2008/4/1
塚原が短距離の名門・富士通に入社
高平とともに“富士通記録”に挑む??
2007年末時点の男子100 mと200 mの日本歴代リストは以下の通り。伊東浩司(現甲南大女子監督)の10秒00と20秒16が、日本記録と歴代2位に燦然と輝いている。そして、この2つが富士通記録となって丸10年が経とうとしている。“そろそろ”という雰囲気が、ないこともない。
100 m日本歴代 200 m日本歴代
10.00 伊東浩司 富士通 1998/12/13 10.02 朝原宣治 大阪ガス 2001/7/13 10.03 末續慎吾 ミズノ 2003/5/5 10.11 川畑伸吾 法大 2000/9/2 10.13 田島宣弘 日体大 2003/5/5 10.15 塚原直貴 東海大 2007/9/16 10.19 窪田 慎 ゼンリン 1998/10/4 10.20 井上悟 日大 1991/5/17 10.20 小島茂之 早大 2000/7/2
20.03 末續慎吾 ミズノ 2003/6/7 20.16 伊東浩司 富士通 1998/10/2 20.29 大前祐介 早大 2001/6/30 20.35 高平慎士 順大 2006/5/21 20.35 塚原直貴 東海大 2006/5/21 20.38 朝原宣治 大阪ガス 1997/7/13 20.46 藤光謙司 日大 2006/5/20
午前中の入社式に出席した塚原直貴(東海大出)が、同じ日(4月1日)の午後、1学年先輩の高平慎士とともに、記者懇談の場に臨んだ。リラックスムードも幸いし、技術的なこと、トレーニングメニューのことなど、かなり突っ込んだやりとりが記者団との間で行われた。
しかし、記録の話はなぜか、終了時間が来る直前まで出なかった。最後に、「2人ともいずれは富士通記録更新が目標なのか?」という質問が出た。高平、塚原とも富士通記録という言葉自体に、ピンと来るものがなかったような反応だった。
高平「(20秒16を)見ていないことはありませんが、僕としてはまず、大前さんの記録(20秒29)を抜いて、歴代3位に上がりたい。そうしてから、その上の2人を目指したいと思います」
塚原「……」
特定チームの最高記録という認識の仕方ではなく、日本記録と日本歴代2位という認識の仕方をしているのである。現役スプリンターにとって伊東の記録は、そのくらいにレベルが高いものなのだろう。
メディアやファンには、好記録を出した選手が現れるとすぐに、レベルの高い結果を期待する傾向がある。男子短距離なら、日本新記録や世界大会の決勝進出を目標とするコメントを求められる。富士通コンビもそれに該当する選手だろう。
高平は200 mで現在、末續に次ぐ2番手のポジションをしっかりとキープしている。大学2年時にオリンピックに出場した点も同じ。末續の実績に追いついて欲しい、そういう取り組みをして当然だ、と周囲は決めつけてしまう。
塚原も同様で、伊東・末續は同じ東海大の先輩。末續は実業団1年目に日本記録と世界選手権のメダルを手にしている。比べられ、期待されやすい立場といえる。そういった期待に応える気概も必要な部分だが、自身の取り組みに根拠がないのに「やってやる」と思ったら、俗にいう空回り状態に陥り、自身の首を絞めるだけだ。
富士通記録の話題の前に、今年の目標記録を質問された2人は、次のように答えている。
塚原「オリンピック・イヤーということで記録も求められますが、僕の中の計画では、1年目は土台をしっかりと作りたい。10秒1台から10秒2台前半のA標準は最低ラインですが」
高平「具体的には、去年の日本選手権で末續さんが走ったとこ(20秒20)くらいはやりたいのですが、20秒4台を3回くらい、20秒3台を1〜2回出して、土台をしっかりと作れた上で20秒2台を出せればと思っています。それがオリンピックの舞台だったら、なお、良いです。アテネ五輪を見たら20秒2〜3台でどうこうとは言えませんが、その辺を出せば何かが見えてくると思います」
塚原は卒論に時間を割かざるを得ない状況になり「1カ月弱、練習がとどこおってしまった」ことと、「先週の陸連合宿の最後2日目で左アキレス腱を痛めた」ことで、慎重になっている部分もある。そうなのかもしれないが、元々、一気の記録更新が、必ずしも良いこととは考えない選手。絶好調だった昨年のシーズン終盤に、世界選手権を振り返って次のように話しているのだ。
塚原「何もかも全てが新しい経験でした。ここから、世界に向けてコツコツと、思い切りジャンプすることなく、普通に駆け上がっていきたい」
絶好調の真っ最中に、自身の足下を見たコメントをしていたのが印象深かった。
幸い、そこまで高いレベルの記録を出さなくても、4×100 mRでは戦っていける感触を2人とも持っている。
塚原「最低でもA標準以上なら、リレーに結びつきます。しっかりと走れる」
高平「(20秒2〜3をオリンピックで)出せば見えてくるものがあるし、リレーにも生きてくると思う」
よくよく分析してみれば、アベレージを10秒2前後にするというのは、朝原や末續の良い状態の時期を僅かに下回るくらいのレベルである。
選手である以上(富士通に入社した以上?)、将来的に日本記録(富士通記録)更新が夢であるのは間違いないだろう。だが、道筋が見えていない今の時点で、それを口に出すことは得策ではない。「富士通記録は?」という問いかけに「絶対に出しますよ」と答えなかった塚原の方が、実は期待ができるのではないか。
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