2002/3/8
陸マガ記録集計号発売目前
集計号と野口みずきのコラボレーション


 本日(3月8日)、陸上競技マガジン3月号増刊・2001年記録集計号を入手できた(3月11日発売)。表紙はこの4人。高橋尚子(積水化学)は98年、2000年に続いて3回目、室伏広治(ミズノ)も98年、99年に続いて3回目の表紙への登場となった。
 記録集計号は、田辺清一先生、千田辰己氏、野口純正氏ら日本のATFS(世界陸上競技統計者協会)会員の方たちの労作である。陸マガ時代からお世話になり続けている方たちばかりで、野口氏にいたっては13年間、編集部の先輩でもあり上司でもあった。
 野口氏は日本陸上界の“記録集計のカリスマ”であり、各種の記録編纂を始めたのは小学校時代からというキャリアは、他の追随を許さない。これも小学校時代の話だが、野口氏の遊びは全て“陸上ごっこ”であったと聞く。あるいは陸上競技自体が氏の遊びだったようだ。今でも彼の故郷である兵庫県淡路島に行くと、氏が小学校時代にストップウォッチを片手に走ったバス路線の道路が、“野口ロード”として語り継がれている……(多少の誇張あり)。

 さて“野口”といえば、順大の野口英盛が3日のびわ湖で、2時間11分台の好走。初マラソン日本歴代10位にランクインした。この2人の間に血縁関係はない(と思う)。“野口”といえばさらに、グローバリーの野口みずきが今度の日曜日(明後日)、名古屋で初マラソンに挑戦する。この3人の間にも血縁関係はない(と理解しているが、寺田が知らないだけかもしれない)。目標は渋井陽子(三井住友海上)の持つ初マラソン世界最高、2時間23分11秒とか。楽しみである。

 記録集計号の日本100傑は田辺先生の頑張りで、パフォーマンス50傑(1選手1記録をカウントするのが50傑や100傑。パフォーマンスは同一選手の記録でも、とにかく出た記録を全部カウントしたもの)が収録されていて、これを見るだけでもその種目の1年間が、手に取るようによくわかる。そして、野口みずきはハーフマラソンでパフォーマンス上位3傑を占めているのである。
 なぜ、このことを取り立てて言及したか?
 結論から言うと、ハーフマラソンはトラック種目と同じ、あるいはフィールドも含めた一般種目と同じ特性と言ってよさそうだと、このことから論証(というほどのものでもないが)できるのである。

 これまでもことあるごとに、マラソンは優勝者予想が難しいと言ってきた。世界選手権やオリンピック、あるいは日本選手権でもいいので思い起こして欲しい。100 m、200 m、1万m、110 mH、400 mH、走高跳、走幅跳、砲丸投、ハンマー投、そして混成競技も、優勝者は何人かに特定できる。傑出した選手がいる種目なら1人とか2人にまで絞ることも可能だ。ところが、マラソンではそこまで絞ることができない。
 これは、マラソンが1レース1レースで、出来不出来の差が大きいことにも起因する。高橋尚子やかつての瀬古利彦(現エスビー食品監督)のように、5レースも勝ち続けるという選手は、世界中を見わたしても皆無である。その点、100 mのグリーン、400 mのジョンソンなど、大本命がいたり、前述のように優勝候補を絞り込めるのが、通常の陸上競技の種目なのである。
 個人的な意見だが、オリンピックや世界選手権の全種目の優勝者予想を行うが(寺田もシドニー五輪前に某テレビ番組系の雑誌でやりました)、マラソンだけは“特殊種目”として別枠にしてもらいたいくらいである。

 さて、そんな事情もあり、また、マラソンは年間に出場できるレース数が1試合から多くても3試合という事情もあり、パフォーマンスリストの上位に同一選手の名前が複数出ることはまれである。それも、上位独占となると、ほとんど不可能である。
 その点、男子100 mは朝原宣治(大阪ガス)、200 mは1位こそ大前祐介(早大)に譲ったとはいえ2番目から9番目を末續慎吾(東海大)が占めている。同じ世界選手権セミファイナリストの藤本俊之(東海大)でさえ、10番目にやっと食い込んでいるに過ぎない。1万mは高岡寿成(カネボウ)、110 mHは2番目に浅見公博(佐川急便)が入っているがほとんどは内藤真人(法大)、400 mHは為末大(法大)、砲丸投は野口安忠(コニカ九州)、ハンマー投はもちろん室伏広治(ミズノ)、やり投は村上幸史(日大)が占めている。跳躍種目がやや混戦気味だが、強いて言えば走高跳は内田剛弘(福岡大)、棒高跳は横山学(百十四銀行)の年だった。
 女子は例を出すまでもないだろう。400 mの柿沼和恵(ミズノ)、5000mの福士加代子(ワコール)、100 mHの金沢イボンヌ(佐田建設)、400 mHの吉田真希子(福島大TC)、砲丸投の森千夏(国士大)、円盤投の中西美代子(ミキハウス)、そしてやり投の三宅貴子(ミキハウス)。走高跳も2001年に関しては、今井美希(ミズノ)が明らかに太田陽子(ミキハウス)を凌駕していたし、走幅跳も日本記録こそ花岡麻帆(オフィス24)が出したが、パフォーマンスでは池田久美子(福島大)が優勢だった。

 この傾向と野口みずきのハーフマラソンのパフォーマンス上位3傑独占を見ると、ハーフは1万mの2倍の距離があるが、種目特性としてはマラソンよりも一般種目に近いと言えるのかもしれない。

 だが、果たしてそうと断定してしまっていいのか。ハーフが一般種目と同じなのではなく、種目特性としてはマラソンに近いが、野口みずきが特殊なのではないか(飛び抜けて強いという意味)。もしもそうなら、野口は種目特性が違うマラソンでも同様に、他選手とは違った安定した強さを発揮できるかもしれない。
 しかし、あの弘山晴美(資生堂)でさえ、「トラックは練習から結果が予想できるが、マラソンはそうなるまでが難しい」というニュアンスのことを話していた。また、ちょっと以前だが「1万mを走れる選手なら30kmまでは走れる(が、マラソンはわからない)」と話してくれた指導者もいた。

 このテーマに対する答えは、野口がマラソンで出していくしかない。そういった意味でも、明後日の名古屋は注目される。集計号があれば、競技観戦がよりいっそう楽しめることの一例である。