裕で走ることができるんです。
Q.前半でエネルギーを貯めている?
塚原 貯めているというわけではなく、十分に押しているけど無駄遣いはしていないのだと思います。無駄をしないで効率的にやっていく感じですね。
Q.それはピッチが遅くなったとか、ストライドが大きくなっているというような、バイオメカニクス・データなどもあるのですか。
塚原 ありますね。これからシーズンが一番乗ってきたときの状態になれば、以前と同じようにピッチが上がってきます。それにプラスアルファでストライドがくっついてくる。今はあえて、ピッチを抑えめにしてやっています。待つ感じといいますか、準備動作をつけて走っている感じです。
Q.アキレス腱の痛みは?
塚原 OKです。ジャマイカ・スタイルは(これまで以上に)しっかりと乗り込む動きなので、ヒザ下が楽になっています。足首にギシギシ感はありますが、それも山を越えました。去年みたいにこぢんまりした、ピッチで持っていくスタイルではないですね。

 現時点での塚原のベスト記録は10秒15で、9秒台に入るには0.16秒の記録短縮が必要となる。それが簡単にできることでないことは、塚原自身、十分に認識しているはずだ。
 それに塚原はこれまで、記録的な目標に関しては控えめな話し方をする方だった。昨年の入社時の会見では
塚原「オリンピック・イヤーということで記録も求められますが、僕の中の計画では、1年目は土台をしっかりと作りたい。10秒1台から10秒2台前半のA標準は最低ラインですが」
 という話し方だった。
 その前年、自己新記録を出したとき(大阪の世界選手権直後という記録の出にくい時期だった)も同様に、上ばかりを見ないで、というコメントをしていた。記録はいきなり伸びることもあるが、それは期待しない選手だった。
 塚原を指導する高野進コーチもよく、実力以上の記録が出てしまうとその記録に苦しめられる、というニュアンスの話をしている。

※ここからあとは、筆者の感想です。
 その方針を覆したといっていい今回の発言。その真意をはかるのは難しいが、筆者は2つの可能性があると思っている。
 1つは単純に、現時点の手応えがそのくらいに大きいという可能性。
 もう1つは先輩の末續慎吾(ミズノ)が2003年にやったパターンを踏襲している可能性だ。
 末續は社会人1年目の同年、シーズン前から「世界選手権のメダルが目標」と公言していた。2000年シドニー五輪、01年世界選手権と準決勝に進み、期待の選手であるのは間違いなかった。だが、決勝には一度も進んでいなかった。普通なら“決勝進出”を目標とするところだが、あえてメダルと公言した。
 末續も頭の片隅では、メダルが難しい目標であることは理解していたはずだ。しかし、あえてそれを口にすることで、本気で思い込もうとしていた。大きすぎる目標を口にすることが逆効果となることは多い(ほとんど、かもしれない)。だが、2003年の末續はそれがプラスに働いた。
 選手には、そういう時期があるのかもしれない。乗っているときに、行けるところまで行っておく考え方だ。オリンピック翌年は、次のオリンピックを目指すために足元を固めるという考え方をする選手が多いが、塚原は「大事な年」と言っている
 23〜25歳は1つのピークが来る年齢でもある。そういったところを感じ取った塚原があえて、本気で強気になってシーズンに臨もうとしているのかもしれない。


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